第5話

 「ヒロキさん、今日もご馳走になります」

 「いえいえ、野営の準備お願いしますね」


 はい、ヒロキです。今は馬車で隣町のリンドーンへ向かう途中です。俺は酒商人の息子という体裁(てい)でふんぞり返っています。動物や魔物を捌くのとか嫌を通り越して無です。血とか…… おいおいなんだよ何で動物の体の中にピンポン球みたいな器官があるんだよ…… ウッ……




 …… この世界は江戸時代のように景気付けという感じで酒をひっかけるようで、どう見ても地球でいうと100円とか50円のヤバイ目のポートワインをゴブリゴブリといきよります。はい、危ないです。


 冒険者や肉体労働系の仕事をしている人間は飲まなきゃやってられんと言う事かな?こういう酒で死んでいる人もいるだろうね俺にはわかる。知ったかぶりは時として優秀なのだよふふふん。


 そこでこの世界の酒を全て持っていると言っても過言ではない私の出番です。

 全てではないというのは、あの時・・・ストレージに惑星のものは全て入れたけど人が手に持っていた物(サケ)は取得出来ていないはず。


 惑星が消えた時にぶつかり合った人々が服を着ていたからね。持っているものも当然。。かな?


 まあそれは置いといて。この旅の途中に俺はストレージ内の酒を格安で振る舞っている。



 酒パワーで嫌な事はしたくないし、しなくていい状況なのでいいじゃない! 異世界物で魔物の解体とか練習する描写があるけども俺にはホラ金ありますしね!


 ええ、解体した後の素材とか肉とか持ってますしね!ええ!



 嫌な事から逃げる大人、プライスレスと納得していたら警護の順番から酔った冒険者と商人からオトクな情報を得た。こういう情報は物資ではどうにもならないから助かる。【ワールの日記】で調べるにも検索ワードがなければピンポイントで知ることが出来ないからね。



 一番に実りがあった話はスクロールについてだった。

 「へー、スクロールにはそんな使い方が…… 」

 「おうよ、金持ちの貴族の子供が強い魔法やスキルを持っている理由がそれだ」



 普通は、魔法を使うならば魔法使いや教える才能のある人間に教わり基礎を知る。そこから熟練度を増す為に何度も何度も同じ魔法を撃ち修練を重ねて魔法を強くまたは重厚にする。


 「そうですヒロキさん、スクロールを複数持っていたら重ねてスクロールを使うと熟練度を嵩(かさ)増しできるんです」


 商人のおっちゃんのコップに俺が高そうなワインを酌(しゃく)すると赤ら顔で続ける——— この国の公爵は代々と炎の魔法を使う事がトレードマークになっていて、第一子男児が産まれると火のスクロールを買い漁るという。


 事実…… なんだろう、この馬車に乗り合わせた武器商人の手代(てだい)が酒と肴に出したチーズを交互にして、うっつらうっつらとしながら笑顔でその言葉に肯いている。子供を騙そうとする雰囲気じゃない。


 「金持ちは羨ましいなぁオイ! 」

 「あなた達、冒険者は魔法や剣のスキルが数段上がると考えたら嫉妬して当然ですわな」

 「おうさ、ところで剣技のスキルスクロールって取り扱ってる? 」

 見張りの交代が終わり話に加わった30代の冒険者が商人に指先で輪っかを作り聞く。この世界ではお金のジェスチャーはこれなんだな。日本ではオッケーのポーズのアレだ。


 「取り扱っていますよ! えっと1枚の基本の剣技のスクロールで大金貨3枚です」

 「ぶ————————— っ! 」

 

 思わず飲んでいたミルクを吐き出してしまった。未成年だから酒を止められたんだよ言わせんなよ。

 大丈夫、大丈夫、値段に驚いて咽(む)せただけですゴメンなさいと酒を囲む皆に謝る。



 ソバの町で買い物している感覚でいうと

銅貨は一枚100円ぐらい、


銅貨10枚で銀貨一枚、

1000円

銀貨10枚で金貨

一万円

金貨10枚で大金貨

10万円


つまり基本中の基本の剣技のスクロール一枚で30万円するってのかよ……


 ストレージ「基本の剣技のスクロール 25600000個」そう剣技のスクロールだけでも二千五百万枚以上の余分があるぞ……


 やべぇな…… 鑑定とかの値段いくらになるんだ


 もうね、汗ダラダラです。冷や汗と脂汗をかいてしまいますよ。もともとは俺のストレージにある物は他人の物ですからねえぇ、、、 しかし…… 簡単に強くなれるなら望むところだしリンドーンに着いたらスクロールの消化祭りだな。 


 鑑定とか限界まで熟練度を上げたいし魔法や武器のスキルも…… はぁ…… いったい何時間かかるやら……


 

 それから野営の度に狩とか時間が無駄なので栄養(俺、提供)、酒(俺、提供)のイベントリ頼みでの馬車旅は贅沢に余裕に過ぎリンドーンに問題なく到着した。


 馬車の旅では大盤振る舞いしたおかげで、少しぼったくりな感じもある豪華な宿屋を馬車に同乗していた武器屋の手代に紹介してもらえたのがよかった



 宿屋…… というかホテルかな?

 ホテルはリンドーンの町の中央付近にあった。この町の北側には観光地にもなっている綺麗な湖がありその清流をつかい農耕もさかんで、一番の特産としては周囲にサトウキビに似たような植物が栽培され砂糖の精製が盛んな町だそうだ。



 人も観光客も多く宿泊施設は安宿から高級なものまである。俺が紹介されたホテルはリンドーンで1番の最高級なホテルだぜやったね。


 「すみません、紹介してもらったんですが宿泊できますか? 」


 ロビーで商人からの紹介の証(サイン)を見せるとチェックシートをスッと出される。書けって事?


 ガシガシと書いて感じ悪いなぁと提出すると、俺の記入した年齢と服装を一瞥(いちべつ)して日本の超高級ホテルのスイートルーム並みの値段を提示してきやがった。


 追い返そうとしたんだろうが、そうはいかない。

 「じゃあまず、2か月お世話になります」

 「え? 」


 ジャラララ〜っと金貨をイベントリから取り出して提示された宿泊費より多目に渡すと、バックヤードから様子を見ていたんだろう主任(チーフ)っぽい男がニコニコと現れて俺の斜め前を歩き部屋の中まで先導してくれた。



 「えっと、父への仕事の手紙を纏(まと)めるのと商品の確認、書類の整理をするので部屋を覗かないでくださいね? 」

 「… はい、ベッドメイキングと清掃はいかが致しましょう? 」

 俺の見た目が子供だからか考えを隠す気もなく煤(すす)けたように『疑い』を向けてくるぜ。なんだぜ。めんどくせーぜ。まぁ【部屋に入るな】と言われたら疑うのもしゃあねーなー!


 「はい、ではベッドメイキングして欲しい時にはまた声をかけますね、これチップです。」

 「こっ…… !っ、、はい、また何なりとお申し付けください」


 イベントリの中にある皮袋に入っていた金貨をそのままチップとして渡すと、その中を覗き驚いた後に艶々(つやつや)とオッサン笑顔を見せスンッと上品に主任(チーフ)さんは部屋から退出した。建て付けいいなここ。ドアがバタンと鳴らなかったよ


 まぁ、ロビーで渡した部屋代より明らかに重い金袋をチップであげたんだから問題ないだろう。うはっ俺ってば金の使い方が荒ぇぇーーっ!イベントリの中にある残りの金からしたらチリ紙以下の消費だけどね。



 さてさて、とザッと部屋を確認するとホラあれだテレビの高級ホテル特集にあるようなthat's richでスーパーなセレブが泊まるような白の大理石と木の融和的な、いや適当だから分からないけど。なんか凄い。

 建て付けのテーブルとか角が面取りされて凄いツルツルだわ。


 部屋は4部屋あって全部の部屋が田舎のコンビニみたいに広いよ。逆に広過ぎて寂しいぜ俺は弁当を詰める時にギューギューに隙間なく詰めるタイプだ。そうさ万事(ばんじ)で貧乏性なのだから落ち着かない。


 「はぁーっ、まぁ機密性はありそうだし…… まあいっかな我慢ガマン」


 なんでホテルの部屋に会議室があるのかは不明だけど、その部屋でとりあえず鑑定のスクロール100枚を床に重ね揃えて出してみる。


 「…… 結構な厚みだな…… 一枚の厚さがダンボールぐらいある…… いやダンボールよりちょい薄いくらいかな? 」

 子供の体格になっているから100枚重ねたら太腿の辺りまでくるね。 


 よし、いっちょやりますか!


 ソバの町では初めは血を使ってスクロールを習得していたけど、さすがに毎回ゆびに針を刺すのは痛いし血を出したくなかった。そこで【魔力操作のスクロール】をソバの町の宿屋で覚えて魔力によりスクロール習得を展開できる能力(アビリティ)を得て、未明に至るまで【ワールの日記】と睨めっこしながら幾つかのスクロールを習得していた。



 「ふん! 」

 気合い一発、空手の掌底での瓦割りのように重ねたスクロールに魔力を込めて習得するとする。


 いや空手やってないからイメージだけども。


 シャンシャンシャンシャン! というスクロールを連続で消費する音、それに連続して習得するのだから目の前にいくつもの裸電球が現れたように爛々と輝き光が目が焼けそうなぐらいに眩しい。

 

 目を瞑(つぶ)りグイッと魔力を込めてスクロールに押しつける手に力を入れて床方面に押しつけていくと薄氷を割るように一枚ずつスクロールが砕け消えるような感覚が連続で続く。


 うほほぉ————————— い! スクロールの連続取得気持ちえぇぇぇ—————— !!クセになりそう!


 「っ…… と? あれ? 」

 快感の途中でピタリと【鑑定のスクロール】の習得が不意に終わる。

 足の踝(くるぶし)辺りで体に吸収されず、魔力にも反応しなくなった。


 光でボヤける目を開けると11枚、【鑑定のスクロール】が足下に残っている。

 「んん!? なんでだ? 」


 偽物か? いやいや、ストレージをくれたのは神様だし表記ミスは無いだろう。

 「んんー? せっかくだから[鑑定!]」


 足下のスクロールに向けて[鑑定]スキルを放つとこれまで使っていた[鑑定]とは全く違う文字が拡張現実ARのようにスクロールに張り付く。



 「なになに…… 鑑定スクロール…… の注釈はいいか、この鑑定スクロールによる取得は済。これ以上の獲得は神と同様となる為、熟練度を増やす事はできません。 『あなたの[鑑定]の熟練度は[極]です』か…… おおぅ、人をやめたぞぉぁぉっという感じか…… 」


 ───── この時は知らなかったけど、この世界で鑑定のスクロールを大量に集められる事はありえない。


 ───── 王侯貴族が宝として、または切り札として保存していたり難解なダンジョンから稀に出土や宝箱から出る程度。俺がもつ枚数が多いのは人が探せないほど地下深くにある古代遺跡に埋まっていた分もストレージ内でソートされて、しれっと数として並んでいただけだった─────────




 うーん、ありがたみが無いなぁ…… あれだ親戚のおっちゃんに大量に工業磁石をもらった時みたいだ。役に立つし値段も高いんだろうけど他人から大量に与えられたためか実感がないというか。


 「まぁいいや、確かに使い勝手は良くなっているから魔法やら体術からもサクサクっと覚えちゃおうっと」


 俺は頑張ったよ。それは頑張った。

 でもね、体の中から溢れくるような実感がある魔力増強とかはいいんだけど、いやそれも慣れると面倒なんだけどね。

 剣技のスクロールとか消化するの飽きるんだよマジで。


 ゲームのバグで力が+1強くなるアイテムを9999個手に入れても途中で使い切るのに飽きるでしょ?俺は飽きるタイプなの。

 頑張ったよ。もう、これ以上は必要な時に消化試合をすればいいじゃんという事で3日目には町の観光にでました。



・鑑定 [極]

・魔力増強 [極]

・四大元素魔法[極]

 火・風・水・土

・空間魔法 [極]

・回復魔法 [極]

・剣技(基礎) [極]

・身体強化 [極]

・体術 [最大]

・魔力操作 [10]

・錬金術師 [3]


 ちなみに[]の中は熟練度で1〜10までは数字評価、その上が[最大]でさらに最大までにかかった熟練度を4倍鍛えると[極]という評価になる。


 スクロール習得をしていて分かったんだけど、一度[極]を履習すると承当モードになって3時間は他のスクロールも使えないようになる。

 スクロールって『誰か』が作ったものだから顔も知らない誰彼さんから受け継がれていくという感覚で体に取り込まれていくらしい。(鑑定により判明)



 承当モード長ぇなぁー…… ちょっと外に出るかなぁ…… あ、ここのケーキ美味しいとか町を散策していたらスクロール習得に飽きちゃった! でへへ。



 「おはおはおはよー! 」

 「ああ、ヒロキさんおはようございます」

 「今日も依頼を受けに来ましたー! 」


 おうよ、冒険者ギルドだよ俺つぇぇステータスを手に入れたら使いたいじゃない。俺はエアコンのリモコンにある購入初期に貼られたディスプレイのビニールをまず剥がすタイプよ?え?例えが違う?


 「えっとヒロキさん今日は戦闘ですか生産ですか? 」


 ギルド職員に美人の受付なんているのかよ?というアレでアレな感じでリンドーンこの町にあるギルドの受付も細マッチョなオッさんです。

 お風呂ですかご飯ですか?のニュアンスは女性に言って欲しいなーと思っていたら2日目で慣れた。



 「えっと、どんな仕事があります? 」

 「討伐は…… ヒロキさんの年齢ならゴブリン駆除、生産はこの初級の本にあるものなら常時お願いしますね」

 「昨日と同じやりとりですね」

 「まあ、それがフォーマットなのでー」


 この大陸では出生した時に領主からクレジットカードより小さな半印が押された産まれた年号が記載された木版を貰う。人頭税があるのかよ世知辛いと思ったが、これがすなわち年齢の証明になる。

 税金を払いたく無いなぁと考えるなら無くしたフリが出来るが信用はされなくなる。逮捕時とかね、特に。


 俺はスタリと異世界から草原に降り立ったから年齢の証明が出来ない。見た目が大人になったら信用が少ないのが嫌なら領主に住民として申し出られる…… というユルイ判定があるみたいだけど、女神様が受肉してくれたこの体はギリギリ小学生か中学生っぽいんだよねぇ。


 ちなみに今は王国暦13949年だそうだ。


 ストレージにも他人の身分証が腐るほどあるけど、まぁ使いたくないなぁと日本人社会人的にね?わかるよね?


 長々としたが閑話休題。


 ギルドは未成年に対しては死なない為のフォーマットを設けていて、俺はそれに準じている。



 「まぁいっか、じゃあいってきまーす」

 「ヒロキさん死なないで帰るんだよ」


 ぐっ…… 縁起の悪い。

 

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