下山・三

あれからなんとか誤解は解けた。リーダーがオーガだと思ってたやつに馬乗りにされてビンタを食らってた光景に魔法使いの子達は若干引いてたが、俺がそれ以上何もしない事を確認すると警戒を緩めてくれた。


前衛の人達も目が覚め、リーダーが状況を話し彼等も納得。素直に謝ってきた。

その間魔法使いの子達と一緒に森の消火活動をしていた事を記しておく。自然は大切に。


「ガハハハハ、いや申し訳ない。そんな身なりなもんでな、つい勘違いしてしまった」

つい、で殺されたくはないもんだが実力差もある事だし、ここは俺が大人になっておく。


「しかし強いなお前さん、10人掛かりで手も足も出ないとは。儂らこれでも〈Bランクパーティ〉なんじゃがな、まさか国家秘匿裏の〈Sランク〉クラスか?」

ハンマーとロングソードを使っていた、そこそこ歳のいっているおっちゃん二人に謝られながら俺は分からない事の情報をもらう。斧の人とリーダーは弓使いの子と魔法使いの1人の子に回復術らしきものを掛けてもらっている。後でその術教えてくれないかな?


そんな中いろいろ分かってきた事がある。

まず俺の身体、俺の体は成長し今では190センチくらいあるらしい、そしてそれに合わせて長年の修行の成果か筋骨隆々でそれでいて引き締まった武骨さを醸し出しているらしい。

そんな身体のやつが腰蓑一つ、顔や頭はモジャモジャで、更に裸足で出て来たもんだからオーガと勘違いしたんだと。

俺はそれを聞いて思い当たる節があった。あの四天王とか言ってたやつ、あれがオーガという種族だったのかと。確かに今の俺とさほど変わらない姿だった。角がなければ……確かに俺に見える。

それとプレッシャーが尋常じゃないんだと、言われてみると魔力を感じるようになってから魔力を抑えると言うことはしてなかった。

もしかしたらあの虫の化け物共も俺の魔力に反応して襲い掛かって来ていたのかもしれない。


そしておっちゃん達の事だが、彼らは街の冒険者ギルドから派遣されたBランクパーティで、この近くにある(鈴鳴のダンジョン)という虫型の、魔物と言うらしいが、それらが多く生息するダンジョンを調査、探索しに来たらしい。


冒険者ギルドとは各国が協力して出来た組織らしく、世界中のダンジョンを発見、調査、攻略を目的とした組織らしい。

そして彼らBランクパーティとは、いろんな人数で構成される集団メンバーの事で、Bランクというのは結構強い部類に入るらしい。

その上にはAランクや、最高でSランクもあり、噂ではパーティとしてではなく、個人でSランクの戦闘力を誇る人外的なやつらが国家秘密裏の機関に所属しているらしい。


尚、ここまで情報を貰い話をしている俺は只今全裸であり、燃えカスの毛皮で一部を隠しているのみ、よって、後衛の女の子達は近寄ってこず、おっちゃん二人とだけ話している状況だ。


「お前さんこれから街に行くんだろう?その姿のままじゃいろいろとマズい、これを着けるといい」

そう言って最後におっちゃんは鎧からマントの様な物を取り外し俺に渡してくれた。

俺の事は山で修行中の武術家だと伝えてある。

嘘はつきたくないが、説明も理解され難いことは容易に理解できたし、ある意味では事実だからだ。

ありがとうおっちゃん、久しぶりの人からの善意に心が少し温かくなる。でも出来ればもっと早く貰えなかったですかね?10人に見られながら股間だけ隠して話をするのは結構恥ずかしかったんですが。


リーダーの武器も壊してしまったし、魔法使いの子達も魔力切れとか言ってたからダンジョン攻略を手伝おうかと申し出たが、武器の予備もあるし魔力を回復させる薬もあるから大丈夫と断られた。そんなことより早く街で服を買えと。

それじゃありがとうと別れ際に置いてあったダンジョンコアを取り出したらめちゃくちゃ驚かれた。こんな大きさは見たことが無いんだと。

なんでも高ランクのダンジョンになればなるほど、中の魔力濃度が濃くなり、ダンジョンコアも大きくなるのだとか。

何処で手に入れたか聞かれたのでこれまた山で仲良くなった人に、譲ってもらったと答えた。

嘘でもないが正しくもない。しかしこれを説明しだすと先程の話にも多少の矛盾が発生してしまう。

少し心が痛むが、説明が難しい以上このまま押し通してもらう。

嘘はつきたくないし、そんな人間を嫌っていた俺だが、あのダンジョンでいろいろ吐き出してから、少し考え方が変わってきたように思える。

……こうして自分の都合のいいように考え方を変え、嘘じゃないが正しくもない言葉を並べて人は大人になり、どんどんと醜くなっていくのだろうか?

山籠もりを始めて約10年。俺も26になる計算だ。

心の修行をして、精神的にも10年前より遥かに強くなったはずなのに、10年前よりも心が汚くなった気がするのは何故だろうか?

…今はまだ分からない。修行が足りなかったのだろうか?

嫌っていたはずのこの世界の理不尽に、自分の考えや状況を理由に自ら一歩を踏み込んで、そんな自分がやっぱり嫌いで。

そんな事をぐるぐると頭の中で考えながら、おっちゃんらに別れを告げ教えられた方向に山を降りていく。


ちなみに教えて貰った回復術は発動出来なかった。おそらくは適性がないとのこと。冒険者ギルドで自分の能力をいろいろ教えてくれるらしい。何故自分の事なのに人に教えてもらうのか疑問だが、そうゆう魔力を使う道具、魔道具が発明され、各冒険者ギルドには大抵置いてあるらしい。


服を用意し妹を見つけたら、冒険者ギルドに向かおう。そこならきっと妹を治してくれる人が見つかるかも知れない






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る