『またくり返す・・・。』
@ryothenmn
第1話 青い花と転校生
明け方降り出した雨のせいで、ただでさえ沈んだ気持ちが余計に重い。
僕がこの病院に運び込まれたのはちょうど1週間前。どうやら僕は奇跡的に助かったらしい。
目覚めるとそこは何もない無機質な部屋で、見覚えのない景色に何が起こったのかも思い出せなくて怖かった。
ここは病室で、どうやら手術は成功したようだ。
脚が折れているのか歩けなそうな気がしたけれど、どうにか落ち着いて身体を起こし、周りが少しずつ見えてきた頃窓辺に両親が飾ったと思われる花に気が付いた。
優しい色合いの、その青い花はアネモネだった。
雨は午後も降り続いていた。
病室のベッドの上、動けない僕。
窓の外を眺める位しか、今の僕にする事はない。
灰色の空。
病院の庭。
やまない雨。
その寂しげな色の世界の中、遠くに傘をさして立つ女の子に気がついた。
その女の子は淡い青色の傘をさして、白いワンピースを着ていた。
その表情は遠くてわからなかったけれど、雨の中俯いているその姿は泣いてるように見えたんだ。
↓
華に寄る絵。
泣きながらに笑ってる表情。
↓
視線を病室の窓に向ける。
セリフ
『君が僕なんだね。』
退院も決まり松葉杖で歩けるようになった頃、あの雨の日に見かけた女の子を思い出した。
あの子はここに入院している子だったんだろうか。
雨の中佇んでいたのがとても印象的で、気になって。
あの日、あの子がいた中庭の大きな木のある場所まで行ってみた。
あの子が立っていた場所。
あの子は泣いていたのかな?それとも・・・
ふと視線を落とすと、足元に咲いた青い花に気がついた。
それは僕の病室に飾られたのと同じ、青いアネモネの花だった。
時は流れ、現在。
中学生になった僕。
母親が再婚。
父親になったのは、『マサオ』の元父親。
ーチャイムの音ー
『お~い、今週のジャンプ買ってきたか?』
朝から聞きたくないアイツの声だ。
『ごめん、昨日は寝坊しちゃってさ、、、』
『はぁ?月曜の朝にモンマートに買いに行く役目だろ?学校来る前に買ってこいよ!』
『だからゴメンってば。買ってたら遅刻しそうだったんだよ。』
『ふざけんなよ、遅刻してでも買ってこいよ!朝からイラつくぜ!』
そう言いながらマサオは僕の肩を小突いた。
何かにつけては言いがかりをつけ、すぐ暴力を振るう。僕の1番嫌いなタイプだ。
『お前が言ったんだからな!仲良くしてほしいって!だから、その代わりに毎週月曜の朝に買ってくるって約束だろ!』
『そうだけど、だからって殴る事ないだろ!痛いじゃないか!』
チッと舌打ちが聞こえた後、僕の目の前がチカチカした。
どうにか席に着こうとすると、ちょうど先生が教室に入ってきた。
朝のHRの時間だ。
『は~い、皆さん席についてくださ~い・・・出席を取りま~す・・・』
寝癖頭の眠そうな目で水嶋先生が言う。中学に入って担任になった水嶋先生は美術の先生だ。いつも眠そうにしているけど、先生曰く低血圧のせいらしい。
『出席番号1番・・・荒井く~ん・・・』
(何番かまでは呼ばせる)
『は~い、今日は皆さんに新しいお友達を紹介しま~す・・・本間さ~ん』
そう言うと教室のドアが開き、三つ編みの女の子が入ってきた。大きめの眼鏡をかけていて、一言でいうと絵に描いたような真面目そうという印象だ。
『今日から皆さんと一緒に、この1年3組で学んでいく事になった本間まどかさんです。じゃあ、ちょっと自己紹介しようか。』
少し緊張しているのか、それとも恥ずかしいのか、その女の子は少し俯いてみんなの方を見もせず、消えそうな声で話しはじめた。
『今日から転校してきました本間まどかです・・・。よろしくお願いします・・・。』
4時間目が終わって給食の時間。
休憩の時間の度に本間さんの席の周りには女子が集まっていて、どうやら少しずつ慣れてきた様子だ。
今日の給食はカレーとサラダに牛乳。なんと今日はコーヒーシロップ付きだ。
時折り笑顔を見せるようになっていた彼女だけど、僕は何だかその笑顔が気になった。何となく、影を感じるような、笑いながら泣いているような、そういう印象だった。
数日経った頃、何処から聞きつけたのかマサオが言った。
『本間さん、妹がいたらしいよ!転校してくる前は!』
なんだか嫌な表情だ。
『青中のヤツに聞いたんだけどさ、何かコッチ来る前に死んじゃったんだって!』
大きい声で言うなよ、わざとか?聞こえるだろ。
僕が何も答えずにいると、マサオはさらに大きな声で言った。
『ほら、みんな知ってるだろ?例の公衆電話の!』
はぁ?怖い話のアレか?夜中の2時に鳴る公衆電話の話か?
そう思っているとマサオはさらに続けた。
『本間さんの妹、その公衆電話の呼び出し取っちゃったらしいよ!』
意味がわからない。仮にその話が事実だったとしよう。夜中に鳴った公衆電話を取ったとして、それがどうやったら死ぬ事になるんだ?中学生にもなって、そんな話信じられるかよ。馬鹿らしい。
それは良く聞く怖い話だ。
3丁目の、一軒家が多い地域のあまり街灯のない公衆電話。
それが夜中の2時に鳴る事がある。
その電話を取ってしまうと女の声で呼ばれて呪われるって。
都市伝説かなんかの話だろ、馬鹿ばかしい。
遠くで委員長達と話していた本間さんがコッチを見た。聞こえたのか?
一瞬驚いたような顔をした後、彼女がコチラを睨んだ。
『やめて!そんなの噂話だから!』
転校してきてから初めてそんな大きな声を聞いた。
驚いて皆が振り返る。
彼女はそれ以上何も言う事なく、泣いてしまった。
翌日。
あの後本間さんは誰とも話す事なく、3時間目が終わる頃には保健室に行き、そのまま早退した。
まさおは少しバツの悪そうな顔をしていたが、帰りにはすっかり忘れてしまったかのようにバカ笑いしてふざけていた。
まだそんなに仲良くなった訳ではないけれど、彼女のあの反応は何かが引っかかる。あの目は本当にあった出来事を掘り起こされるのを必死で隠すような、そういう凄みを感じた。
妹がいた。そして亡くなった。その事よりも、『公衆電話の噂』の方を強く否定していたような感じ。
話を聞いてみたい。そう思った。
絶対答えてくれないだろうし、怒らせてしまうだろうからとても聞けやしないけれど。
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