第55話 十二使徒の存在
平日にもかかわらず人出が多い。
鍋屋に着くとしゃぶしゃぶの食べ放題を三人前オーダーした。飲み物は咲と真菜はフリードリンクを、俺はハイボールを注文した。
乾杯をして咲が話す。
「ノン、退院おめでとう。ノンが留守にしている間にあたしと真菜は約四千人に霊力を授けたの。『TEAM JAPAN』も真菜をリーダーとして今は十二使徒と呼んでいる十代の女子、十二人に全ての人の心と会話が出来る様にして活動しているの。この十二使徒が今集中して活動しているのが、東京の銀座、六本木、新宿、渋谷、原宿、秋葉原、池袋なの。気になる女子がいるとあたしの水晶占いをさせて霊力を授けてるの。真菜には残念な事に十二使徒全員男性経験ありなの。きちんとパートナーがいるからあたしは安心して見ていられる。お金が全てじゃ無い事を伝えたいね。真菜は?」
「わたしは高校に通いながらなので咲さんのアシスタントとしては力不足です。十二使徒の提案をさせてもらったのはわたしですが。それと受付のアルバイトを雇い、ポケベルを十台用意して並ばず待たなくて良い様にとアイデアを出させてもらいました。占い開始十分前にポケベルを鳴らすのです。これにより占いを受ける人のストレスもかなり解消しました。それと……。」
「ん?どうしたの。」
「わたしも十八歳になりましたのでそろそろノンさんと初体験をと……」
「真菜、ノンは病院のロビーであの女に言われた通り初老だよ。悔しいけど認めるよ。人間は老いていつの日か死ぬ。ノンに抱かれても想い出にしかならない。まぁ、真菜ならいくらでも男が言い寄って来るだろうけど。」
「咲さん、わたしはその想い出が欲しいのです。人はいつか死にます。後悔したくありません。許可して下さい。」
「ノンはどうなの?」
「俺に選ぶ権利は無いよ。『TEAM JAPAN』も上手くいってるみたいだし、俺が真菜を抱いて咲が怒らなければ良いんじゃないの。」
「怒るよ!それじゃあたしが他の男に抱かれてもノンは怒らないの?怒るでしょ。」
「咲さんお願いします」
「うぅ、それじゃあ一度だけだよ。ただし条件がある。ノンの家でする事。あたしは一人で高級ホテルに泊まり優雅に過ごすから。ノンのいない家で一人過ごすのは耐えられないから。日にちは今月二十三日の土曜日から翌日の午前九時まで。イブは三人で過ごそう。絶対に後腐れ無いようにね。」
「咲さん、ありがとうございます。二週間後ですね!緊張しますね。ノンさん、よろしくお願いします。」
俺は二杯目のハイボールを飲み干した。心の声で(三杯目)と咲に求めると(良いよ)と返事が返って来た。そんなに怒っていなさそうだ。牛肉をおかわりして三杯目のハイボールを口にした。
俺は二人に聞いた。
「十二使徒ってなんだか面白そうだね。俺は何かする事無いの?年内はタンポポも休むからやる事があれば手伝うよ。」
「ノンは、あたしと真菜の安全を祈っていてくれたら良いよ。『TEAM JAPAN』は女の園だし。中に入ると結構ドロドロしてるから。相手にするのは真菜だけにしてよ。じゃないとアヒルの餌になるよ。それと病院にいたあの女と携帯番号交換してるでしょ?今すぐ消して。後、着信拒否してね。」
「冴子は可哀想な経験の持ち主なんだよ。両腕から首筋までリストカットの跡が生々しく残っているし……まぁ良いか。消すよ。」
俺の携帯を覗き込む咲。冴子のデータを消去するのを確認すると笑顔になる咲と真菜。
「ノン、元気出して。あたしと真菜がついてるし。ノンが望むなら来週から水晶占い時間短縮しても良いし。あたしも二十歳だから雀荘荒らしでもする?」
「雀荘も良いけど、咲は目立つからな。もう少し様子をみてからやってみよう。」
しゃぶしゃぶ食べ放題の終了時間になった。咲がお会計を済ませ店を出た。時間は午後二時を回ったところだ。荷物もあるしここでお開きにした。真菜を駅まで送り、俺と咲はバス停に向かった。
久しぶりの帰宅だ。部屋は綺麗に掃除されている。まずは風呂だ。咲が入り、次に俺が入る。風呂からあがるとマチルダがベッドに横たわっている。
俺はパソコンを開き久し振りに自叙伝を書くことにした。二百十ページまで書き上げている。俺が日の出屋で働いている時期だ。精神病と闘いながら良き伴侶を求め活動している時でもある。一つ一つエピソードを拾い集め原稿用紙に打ち込んだ。原稿用紙十枚書いたところで終わらせた。年内は時間がタップリある。じっくりと焦らず書くことにした。
小腹が空いたのでカップ麺を食べた。寝る前の精神薬を飲みベッドに潜り込んだ。 仰向けに寝るとマチルダが俺の胸に乗りゴロゴロと甘えている。俺の入院中、マチルダも寂しかっただろう。野良猫で雨風にさらされ、食べるのにも困るよりはマシかな。
そんな事を考えていると自然と眠りについた。
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