第56話 昔の思い出

 翌日、真菜と午後三時に駅で待ち合わせ、三人で隣町散策する事にした。


 まずは俺が二十二歳の時、代表を務めた「鷹の羽」と名づけた弁当工場の跡地から。総合病院のすぐ裏にある。駅から歩いて二十分くらいの場所だ。


「鷹の羽」を廃業して以来、三十五年ぶりに行く事になる。裏通りに商店街があったのだが廃れて営業しているのは中華料理屋などの飲食店くらいだ。小さいパチンコ店も無くなりアパートになっている。


 昔の面影は無くなっていた。


 工場跡地に行くと建て替えられ一階が事務所になっていた。特に見て回るものは無く焼き鳥屋に向かった。場所はJR駅の近くだ。繫華街にあるがピンサロやキャバクラも多く結構賑わっている。


 探して歩くと、あった!焼き鳥屋だ。午後五時オープンの時間に合わせ店に入った。俺がこの街で商売をしていた頃は週に一度は来ていた。親父さんもいた。歳はもうすぐ七十歳になるらしい。俺の事も覚えてくれていた。

 

「この人の嫁です。咲と申します。宜しくお願いします。」と指輪を見せ、聞かれる前から自己紹介をする咲。


「真菜と申します。今度この人の女になります。指輪はその時もらいます。お見知りおき下さい。」と負けていない。


 親父さんは笑顔で聴いている。俺は焼き鳥を適当に頼み、芋焼酎のロックをお願いした。咲と真菜にチューハイを勧めてみた。二人とも普段アルコールは飲まない。真菜は帰って両親にばれると怒られると言いジュースにした。咲はレモンハイを頼んだ。酔っ払っても小柄の咲ならおぶって帰れる。三人で乾杯した。


 レモンハイを口にすると「美味しいかも!」と咲。それを見た真菜が咲のを一口飲んだ。「ホントだ。美味しい」と真菜。二人ともすでに赤ら顔だ。この店に来る事があるとは思っていなかった。昔の良い思い出だ。美味しいモノを食べると幸せな気分になれる。


 生きるって良いなと感じるひと時だ。〆に焼き鳥丼と鶏スープを注文した。咲と真菜は食べきれないと言い、鶏スープだけ注文した。

 

 鶏スープを飲むと、うん!この味だ。芋焼酎の後はこれなのだ。


 咲と真菜は次どこに行くかと話している。水晶占いは、年内は今まで通り午後七時までやるそうだ。年が明け様子を見て時間を短縮すると言った。


 真菜の初体験の日も近づいている。クリスマスイブは駅近くの焼肉屋を予約した。俺達三人は満腹になり焼き鳥屋を出た。駅から地元に向かう。


 地元の駅で俺と咲が降り、真菜と別れた。

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