第13話 ガンナーの魅せる初戦
「アネット・サザーランド選手!闘技場入り口までお越しください!」
「出番ね」
「アネットさん!頑張って!」
「気をつけろよ」
「ええ」
アネットは軽く拳銃の確認をすると、闘技場入り口まで歩いていった。彼女は試合前でも冷静なテンションである。特に気負っている気配もない。
ガンナーという職業はどれだけ冷静に戦況を見て己が持ち歩く銃弾を叩き込むかにかかっている。武闘家や騎士は熱くなることで闘争心を燃やすが、ガンナーはむしろ氷のような戦況を読む目が必要だ。
アネットはポーチに詰めた銃弾の確認をする。属性弾、貫通弾、拡散弾。その確認をすると一度、息を吸い深く吐いた。そして昂る闘争心を静める。
そして、闘技場へと足を踏み入れた。
観客の声援が聞こえる。そして彼女が闘技場へ姿を現したことで試合開始の銅鑼が高らかに鳴った。
「試合開始!」
出てきた相手は青藍の狩人ドンポラススが現れた。真っ青な鱗、鋭い爪、軽快なフットワークを持ち味とする鳥竜だ。
アネットは早速弾を装填し、ある程度距離を保ったまま、弾を撃ちこみ始めた。
「喰らいなさい!」
「あの選手は拳銃使いか。今までの人は接近戦タイプだったけど、なかなか見られるもんじゃないぞ」
どうやらこのドンポラススは多少、素早いタイプの個体らしい。軽快に拳銃の銃弾を時折回避する。すると一気にとびかかってきた!甲高い鳴き声を上げて鋭い爪が襲い掛かる。
アネットは紙一重で回避するが、革のジャケットに多少傷がついた。
「凄い。あのとびかかりを紙一重で回避したぞ。普通の人間ならこの時点で重傷だぜ」
「弾を込める動作も素早い、ガンナーと呼ばれるのは伊達ではないか」
アネットは少し攻めあぐねている。思った以上に素早い。ここはあの弾で足止めするか。素早く弾を装填するとドンポラススの真正面の空間に向けて閃光弾を発射した。
闘技場全体が眩い閃光で満たされる。観客も思わず目を庇った。
「うわっ!何だ?!この花火!」
「花火じゃない!閃光だ!」
「あの拳銃、こんな弾も発射できるのか?」
ドンポラススが目をくらまして気絶する。頭を大きく振りおおいに気絶している。
チャンスとばかりにアネットは一気に拳銃で連射をした。目にもとまらぬ速さで銃弾を速射する。
「すげえ。ドンポラススをハチの巣にしちゃったよ。あのガンナー」
すぐさま2戦目が始まる。ギスアドノスという純白に青味を帯びた冷気を吐く鳥竜だ。ギスアドノスは出会い頭にいきなり冷気のブレスを吐いた。
アネットはそこで観客を魅せる回避をする。華麗にムーンサルトで回避した。
「おおっ!カッコイイ回避だな」
「いいぞー!姉ちゃん!」
「もっとやれー!」
観客のボルテージも徐々に上がり始めた。冷気のブレスを何発も放つギスアドノス。それを楽しそうに回避するアネット。
今度は火炎弾を装填して一気に速射する。紅蓮の猛火の弾がギスアドノスに直撃して悶える。
「今度は火炎を撃っている!どういう拳銃なんだ?あれ?」
「普通に出回っている拳銃とは一味違うみたいだ」
最後に彼女は観客へサービスを含めて、必殺技を出した。
「いくわよ!パレットゲイザー!」
上空に一発弾を撃つと、数秒後、隕石のように弾が降ってきた。ギスアドノスの周囲が爆炎に包まれる。ギスアドノスはその技で消し炭にされてしまった。
燃やし尽くされたように跡形も残っていない。
「なんちゅう技だ。まるで隕石みたいな技だな」
「なんだかんだで3回戦だよ」
爆炎にビビッていた係員だったが、3回戦のモンスターを檻から放つ。
狡猾なる猛毒使い、イーオドススだ。相変わらず毒々しい真っ赤な鱗が目を引く。イーオドススがとびかかってくる。
それをまるでダンスを披露するように華麗に避ける。そして今度は左手に装備していた魔法銃を試運転させてみた。
観客は更に驚く。今度はまるで紫色の光の弾がイーオドススに撃ちこまれている。時折、彼女は魔法銃を軽く構えて、何かを待っているしぐさをする。
魔法銃は一定時間、弾を発射するのを待つとチャージされて威力が上がる。チャージショットと呼ばれる魔法銃ならではのアクションだ。
イーオドススが毒液を吐いた。かなり広範囲の攻撃で迂闊に近寄ろうなら猛毒に侵される。
「そうだ、ちょっと面白いことをしてみようかな」
「覚悟なさい!」
アネットは地面に魔法銃の銃弾を撃ちこむ。銃弾は結晶のように固まり、妖しい光を放つ。
イーオドススがその結晶を踏みつける。すると唐突に爆発を起こした。あれは地雷だったのだ。イーオドススが後退すると後ろにも地雷弾を撃ちこまれている。
地面が爆発を起こして、イーオドススは混乱している様子だ。パニックに陥るイーオドススにアネットは即座にもう片方の拳銃で一気に速射する。
最後に弾倉をポーチから出すと、豪快に投げて、周囲を爆炎の嵐に巻き込んだ。
「くれてやるわ!ロックンロール!」
観客はガンナーの派手な戦い方に見惚れて、応援するのも忘れてあっけに取られている。
爆炎の炎が落ち着く頃、イーオドススの姿は跡形もなく吹き飛ばされていて、消し炭にされてしまったらしい。
アネットは勝利ポーズとして、拳銃を華麗にくるくる回して収めた。
「勝者、アネット・サザーランド選手!1次予選突破とする!」
その瞬間、観客は歓声を上げて彼女を祝福した。華麗でど派手な戦いをしてみせた女性ガンナーに、賛辞を述べる。
「凄かったぜー!お姉さーん!」
「またど派手な戦いしてくれよー!ねえさーん!」
「カッコイイぜ!」
彼女は観客席に手を振ると選手控室へと去っていった。
「やったな、アネット」
「ふうっ。この戦いの緊張感の後のこのホッとする瞬間が快感なのよね」
「アネットさんの戦い方、派手でしたね」
皆が感想を話している頃、アネットは左側の魔法銃のメンテナンスを始める。魔晶石を弾倉から出して、新しい魔晶石を弾倉に込める。
それをレンドールに渡した。
「はい、レム。また魔力を込めるのをお願いね」
「任せろ」
「レンドール・ボーフォード選手!闘技場入り口までお越しください!」
「おっと、俺の出番か。すまん、この作業は後でいいか」
「ええ。今は目の前の闘いに集中して」
とうとうインビジブルナイツで一番の謎の多い魔法騎士レンドールの順番が回ってきた。
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