第52話 統合失調症ってなに?

 三泊四日の外泊はあっという間に過ぎた。


 外泊最後の日曜日、真菜と合流して桜田教会の礼拝に参加した。真菜のリクエストだ。俺が一緒でないと参加しづらいらしい。真菜と会うのも久し振りだ。教会の受付を済ませ礼拝堂に入り椅子に腰かけた。


 真菜は咲の身に着けるネックレスと指輪に気が付いた。羨ましいと言う真菜にちょっと優越感に浸る咲だった。


 礼拝が始まる。黙祷、そして賛美歌を唄い聖書を読む。牧師の説教を聴き、献身を捧げ黙祷をして終了となった。その後食事会になった。


 今日のメニューは、イワシの甘露煮、ふろふき大根、ツクネ煮、ポテトサラダ、きゅうりと白菜の漬物だ。それと具だくさんの味噌汁に大盛りのご飯だ。ホームレスの人達にとって週に一度のご馳走だろう。


 咲と真菜はいつも通り食べきれない分を欲しい人にあげている。ここの礼拝に参加すると明日は我が身だと痛感する。タンポポを辞め完全に収入源を絶たれた俺には厳しい未来が待ち受けている。


 統合失調症の五十三歳の男に働き口など無い。


 最悪、今住んでいる所を出て生活保護を受けるか?それに比べ、太陽の様に明るく振る舞う咲と真菜。


 今日は食事会が終わった後、寒くなって来たので希望者に毛布を配るそうだ。路上生活者には有難い事だろう。俺がホームレスになるのが現実みを帯びて来た。


 食事会を終わらせ教会を後にした。駅に出て映画館の隣りに寄り水晶細工の店に行った。真菜には咲が申し訳ない程お世話になっている。咲の持っているネックレスの違うデザインの色の物をプレゼントした。指輪は咲が焼きもちを焼くので止めた。

 

 二人とも精神病院まで付いて来ると言うので了承した。


 聞くと真菜も俺の英会話教材をウォークマンに入れて聞いていると言った。先日の咲の喋る英語は分かったらしい。何を話していたのか聞くと「秘密です。ノンさんも英語を勉強して下さい。」と、笑う真菜。


 精神病院に着くと午後三時だ。ロビーの椅子に腰かけお喋りをした。順調にいけば年内に退院できそうだ。咲もそれを待ちわびている。


 入院患者が意味不明の言葉を発しながらロビーをウロウロしている。顔を見合わせる咲と真菜。礼拝に参加しているホームレスの人達の方がまともだろう。俺もこの患者達と同じなのだ。絶望感に襲われる時でもある。


「あたし思うんだけどノンの途中まで書いた自叙伝読むと誤診だったんじゃないかって感じるんだよね。お父さんに無理矢理精神病院に入れられたって。だってノンは正常だし、みつくちの障害の影響でちょっと臆病になってるけど心が綺麗だよね。」


「わたしも同意見です。ノンさんの自叙伝は見てませんが長年の精神薬の服薬の影響が大きいと感じます。生まれながらのコンプレックスがある様ですが強い心を持っていると思います。」


「二人ともありがとう。でももうやり直し出来ないしこれからを楽しもう。俺が退院したらまずは隣町散策だね。焼き鳥屋の親父さんまだ頑張っているのかな。焼き鳥は炭焼きで、〆の鶏スープが絶品なんだ。」


 病院のロビーでの話が続く。


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