シャワーフック

ジュン

第1話

「で、どうだったんです?」

妻は尋ねた。

「元気そうだよ」

夫はそう答えた。

「勇輝も大学にも慣れたって言ってました?」

「言ってはないが様子からして慣れたみたいだよ」

「そう」

妻は続けて言った。

「あっという間に大学生ね。このまえ生まれたと思っていたけど」

「そうだね」

妻はきいた。

「勇輝のアパートはどんなです?」

「きちんとしていたよ」

「そうですか。彼女でもいるのかしら?」

「そうかもしれないな」

「女の物でもありました?」

「いや」

「そうですか」

「ただ……」

「ただ、なんです?」

「勇輝のアパートの部屋のトイレを借りたんだが……」

「それがどうかしたんです?」

「ユニットだからトイレとバスが一緒にあるわけだが」

「女を思わせる物があったんですか?」

「うん……」

「まあ、なんです?歯ブラシが2本あったとか?シャンプーのほかにコンディショナーがあったとか?」

「いや」

「なんでしょう?まさか、長い髪の毛があったとか?」

「違うんだ」

「なにがあったんです?」

「シャワーフックにシャワーが掛かってた」

「それがなんだっていうんです?」

「シャワーの向きなんだよ」

「シャワーの向き?」

「壁の方を向いていた。横を向いてたんだ」

「分かったわ!」

「女性はシャワーが顔や髪にかかると困る時があるだろう?そういう時、シャワーを横向きに掛けるだろう?」

「そうですか!彼女いるのね」

「断言はできないけど」

「シャワーを浴びた女がいるのね」

「勇輝も大学生だから当然といえば当然だ」

妻はきいた。

「女のシャワーの向きの特徴は、あなた、いつ知ったんです?」

夫は言った。

「きみとはじめて愛しあった日に」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シャワーフック ジュン @mizukubo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ