義妹がVTuberで、俺はそのマネージャーらしい

御宅 拓

プロローグ -事の始まり-

カミングアウトは唐突に【兄貴side】






「あの、兄さん……。実は私ね、VTuberしてるんだ……」

 

「……お、おう」

 

 

 ――俺の名前は神代裕也、齢21歳でありながら実家のラーメン店で働いている。

 今日は日差しが程良い晴天の日曜日。親父の許可を得て新作ラーメンのレシピに励んでいた午前十時ぐらいに、義妹である神代涼音に唐突なカミングアウトをされた。

 

 俺自身、自分の趣味に関しては周りにとやかく言われる筋合いは無いと思う故、涼音がVTuberをしていることに関しては別にどうでもいいとさえ感じた。

 

 しかし疑問に思うのは、なぜ今なのかということ。いや、様子からするに今まで隠していたような仕草と言葉なんだが、何故本当にこのタイミングなのか、そこがよくわからない。

 

「あー、なんだ……。親父とかにでも、バレたか?」

 

「そ、そうじゃなくて……その……」

 

 しどろもどろに、話すかそうでないかを此処で躊躇し始める涼音に、俺はレシピ作りをやめ、テーブル席に座るよう言う。

 コップに水を入れて差し出し、話を聞く態勢を取る。するとなにを嗅ぎつけたのか、親父が二階から降りてくる。

 

「……裕也、お父さんは別に義妹の涼音ちゃんと密接な関係になるのは許可するけど理性を保つのはしっかりな?」

 

「殺すぞ?」

 

「あ、はい。おじさんは素直に二階で大人しくソシャゲします、すいませんでした」

 

 がん睨みを効かせ殺意を剥き出しにすると、親父は本当に素直に二階へと帰っていった。

 幸いにも話す話さないで迷っている涼音の耳には入ってなかったようで、とりあえずは安心だ。

 

 ――改めて神代涼音、齢17歳の高校生。涼音の母親と俺の親父が再婚したことで、共に住むことになった。

 色々な過去があったみたいだが今は省くとして、涼音の性格上物静かで、言葉にするならただただ凄くいい子というぐらい。

 

 ただその反面、自分の伝えたい気持ちが上手く伝えられず、自分の中で自己完結してしまい抱え込むこともしばしば。

 そんな涼音が、ほんと唐突にカミングアウトをしてきた。それも親父の反応からするに俺だけのようだが……。

 

「涼音の母親と俺の親父が再婚して二年だ。最初は互いに警戒し合い上手く話すこともままならなかったが、今はそうじゃない。そうだろ?」

 

「う、うん……。でも、今思うと今から話すことは兄さんを困らせたり、邪魔をしちゃうかなって……」

 

「なに言ってんだよ、お前は。別に涼音以外にも既に親父で困ったりしてんだから、慣れっこだわ。それに親父と涼音とじゃ価値が違う、だから話してみ」

 

「前から思ってたけど、お父さんには凄い辛口だよね……」

 

「いいんだよ、辛口で。調子乗るといつもうざいからな」

 

 親父の扱いは雑が丁度いい、それに限る。手でひらひらと説明する俺に、涼音は苦笑する。

 甘える時はとことん甘える、そうしてくれと伝えると、涼音はスカートをギュっと両手で握り締め、俺の目を見て言った。

 

「あ、あのね……。私の、マネージャーになってほしい……!」

 

「……ん?」

 

 いや、話の流れがぶっ飛び過ぎて反応鈍ったわ。もはや端折りしすぎて、脳味噌がこってり状態だわ。

 涼音に結果だけを伝えるのではなく、それに至るまでの事の経由を話してくれと伝えた。

 そして数十分と話を聞く中で、俺なりにまとめたのがこうだ。

 

①VTuberをしており、チャンネル登録者が15万人。

②企業勢としてではなく、趣味の一環で個人勢。

③しかし15万人となれば、そこそこ有名であり企業からのお誘いが最近出てきた。

 

 大きく分けてこの三つ。そして結果的に俺にマネージャーをしてほしいと言ったのは、見知らぬ人がマネージャーになるのは辛いからというものだった。

 

「いや、そもそも話は置いといて個人勢で15万人も登録者数が居るのに驚きだわ……。半年前からって言ったけど、どんなうなぎ登りしたらそうなるんだよ」

 

「わ、私も最初は本当に趣味でやってたの……。けど、雑談を通してゲームとか色々やるようになったら、その……声がいいとか、可愛いとか色々言われて、その……」

 

「あ~、まぁ特にVTuberだと声が売りみたいなところあるからな。それに涼音の場合、声質が透き通ってるから尚更だろうな」

 

「えっ? そ、その……ありが、とう……」

 

「しかし本題に戻すとして、マネージャーをするにしても俺は知識ゼロだし、資格もなんもねぇよ?」

 

「あ、えっと……そこに関してはお誘いを貰った企業の担当者さんが教育しながら進められるからいいよって言ってた……」

 

「いや、いいんかい」

 

 なんでや、その企業。どんだけあっさりしてるんだ。あっさり過ぎてスープがただのお湯じゃねえか。

 しかし話を聞いてる限りでは、涼音は企業に入りたそうな雰囲気がある。

 

 だが現実味で考えれば、涼音の性格上確かに上手くはいかなさそうだしなぁ。

 一応、涼音がどうしたいか聞いてみるか。

 

「涼音はどうしたいんだ?」

 

「わ、私は高校生で上手くお金も稼げないから……。企業に入って少しでもお父さんやお母さん、兄さんを楽にできるならと思ってるかな……。それにVTuberは、凄く楽しいの……」

 

 二年前の初対面の時でもいい子だとは思っていたが、自分の趣味を通して俺たちの負担を少しでも緩和させようとする気持ちは人一倍に強いのだろう。

 そして最後の言葉を言った後の純粋な笑顔。これは全国の兄貴どもが落ちるわ、うん。

 

「涼音がそうしたいなら俺は協力する」

 

「ほ、ほんと……!?」

 

「あぁ、ただ条件がある」

 

「えっと、その条件とは……?」

 

「これまでは個人勢、趣味の一環でやってたものが仕事の部類に入るわけだ。企業のスケジュールによっては指定された時間での配信に加え、恐らく案件もあるだろう。それだけじゃない、涼音と同じVTuberの方々との接点も多くなったりするだろう。マネージャーをする話の以前に、涼音の根気と頑張りが必須条件だ。俺はあくまでお前を支える裏方、メインはお前次第だからな。それでもいいならその企業と俺が話をしてやる。どうだ?」

 

 俺は現実から目を逸らすのは好きじゃない。だからいち社会人として、教える。

 仕事として動く辛さ、人間関係の苦労さ。自分の好きなことをやるとしても、必ずどこかで躓く。

 

 それでもやる気があるならと、俺は甘やかさない。涼音は少し考え込むようにして、下を俯く。

 それが数分と続いたが、やがて顔を上げた涼音は決心を付けたように、言った。

 

「私……頑張る。兄さんを頼っちゃうかもだけど、出来るだけ自分でちゃんとできるように変わりたいから……!」

 

 ンンンンンンンンンッ!!! めちゃくちゃいい答え、それでありながら可愛い。

 大人しめ物静かな涼音がここまでやる気を見せるなら、俺は喜んで手助けをしよう。

 

ということで。

 

「んじゃ企業に話す前に、親父たちに報告すんぞ」

 

「ふあぁ!? そ、そんなの条件になかった……!」

 

「言わずともわかる必須条件だろ。言わないなら俺から言っといてやるよ」

 

「兄さんのいじわる……!!」

 

 俺の服を掴み止めようとするも、軽いせいでズンズンと前に進める。こりゃ俺と涼音の二人だけの秘密ってわけにもいかんだろ。

 俺は嫌がる涼音を他所に、二階へと上がっていった。

 

 

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