意外な展開

 映画のストーリーは部長役と副部長役の激突から、岩鉄顧問の収拾に進んだのだけど、そこで一件落着にならなかった。激突後に不協和音が生じる展開になったんだ。そうしないと話に深みが足りないのはわかるけど、滝川監督が使ったのはやっぱり恋だった。


 写真甲子園の選手はミサトとコハクちゃんと、木南君の三人だけど、ミサトもコハクちゃんも木南君に恋心を抱くぐらい。ちょっとした三角関係だけど、ここでコハクちゃんが木南君に突撃しちゃうんだよ。もちろん、あれこれ伏線張ってあった。


 ミサトはなるほどって思ったけど、コハクちゃんと木南君のキス・シーンまであるのは参った。それをミサトが偶然見かけてしまいショックを受ける設定になってた。でも、あれはミサトにならなくて良かったと思ったもの。


 だって、ファースト・キスをこんなところでカメラに撮られながら、やりたくないじゃない。もちろん頼まれても断るつもりだったし、それでも滝川監督に強要されたら、映画を降りる気だったもの。


 コハクちゃんと木南君がカップルになったお蔭で、ミサトとの間にギクシャク感が生れちゃうんだ。なにか演じながら、エミ先輩と野川部長がお互いの恋心を抑えきっていたのはエライと思った。ミサトも野川部長に突撃しそうだったもの。


 それはともかく、ミサトを含めた三人のギクシャク感は強くなっていき、あれだけ仲が良かったコハクちゃんとの間にも溝が出来て行くのが撮られていった。ミサトも写真甲子園のために、ギクシャク感を取り除きたいと思うのだけど、二人を見ると割り切れないぐらい。


 ついにはミサトとコハクちゃんが険悪状態になり、それに木南君がコハクちゃんの味方をするなんて話になり、その時は岩鉄顧問が仲裁するのだけど、仲直りも形だけで、コハクちゃんは練習にも来なくなるシーンも撮ってた。


 そうこうしているうちに初戦審査会の作品製作が始まるのだけど、その時にはコハクちゃんと木南君の関係さえおかしくなって、三人の心はまさにバラバラ。そんな三人だから、まとまらないよね。


 というか、どういう組み写真にするのか方向性さえ決まらない始末。そのことで話し合うのだけど、ミサトの意欲は空回りって感じかな。岩鉄顧問も心配そうな顔をするものの、手の出しようがなく腕を組んで手を拱くばかり。


 時間だけはドンドン経って行くのだけど、それを見かねて部員役の一人が、去年の卒業生、ミサトが決勝大会でチームを組んだ二人を呼んで来るんだよ。あれはイメージとして藤堂副部長みたいな感じ。もちろん体型だけだけど。


 ここも伏線があって、最初の方でミサトが部を引き継ぐ時に、この二人から優勝旗を託されて、必ず決勝大会に返しに行くって誓ってるんだ。やってきた二人は、ミサトたちに、この一年、なんのために写真に明け暮れていたんだって。ここで頑張らないと一生後悔するぞって。最後に、


「全国のどれだけの写真部員が、この優勝旗を目指してると思ってる。こんな様で優勝旗を胸を張って返しに行けるか。オレなら恥しくて行けない。そこを考えて欲しい」


 ここで三人は、本当に今やらなければならない事に気づく段取り。この出来事をキッカケに三人の心が一つになってくれた。まったく台本通りのはずなのに、出演者がハラハラするってどんな撮影なんだよ。


 やっと一つになったチームだけど、締め切り日が迫って来るのよね。そうギクシャクしたばっかりに時間がなくなる展開。だったらもっと早くギクシャクを解消しなかったんだと、台本なのに恨んじゃったぐらい。


 ギリギリの時間の中で欲しい写真を求めてひたすら走り回された。あれロケだったけどマジで走り回された。あんだけ走り回ったのは高校のマラソン大会以来じゃないかな。走り回って息が上がらなくなって、苦しくなった顔が欲しいって言うけど、とにかく走れ、走れで殆ど死んでた。


 それでもミサトの演じる部長役は、まだ足りない物を感じるのだけど、ついに作品提出。初戦審査会の結果を待つシーンになった。あれってホントにイライラさせられた。だってだよ、受かるか、落ちるかは次の台本を渡されないとわかんないんだもの。


 コハクちゃんと展開予想してたんだけど、初戦審査会は合格するとしたミサトに対して、コハクちゃんは、


「ブロック審査会から決勝大会までやるのかな」


 撮影の残り日数が足りない気がするっていうのよね。それはそうで、決勝大会となると下手すりゃ、東川でロケになるじゃない。そのうえファーストからファイナルまでの三回の審査会まであるもの。


 それでもやりかねないってミサトが言ったら、コハクちゃんもうなづいてた。つうか出演者すら次がどうなるか読めない映画なんて、滝川作品しかこの世に存在しないとしみじみ思ったよ。よくこれでまともな映画が撮れるものだ。



 手渡された台本を見たら初戦審査落ち。部員は茫然、コハクちゃんは号泣、木南君も涙をこらえる本気の愁嘆場になってた。


 こんな展開になるとは思いもしなかった。そう、ここまでは、数々のトラブルを乗り越えて、それでも決勝大会に臨むパターンを想定して演じていたけど、なんと訪れたのは挫折だったんだ。


 なんか滝川監督が撮ろうとしてるものが見えなくなった気がした。だってだよ、青春映画にトラブルや挫折はあるけど、基本はそれを乗り越えての達成感のはずなのよ。今回は写真部が舞台だから、目標は写真甲子園だけど、予選審査会で落ちると達成するものが無くなっちゃうじゃない。


 コハクちゃんとも話していたけど、予想としてはブロック審査会をあっさり飛ばし、決勝もファイナル審査会ぐらいに絞って撮影するのを予想してた。結果は連覇もありだし、惜しくも優勝を逃すってパターンでもOKになるじゃないの。


「ミサトちゃん、補欠で繰り上がるってないの」

「初戦審査会落ちじゃ無理よ」


 ブロック審査会では地区枠の他に特別枠がある。あれもある種の補欠合格みたいなものだけど、初戦審査会落ちじゃ関係ないものね。それとなんらかの不祥事とかで辞退になったとしても、決勝大会に繰り上がる可能性があるのは、やはりブロック審査会出場校。


「初戦審査会で落ちた高校が決勝大会に突如繰り上がるって話は、滝川マジックを使っても無理だよ」

「そうみたいね。そんな捻った手を使うより、素直に初戦審査会を合格されば良いわけだし」


 強いて言えばミサトの大会の時にあった招待枠。でもあれを持ちだすのは無理があり過ぎる。今までの撮影をコハクちゃんと、どう思い返しても、そんな裏技を使いそうな伏線はないものね。


「どうなっちゃうんだろう」

「不安ね」


 つうか台本通りに撮るのが映画だろうと思うけど、明日は明日の台本が来るのが滝川映画だもの。

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