第53話 二番目の女

ロビーでの会話が続く。



「ノン!」


「ん?」


「ノンはもう一人ぼっちじゃ無いんだってわかる?こんなに可愛い嫁と娘が付いて離れないんだからね。」


「咲さん、嫁っていつから嫁になったんですか?」


「えーっと、一昨々日の木曜日に契りを交わしました。ノンからのプロポーズの言葉は『死ぬまで面倒見ます』だね。そしてこの指輪をはめてもらいました。」

指輪を真菜に見せ勝ち誇った表情の咲。


「それでは、わたしお妾さんで良いです。影の女に徹します。ノンさんよろしくお願いします。」


 冗談とも本気ともとれる真菜の言葉にうろたえる俺。


 咲が話す。

「アハハ!真菜は美人で器量もいいから良い相手が見つかるよ。日本人で無くても良いんだし。レオナルドディカプリオみたいな渋いイケメンにプロポーズされるよ。浮気が心配だけどね。」

 

「わたしは、少しブサ男くらいが丁度良いんです。言い方がノンさんに失礼ですけど。浮気は論外です。咲さんからもらった魔除けの写真、肌身離さず持ち歩いているんです。この魔除けに何度助けられた事か。ノンさんの二番目の女にして下さい。ただし三番目の女は駄目です。咲さんと阻止します。」

 

「あらら。どうするよノン。真菜はノンの作った心の方程式の大ファンだしな。どうやら本気みたいだね。これからポセイドンプロジェクトが進むにつれ世界中の美女からアプローチされる可能性があるのに。あたし一人じゃ心細かったから丁度いいか。えへへっ。」

 

「ごめん真菜。不幸になるのは咲一人で十分だ。今の俺には咲一人でもいっぱいいっぱいなんだ。良い相手が見つかる事を祈ってるから。これからも俺と咲を助けてね。」

 

「不幸って。でもさすがあたしの見込んだ男だ。真菜、ノンみたいな男を探しな。まあそうそういないけどね。」

 

「わたしは諦めません。二番目の女で良いんです。咲さんにも認めてもらいます。退院したらわたしの初めての男になるのです。これから『TEAM JAPAN』のけん引役がバージンでは笑われます。咲さん、許可して下さい。」

 

「わっ、目力強っ。取りあえずノンが退院してからだね。あたしは真菜なら良いよ。後はノン次第だ。任せた。」


 ここで終了時間が来た。病室に戻らなければならない。咲は霊力を使い、俺と真菜が心の声で話せる様にした。お別れのハグを咲と真菜にして病室に戻った。


 ベッドに横たわり咲と真菜の心の声を聴いてみた。するとどうだろう。二人で英語を使い会話しているではないか。(日本語で)と俺。


(あぁごめんね。真菜、日本語で話そう)

 

(恥ずかしいです。)と真菜。

 

(今ね、あたしとノンの初体験の話で盛り上がってたの。あたしが透けたネグリジェを着てノンを挑発したら野獣の様に襲いかかって来たって。そうしたら真菜もそのネグリジェを貸して欲しいって。興奮するでしょ。)

 

(野獣って……。わんわん泣きながら抱いて欲しいって言ったの咲だろ。)

 

(ノン、そんな細かい事は良いから。悩ましくて悶々としてるんだね。早く退院しなさいね。次は三回戦だからね。)

 

(何ですか?この前も咲さんの声で、もう一回戦とか聴こえました。麻雀ですか?)

 

(真菜はウブだね。これからノンに少しずつ汚されていくんだね。あたしは黙って見守るよ。)

 

(そんな事言っても俺が真菜を抱いたら咲は怒るだろ。)

 

 一言(愚問)と答える咲。すでに怒り心頭だ。真菜に手を出したら血を見るだろう。

 

(ただし、真菜がやけになって適当な男に抱かれて身ごもったりしたら大変なんだよ。それを考えるとノンに抱かれた方が安心だ。ノンはプロの女相手に鍛えていたからテクニックもある。腹上死してもあたしと真菜が相手ならノンも本望だろうし。)

 

(腹上死って、咲はそんな言葉どこで覚えたの?)

 

(広辞苑の最新版は全て頭の中に入ってます。時間潰しに書店で立ち読みして覚えたんだ。凄いでしょ。でも真菜は本当にノンで良いの?)

 

(わたしは後悔しません。でもくどい様ですがわたしと咲さん以外の女性との性的な関係は許しません。勿論プロの女も駄目です。裏切ったらノンさんの大切なモノを切り落とし、アヒルに食べさせ二度と性行為が出来ない様にします。それがわたしの希望です。咲さんが正室ならわたしは側室です。ノンさんよろしくお願い致します。)

 

(なんだか物騒な話になってきたね。真菜に好かれている実感がノンに無いんだね。それとあたしの心の整理が出来ていない。あたしだけのノンでいて欲しい気持ちが強いから。でもこれからの事を考えると真菜の存在が大きいよね。今、答えを出す必要が無いからこの件は保留にしよう。)

 

 咲と真菜が駅に着いた様だ。俺は心の声から離れた。二人は好物のとんかつ屋で食事をするらしい。俺は病院で夕食を食べる時間だ。


 病院での食事は寂しい。咲と食事を共にするのに慣れて来た俺には味気ない時間だ。色々考えるとまた自殺願望が顔を出す。夕食を済ますと午後九時の就寝時間まで何もする事が無くぼんやりと過ごす。


 咲と真菜は競う様に猛勉強をしている。邪魔にならない様に気をつける事にしている。寝る前の精神薬を飲むと一時間もしないうちに眠りにつける。

 

 かなり強い睡眠薬が処方されている。今の俺には丁度良いのだろう。今度の主治医の面談で退院の日が決まるはずだ。だが退院後の生活は何も決まっていない。タンポポに取りあえず戻る選択肢もある。


 咲の取り組んでいるポセイドンプロジェクトとか言うやつも俺にはよくわからない。寝る前の精神薬を飲み目を閉じると直ぐに眠りについた。

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