夏コラボ企画の打ち合わせ
『どうも皆さん、こんにちは……! 今日は告知した予定通り、大先輩の旋律さんに来ていただきました……!』
『こんにちはやけんね。今日はヒスイちゃんのチャンネルにお邪魔させてもらってるばい。ということで先輩として、色々ヒスイちゃんに聞いていこうと思うとね』
『あ、あれ……? 予定では私が旋律さんに色々聞くはずなんですけど……』
:草wwwww
:ヒスイちゃんのチャンネルなのに、乗っ取りされかけとるwww
:困惑してるヒスイたそhshs
:神コラボキター!! 楽しみすぐる
:推しと推しの共演は尊死する
涼音と旋梨ちゃんの二人とデートをした後、俺たちはミライバに戻り配信の準備をした。
カウントダウンの合図後、二人は上手く息を合わせて入りは完璧だった。
プライベートにおいて関わることの多かった二人だが、配信上でコラボするのは初だ。
故に立場は先輩と後輩になり、若干そのせいでもあるのか涼音は緊張していた。
あらかたトゥイッターの方で二人がコラボすると告知していた効果もあってか、待機者は30分前から9000人以上を記録し、始まると同時に跳ね上がり18900人になった。
『あははっ! でもあれやけんね、そろそろヒスイちゃんも慣れてきたとね? まだ緊張してる部分もあるかもやけん、それでも前よりかはほぐれてる感じがするばい』
『そ、そうですね……。最初の頃はやはり個人勢から企業勢になったことで色々な方と接したり話したり、それだけでも大変でした……。でも旋律さんやカゲロウさんにホムラさん。色々な人が優しく教えてくれたり、今見てくれてる視聴者さんたちも受け入れてくれたりしてるので前よりかは少し気持ち的にも楽かなって思ってます』
:企業勢として活動する上で、個人勢の時よりは立場が違ったりするからねぇ
:まだ日は浅いけど、企業勢での初配信でカゲロウやホムラがオリジナル曲を贈ったりするぐらいだもんなぁw
:相当可愛がられてるってことよ
:旋律たんもめちゃくちゃ気に入ってるよねw
:だがカゲロウには厳しいご様子w
『カゲロウ君に対してはあれやけん。弟でもなく兄でもなく、近所の子供……みたいな? 騒いでカミナリ親父に叱られてるイメージがあるばい』
『そのカミナリ親父さんはホムラちゃんかな』
『ふふっ、あはははは! 違いないばい! いっつも怒られてるけんね!』
:wwwww
:確かにそうかもしれないwww
:思えばカゲロウってホムラちゃんに怒られない日ってないよねwww
:ナイス例えだ、ヒスイちゃんwww
:見てるかな、カゲロウwww
順調に旋梨ちゃんとの絡みを進める涼音。
俺はそんな二人の様子を伺いながら、テーブルに書類を広げる。
マネージャーとしてその日の配信をまとめた書類の提出も然り、宮田との勝負ごとに対する予定を自分なりに書かなくてはならない。
その両方をぎこちなさの残る感じで進めていると、出入り口となっている俺の居る部屋のドアが小さくノックされた。
一応防音となっているが、それでも二人の世界を壊さない為にも気遣い、物音を立てないようにドアに近づき開けた。
「あれ、瀬川さん?」
「お二人の配信中にすみません。今回はコラボ配信で長めとのことで、その間の時間を使って一緒に打ち合わせをしようかなと思いまして」
「あぁ、宮田との件についてですね。大丈夫ですよ、正直言えば俺一人だと少し悩んだりしてたので」
ドアを開けた先に居たのは瀬川さんだった。
どうやら気遣ってくれたらしく、一緒に打ち合わせをしてくれるとのこと。
俺は心強いというのもあり、瀬川さんを中に入れて一緒に座った。
「涼音ちゃん、変わりましたね。前はあんなにぎこちなかったのに、今では普通にコラボでもこうやって問題なく進行できてるみたいですね」
「此処に来てから涼音の周りに恵果ちゃんは翔太くん、それに旋梨ちゃんや鳴海ちゃんといったように友達が増えたというのも大きいかもしれません。今までは一人だったのが、ここで出来た友達との交流があってこそだと思います」
「そうですね。でも、裕也さんも変わったと思いますよ? 実家がラーメン店というのもあってマネージャーの知識はゼロに等しい状態だというのに、頑張ってくれてるようで」
「いえ、そんなことありませんよ。知識が無い俺に色々と教えてくれた瀬川さんのおかげでもありますから。それに、まだまだです」
事実、ラーメンの知識しか無かった俺にマネージャーとしての知識を与えてくれたのは瀬川さんだった。
そのおかげで涼音を雀の涙程度とはいえ支えることもできてるだろうし、感謝の気持ちしかないともいえる。
けど瀬川さんは涼音や俺のことを、忙しいながらも見てくれているんだな。
少し嬉しい気持ちになるし、もっと頑張らないといけないと思えた。
「さて、お二人も順調に進行できているということでこちらも打ち合わせをしましょうか。日程やその時刻、配信時間などは宮田さんとの話し合いの中で今度の土曜日になりました。学生たちの夏休みが終わる前に企画実行ということになりましたが、裕也さんに決めて欲しいのは対決内容であるゲームのジャンルと、対戦方式です」
「ジャンルと方式に関して、宮田からはこっちで決めていいと言われたんですか?」
「えぇ、なにせ宮田さんの担当するVTuberは生粋のゲーマーですからね……。余程、自信があるのでしょう」
「八神さんからも聞いていますが、ミライバでは四人一組で堕天四姉妹って呼称されてるみたいですね。……名前のインパクトから、勝ち目に関して不安がありますが」
「元々、個人で名を馳せたプロに近いレベルですからね……」
俺と瀬川さんは互いに唇を噛み締め、まさに絶望と言わんばかりに下を俯いた。
とはいえ打開策は必ずあるはずと思いながら俺は涼音たちの配信を映すデスクトップとは別のノートパソコンで、堕天四姉妹と言われる宮田の担当VTuberのプロフィールを開く。
「勝ち目あるがないかは置いといて、ジャンルは相手が得意としているものにします。なので音楽とパズル、アクションの三つは確定事項で進めていくと思います」
「音楽とパズル、アクションですね……。もう一つはどうしますか?」
「そこなんですよね……。今上げたジャンルは4人中3人の得意ジャンルということで対策はそれ集中で出来ると思いますが、それ以上に警戒しないといけないのはエカチェリーナさんです。プロフィールにもある通り、全般って強く主張している以上、下手に選べません」
椅子に背を預け、考える。
他の三人は得意ジャンルが決まってる為、旋梨ちゃんと鳴海ちゃんにはそれぞれ指定されたジャンルの練習をしてもらうことができる。
しかしエカチェリーナさんのように、一括りで全般と示されると予想ができない。
しかもこっちはまだ二人……。
残りの二人を探さないといけないのだが、なかなかに見つからない。
それから色々と瀬川さんと打ち合わせをしていると、スマホが振動した。
それも連続ということで電話のようだが、俺は手に取り確認する。
どうやら海斗からだ。
この時間はあいつもまだ仕事の最中、珍しいと思った。
瀬川さんに一声掛けて、俺は静かに部屋を出て廊下で電話に出た。
「んあっ、どうした海斗」
『ちょっと話したいことあるんだが、いいか?』
ふざける素振りもなく、真面目だった。
俺は瀬川さんとの打ち合わせもあり、長くはできないと一言添えて応じた。
海斗もそれはわかっているようで、手短に伝えると了承した。
『宮田と勝負するゲームのジャンル内容、もう決めてあるのか?』
「ちょうどそれらを配信のチェックしながら瀬川さんと打ち合わせしてたところだ。一応ジャンルは音楽ゲーム、パズルゲーム、アクションゲームの三つは決まってる。あと一つのジャンルはまだこれからって感じだな」
『なるほどな。ちなみに構成として誰がどのジャンルに配置するかも決めてるか?』
「音楽ゲームは旋梨ちゃんが妥当だな。パズルゲームは八神さん曰く鳴海ちゃんが得意とのことで二人は決まってる」
『旋梨ちゃんと鳴海ちゃんね……。じゃあアクションゲームに翔太くんを推薦したい』
「えっ、翔太くんを?」
『あぁ、そうだ。実はな……』
海斗から聞かされた、翔太くんの現状。
実家に帰省した時に開いたVTuber会議で、俺が戦力になるのは旋梨ちゃんと鳴海ちゃんの二人だけと思っていた現場を見て、力になることができないとその日から負い目を感じてしまっていたようだ。
それから裏で俺の力になろうと恵果ちゃんや遠藤さんの言い分も聞かず、睡眠を削ってひたすら練習に時間を割いていた。
それが数日と続いていて、体調は見る限り寝不足や疲労が見えるとのこと。
ちなみに練習しているのはアクションゲームのスマ○ラらしい。
だがそれよりも、俺は翔太くんのことを気遣うこともせず、負い目を感じさせてしまっていたという事実に情けなく思った。
しかし海斗はそんな翔太くんを止めるよりも背中を押す形で事を収めたらしく、空いているアクションゲームの枠に是非と推薦。
聞かされる翔太くんの努力を蔑ろにするわけにはいかない。
同時に俺は深く反省した。
「わかった、頼りにしてると翔太くんに言っといてくれないか? 正直、瀬川さんとも話をしていたが人数に困ってたからな……。それに翔太くんが頑張ってくれてるのに、それを蔑ろにできるはずもないし」
俺の言葉に、海斗は小さく笑った。
そして組み立てている現在のスケジュールを聞いてきた為、俺は今度の土曜日ということと、その意図を伝えた。
それに関して海斗は頷き、仕事の最中にすまないと一言添えて電話は終わった。
それから静かに戻り、待たせていた瀬川さんに軽く謝り座った。
「なにかありましたか?」
「海斗から翔太くんをアクションゲームの枠に推薦したいと言われました。どうやら裏で頑張ってくれていたらしく、その努力を蔑ろにしない為にも受け入れることにしました。これで三人は確定ですね」
「そうですか。となると、あと一人ですね。一応声を掛けている子が居るのですが、現在ミライバには居なくて少し日が空きそうなんですよね」
「えっ、そうなんですか?」
「えぇ、今は子会社であるアスノテに用事があってマネージャーと一緒に出張してるのですが、もうすぐ帰ってくるんですよ。男の子で、口調は荒々しいですがゲームは凄い上手い子なんですよ? まぁ……、他人に左右されない、興味ないものにはとことん冷たい旋梨さんと違って、一味二味癖の強い子なんですけど……」
「……DreamLifeって曲者の集まりですか?」
瀬川さんは乾いた笑いをしつつ、協力者になるかもしれないという男の子について触れた。
名前は
今はアスノテに出張とのことでミライバには居ないが、時期に会えると教えてくれた。
まぁ翔太くんみたいな癖強いVTuberを見ているから多少は慣れているだろうが、なぜか嫌な予感しかしない。
ひとまず辰己くんのことを頭に入れておき、俺は指定したジャンルのゲームソフトや、対戦方式の調整をすることにした。
期間は二週間、長いようで短い。
その間にも予定を組み上げて、練習の時間を設けないといけない。
まだやることはあると、楽しんで配信をしている涼音たちには視線を向けながらも瀬川さんと一緒に打ち合わせを続けた。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
ーーVTuber支援会社アスノテにて。
「辰己くん、辰己くん! 午後の打ち合わせをするから、早く起きなさい!」
「あ“〜、うるさいのぅ……。ちゃんと起きちょるわい……」
「全く! もっとしっかりしなさい! だらしないでしょ!」
「ぴーちくぱーちく、口を開けば“姐さん”はやかましいんじゃあ! 起きちょると言っとるじゃろうがぁ! ……ったく」
顔に本を広げて載せ、寝ていた少年はマネージャーに急かされ起き上がる。
手入れされていないボサボサの黒髪のツンツンヘアーに、紅い瞳。
「アスノテの案件の打ち合わせはまだあるし、瀬川さんから話も聞いてるでしょ!? いつまでも屁理屈言ってないで準備する! 私は先に外で待ってるから、早くしなさい!」
ガミガミと言った末に、プンスカと怒りながら部屋を出ていくマネージャー。
その場に取り残された少年、国枝辰己は寝ていたソファーに背中を預け、深い溜息を吐いた。
「あ”〜……、どっかにいい男おらんかのう……。あんな野蛮でやかましい姐さんじゃなくて……」
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