終わる刻、始まりの場所
七海月紀
序章
広がる空。海。海のずっとずっと向こうに大きな島がうっすら霞んで見える。
誰も知らない島
神の住む島
たまに近くを通る近隣の……と言ってもかなり離れた島に住む漁師たちは、この島のことをそう呼んだ。誰も住んでいない無人島のはずなのに、時折上がる煙が見えたあとは、必ずと言っていいほど普段よりも魚の獲れる量が増えた。それはきっと島に住む神からの恵みに違いない。そう言って、彼らは島からの恵みに感謝と畏怖の念を感じていた。
でも…
島は決して「神の住む島」ではないし、「誰も知らない島」ではなかった。そもそも無人島ですらない。島には、わずかながら住人と呼べる人間がいた。十人にも満たない彼らは、不思議な力を持ち、水や火といった自然界にあるものを操ることができた。自分たちの不思議な力を彼らは「
島は決して大きくはないけれど、外側の海に接する地が一番標高が高く、内陸に進むにしたがって土地が低くなる不思議な構造になっていた。そのため、海からは外側の森しか見えず、住人たちの姿が見えなかったのも無人島と思われた原因だろう。また、彼らは移動に船などの乗り物を使うこともなかったという。島を出入りするときは、自身の持つ不思議な
島に住んでいたのは、不思議な瞳を持つ青年と少年少女たちだった。
しかし、今。彼らも島を去ろうとしている。
「あとは、
キラリと光る金色の瞳の青年が呟くように言った。それを四人の少年少女たちが見つめていた。
「みんな……今日まで本当にありがとう。君たちがいたから、ここまでやることができた。……本当に、感謝してる」
感謝なんて……
少年少女たちは、同時に思ったに違いない。
「……オレは……オレたちは、感謝されたくてやったわけじゃない」
吐き出すように、年長の少年は言う。元々は輝く太陽のようだった
「そうだね……僕たちは、僕たちの生きる世界を作るために戦ったんだ」
誰に知られるわけでも、誰に認められるわけでもない戦いだった。犠牲は少なくなかったし、傷つきも傷つけられもした。それでも、必死で戦った。この世界を生きる誰かのために、自分たちの居場所を作るために。
「オレたちが勝ったんだよな……」
赤い髪を風に流しながら、少年の一人が言う。その顔は幼さを残しているが、瞳は沈む夕日を映して強い光を放っていた。
「あぁ……でも、勝った者が必ずしも正しいとは言えないよ」
青年の言葉に、少女がキュッと形の良い唇を噛み締めた。
「何が正しかったのかは、きっとこれからの時代が教えてくれる」
この場にいる誰もが、自分の胸に抱く信念に従って戦っていた。刃を交えた者たちも、そうであったと信じたい。たとえ、自分たちの思いが相手にとっての「悪」だったとしても、それを譲りたくはなかった。……相手もきっと同じ思いを抱えていたのだと思っている。
譲れなかった。だからこそ、自分たちと相手はぶつかってしまったのだ。
「これから始まる時代は、どんな世界になるんだろうね」
誰もが幸せであってほしいと願う反面、それを実現するのがとても難しいということも分かっている。それでも、願わずにはいられない。これからやってくる未来が、今目の前にいる少年少女たちにとって、これまでよりも幸せなものであるようにと。
「これで、これまでの世界は終わりだよ」
彼らが身につけていた揃いの耳飾りに、沈んでいく太陽の最後の一筋が反射して輝く。
世界の東にある小さな島国。この国では、人は生まれながらにして五つの属性に分けられるとされている。それは、性別とか年齢とかそう言った類の分類と同じくらい人々にとっては当たり前のことだった。
かつては人間も自分の属する元素の力を宿し、その力を借りて元素を操ることができた。しかし、文明が進み人々の生活が物質的に豊かになるにつれて、元素を操る力は衰え、今ではもうその力を持つ者は消えていった。元素を操ることができるなんて幻想や伝説の類だとすら言われている。
……元素を操る力のことを彼らは
両親やきょうだいたち、一番身近な「家族」に見捨てられた子どもたちがどのような成長を遂げるかは想像に難くないだろう。そのような子どもたちを見つけ、育てる機関がかつての政府……幕府と呼ばれた政府にはあった。
表向きは広い城内の庭を管理する庭師見習いとして城内に住まわせ、彼らに力の使い方を教えるとともに教育をし、学力をつけ、技を磨き、やがては諸国を渡り歩いて国のために働いた。その存在を知っていたのは、国の長たる将軍とそのごく一部の側近たちだけだった。力を操る彼ら……表向きは庭師の集団の彼らのことを「
御庭番・
彼らは政府の守り神とも呼ばれ、彼らがいたからこそ旧政府は三百年もの長い期間、国を統治することができたのだとも言われている。その全貌を知るものは、今はもういない。
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