第21話 リヴァスの過去

 インビジブルナイツの面々が2次予選突破を果たした後、続いて2次予選突破を果たした戦士たちはわずかに25名だった。

 実に半数以上が1戦目の相手、舞踏竜ぶとうりゅうベルキュロスに殺されてしまったのである。そして1日の休みをはさんでこれから『竜の首コロシアム』のグランドマスターズは3次予選へと移行していく。

 この3次予選を突破すれば正式に本選に出場となるし、ダブルスやパーティークラスにも挑戦できる。

 1日の休みがあるのは助かった。2次予選の相手は確かに只者ではなかったので、体力も減っているし、多少傷も負った。この1日の休みをどれだけ有効に活用できるかで3次予選は決まってくる。

 まずは2次予選突破を祝していつもの酒場で祝杯をあげることにするインビジブルナイツ。

 なお、2次予選突破を果たした彼らには景品として装飾品が贈られた。運営から贈られたアクセサリーは以下の4つ。

 シルバーピアス、トルマリンの指輪、薔薇のコサージュ、妖精のピアス、だ。

 効果は、シルバーピアスは使用する魔法の消費量を4分の1にする効果。トルマリンの指輪は悪影響を及ぼす障害、猛毒を無効化する指輪だ。この時点でこれを貰えたのはありがたい。

 薔薇のコサージュは魔法を使用するアネットやレンドールにありがたい、沈黙を無効化するアクセサリー。沈黙状態とは呪文を一切使用することができない障害ステータスだ。

 妖精のピアスは、風属性の強化と土属性のダメージを半減という効果。

 3次予選の相手は一切の情報は明かされていない。可能性として考えられるのは、妖精のピアスの効果にある土属性ダメージの半減というもの。もしかしたら、3次予選は土に関する怪物が相手かも知れない。

 何はともあれ、そこそこ貴重な装飾品を手に入れられたのも事実だ。特にシルバーピアスはなかなかお目にかかれない効果の装飾品。今日は闘技場コロシアムに感謝して帰路につける。


 アネットの容態も回復し、インビジブルナイツの面々はアストリア美食街へ向けて歩いている。美食街に向かう道すがら彼らに声をかけてくる商人が多くなってきた。

 2次予選突破を果たした彼らに食材を提供したいという話がほとんどだ。そうやって彼らが手に入れた食材は、全部で4つ。

 砂漠にある超文明の街ロックラックの特産品、ロックラックルミというクルミ。ロックラッカセイと呼ばれる落花生、アストリア大陸の街グリーンハイトからは、サイコロミートと呼ばれるイノシシの肉を、ペルナス地方からは高玄米こうげんまいと呼ばれる米も貰えた。

 

「やっぱり、2次予選突破を果たしたのは効果ありだったね。かなりの食材が手に入ったね」

「丁度良かったですね」

「今夜もディープスカイに行くからついでに食材も渡せるね」

「今夜のディナーショーはどんな歌が聴けるのかしらね」


 酒場ディープスカイへと入るとウエイトレスのエリナが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ~!インビジブルナイツの皆さん!」

「どうも」

「いつもの指定席へご案内いたしますね」


 今日もエリナは機嫌が良い。さぞかし闘技場コロシアムで勝ったんだろうな、とレンドールは思った。

 言葉にしなくても何となくわかる。エリナは自分達に賭けていると言っていた。その自分達は苦戦したとは言え、2次予選突破を果たしたのだから。

 まあ、そんなことを気にする前にディナーを食べるか。今日のお品書きは…?


「お勧めメニューは女王エビのエビチリソース炒めか。後は、トルーユ貝のパスタボンゴレ。へえ…今日は魚介類料理がメインか」

「リヴァスさんがトルーユ独立国から仕入れた魚介類ですよ。あのリヴァスさん、元々はトルーユ独立国でシェフの修行していましたから」

「初耳ね」

「ねえねえ?」

「何ですか?ミオンさん?」

「今夜のディナーショーはやっぱりあの女性シンガーなの?」

「今夜は珍しく男性バンドですって。でも結構骨太な曲を歌うロックバンドですから期待してください」

「ロックバンドか。楽しみだね」


 お品書きを見た彼らは早速ディナーの注文をする。


「俺は女王エビのエビチリソース炒めで、ライスと後、何か祝杯あげたいから…カクテルを」

「どのカクテルにします?」

「ピアノマンでいいよ」

「私もレンドールと同じ、エビチリソース炒めのライス付きで。カクテルはピアノウーマンで」

「あたしはトルーユ貝のパスタボンゴレで、ニンニクと唐辛子をたっぷりかけて!お酒はあたしはバニーズ酒でいいわ」

「僕もトルーユ貝のパスタボンゴレで。スープ付きでお願いします。僕は飲み物は…ノンアルコールのカクテルってあります?」

「ノンアルコールのカクテルならコバルトブラストあたりお勧めですよ」

「じゃあ…それでいいです」

「カクテルは食前にします?その方が料理もおいしいですよ?」

「そうしようか?」

「あたしは食後でいいわ」

「本日のお勧めメニューの2品で、エビチリソース炒めの方はライス付きで、トルーユ貝のパスタボンゴレはスープ付きとトッピングですね?バニーズ酒は食後で、ご注文は以上ですか?」

「後で注文も出来るでしょ?」

「はい」


 ディープスカイの中がにわかに騒がしくなってきた。ステージを見ると確かに男性のロックバンドが楽器の準備をしている。時折、調律を行っている様子だ。

 編成はアコースティックギター、エレキギター、ドラム、ベース、キーボードの四人組だ。アコースティックギターはボーカルも兼任しているらしい。

 

 そしてウエイターのジェフのアナウンスが店内に響いた。


「お待たせしました。今夜のディナーショーを彩るのはこちらのバンド『ブレーメン』!ただ今アストリアで一番の若手バンドの皆さんです!」

「みんな!盛り上がっているかい!?」

「おおーっ!」

「ディープスカイのみんなはノリがいいな!今夜のディナーショー、俺達『ブレーメン』の音楽に夢中になって、日頃の鬱憤を晴らしてくれよ?」

「1曲目は新曲を歌おうと思う!みんなはヒーローっていうと剣豪ハロルド・ベルセリオスを思いだすと思うけど、彼だけじゃない。日常生活にもそんなやつがいるはずだ…と思って作った曲だ。聞いてくれ。「HERO(ヒーロー)」だ」


 俺はとても高い場所で 天の声が聞こえる

 俺はとても高い場所で 天の声が聞こえる

 ああ神よ 

 俺の声をあんたは聞いてくれない


 ヒーローなら俺達を救えると奴らは言うが

 でも俺は立ち止まってたまるか

 鷲の翼にしがみついてやるぜ

 俺達が飛び去るのを見ているがいいさ


 愛が全部俺達を救うって誰かが言った

 でもそんなことはないだろう?

 愛が俺達にくれたものを見ろ

 世界は殺しと流血で溢れているぞ

 そんな世の中はこないだろう

 絶対にこないはず


 ヒーローなら俺達を救えると奴らが言うが

 でも俺は立ち止まってたまるか

 鷲の翼にしがみついてやるぜ 

 俺達が飛び去るのを見ているがいいさ


 今 世界に終わりなんて来ないさ 

 俺がお前に愛を贈ろう

 俺が恐れるヒーローの愛なんかではないさ 

 俺の愛を贈ろう


 ヒーローなら俺達を救えると奴らが言うが 

 でも俺は立ち止まってたまるか

 鷲の翼にしがみついてやるぜ 

 俺達が飛び去るのを見ているがいいさ


 そして彼らは俺達を見ているさ 

 俺達が飛び去るのを見ている

 そして彼らが俺達を見ているさ 

 俺達が飛び去るのを見ている

 そして彼らは俺達を見ているさ 

 俺達が飛び去るのを見ている


 切ないアコースティックギターのイントロ、骨太な男性ボーカル。ヒーローなら…というところからのエレキギターで盛り上がるサビ。

 全体的に切なくてしかし胸熱になれる彼らが歌う『ヒーロー』の歌は人気がある。

 最後の「俺達が飛び去るのを見ている」の後、絶妙な終わり方をするのも魅力的だ。

 途中の「今、世界に」の部分でアコースティックギターとボーカルだけになる部分で、しっかりと「愛」を歌うところも、泣けるとの評判である。

 1曲目の終わった頃に、料理が運ばれてきた。カウンター席に座る彼らは、バーテンダーからカクテルを受け取り、ゆっくりと味わう。

 

「さっきの『HERO』は泣けるわねえ」

「いろいろ考えさせられる歌ですよね」

「それに、骨太で、カッコイイ曲よね」

「男らしいな。骨太でありながら哀愁にも満ちているの俺も好きだ」

「『ブレーメン』の皆さんってこういう曲作るの上手なんですよ」

「ディープスカイのディナーショーって本当にいいよ。誰のアイデアなんだい?」

「リヴァスさんです。何か、この酒場しか味わえない特別なものをと思って、ディナーショーをするという発想になったんです。このアストリアはミュージシャンも多いし、歓楽都市だから、そういうのに困らないだろうと」

「リヴァスさんって元々、どこかのレストランで修行していたと聞きましたよ。どこの国でしていたんですか?」

「リヴァスさんは元々、トルーユ独立国の有名レストラン『シー・トルーユ』でシェフの修行していたんですって。それでアストリアにも修行の為に来たんですけど、その時、激しい船酔いをしてしまったとかで、随分と苦しんだそうです。結局は修行どころではなかったとか」

「苦労していたんだ、リヴァスさん」


 ミオンは彼女としては気を遣って呟いた。

 しかし、リヴァスの話はここでは終わらない。女性バーテンダー・ジルが話してくれた。


「でも、ここ、アストリアの人達がそんなリヴァスさんを親身に世話してくれたんですって。そこでリヴァスさんがここアストリアに恩を返したいと一念発起して『ディープスカイ』が誕生したんです」

「リヴァスはやると決めたらやるタイプなんだね」

「今では他の三つの酒場と競合する規模になりましたからね。凄いですよ。わずか2年間でここまで規模を拡大するなんて」


 そのリヴァス・アーリスがようやく厨房から、姿を現した。忙しくて彼らに会うことも出来なかったのだ。

 ディープスカイの店内は今は『ブレーメン』のライブで盛り上がっている。


「こんばんは!どうだい?『ブレーメン』のライブ?」

「いいバンドですよ」

「男から見てもカッコイイよ」

「彼らの歌唱力は本物だよ。ロックだけじゃなくてゴスペルも歌うとか」

「リヴァスさんも色々訳アリだったのね~」

「まあね。今でも三半規管が敏感だから、あんな激しい船酔いはもう勘弁だよ」


 そんなことを話しているうちに『ブレーメン』のライブは終わろうとしている。約1時間のライブ。しかしディープスカイの客は満足している様子だった。

 最後に締めくくりの挨拶がされて、彼らは舞台を去った。

 もう既に夜の22時。ディープスカイも閉店時刻だった。


「今夜の夕食も美味しかったよ!リヴァス」

「またいつでも来てくれよ!それから食材を手に入れたってな?考案しておくから明日会おう!」

「はい!」

「おやすみなさい、リヴァスさん」

「ああ、あんた達も2次予選突破、おめでとう!」


 宵も更け彼らは宿泊する宿屋に向かった。アストリアの夜も徐々に喧騒が静けさへと変わっていく。

 

「リヴァスにも、辛い過去があったんだな」

「そんなことは微塵も感じさせないよね。明るくて、愛嬌あるし」

「さて、これから、3次予選だな。ますます戦いが激しくなるからしっかりと疲れを癒そう」

「そうね。ミオンちゃんはまだまだエネルギーを持て余しているけど」

「彼女の相手はテオ君に任せよう」


 レンドールとアネットは並んで夜道を歩いている。ミオンとテオは彼らの先を走って、二人で羽目を外している様子だ。

 でも、その瞳は活き活きと輝いている。

 ちょっとだけうらやましいと思いながら、レンドールはアネット共に夜道をいく。不意に風が吹いて彼の長い銀髪が風に踊り美しくたなびいていた。

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