第17話

 太陽の下で干して、ふかふかになった布団にダイブしたようは、同じくふかふかの枕を抱えてくるりと仰向けになる。もう見ることはないと思っていた、見慣れた自室の天井。クロスの模様が人の顔に見えて、怖くなって隣の部屋に駆け込んだことは一度や二度ではない。その結果、燁の部屋には大きなベッドが持ち込まれ、日替わりで他の仲間たちと一緒に寝たり、燁が寝付くまで一緒にいてもらったりした。眠くなるまで話したり、それでも眠れなかったらベランダに出て星を眺めたり……。

 あの頃、燁の世界は広いようで狭くて、この島と仲間たちのいるところだけが、燁の世界だった。知らない場所や知らない風景、知らない国や町……そんなものがあることをぼんやりとはわかっていたけれど、燁の全ては彼ら……火群ほむらと共にあった。

 だから……

 火群を解散するって聞いたときは、これから先どう生きたらいいかわからなかった……

 それでも、どうにか生きてきた。一人で、がむしゃらになって生きてきた。いよいよ物乞ものごいでもして暮らさなければならないかもしれないとなったとき、出会ったのがグウィンだった。

「先生には感謝しないと……」

 もしあのとき、声をかけてもらえなかったら、今こうしてらんと一緒にホームに帰ってきてなかったかもしれない。親を知らず、家族を知らない燁にとって、火群の仲間たちが家族で、彼らのいるところが家なのだ。もちろん、火群を解散すると決めたともえの思いもわかる。始まった新しい世界に、火群のような影の存在はきっと不要だと思ったのだろう。だけど、火群が全てだった燁にとって、まさに足元から崩れていくような思いだった。

 それでも、新しい道を進んでいこうと思えたのは、やっぱり仲間たちがいてくれたからだ。

 ……もうすぐ会えるのかな……

 他の隊長たちの現在の居場所は、おおよそわかっているとのことだから、きっともうすぐ他の……今はまだ会えていないう二人の隊長たちもホームに帰って来るのだろう。

 どんな顔して会えばいいかわかんないな

 笑顔で別れた五年前。『またな』と言って、手を振りあって、振り返らずに歩いたあの道。今歩く道は違っても、きっとまた並んで歩けるときが来ると信じて別れたあの日。

 また、会えるなんて……こんなに早く会える日が来るなんて……

 夢みたいだ……

 そう思ってまぶたを閉じるとふわりと眠気が襲ってくる。燁は小さくあくびをすると、そのまま眠りの海へと落ちていった。

 燁ーー!!

 どこかで燁を呼ぶ声がする。懐かしい声だ。

 あれは……あれは……

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