迷宮管理人と引退探究者
mikumo
第1話 帰郷
男は故郷を目指していた。20年以上前に移り住んだ拠点の町を出て早1か月、男は高台から眼下に広がる森を眺めた。ここから故郷の間にあるこの森には時折、魔獣が出る。その為、男が故郷を離れる時はこの森を通過する商隊と一緒に森を抜けたのだ。順調にいけば1時間程度の道のりだが、その時は餌欲しさに出てきた小型の魔獣に何度か出会い、倍の時間をかける羽目になった。今回はたった1人でこの森を抜けなければならない。背負ったバックパックを担ぎなおし男は高台を下って行った。
森の中は想像より穏やかだった。男が知っていた森とは違う。栗色の髪の毛をさわやかな風が撫でていく。もしかしたら魔獣討伐が行われた後だったのかもしれない。そうであって欲しいと男は願った。
さて、このような願いを思えば逆の事柄が起こるのは世界の法則だったりするのだろうか。森の出口が見えそうな距離まで来たというのに嫌な鳴き声が聞こえてきたのだった。それは額に角のあるウサギ型魔獣「ホーンラビット」と呼ばれる魔獣の鳴き声だった。男にとっては強敵というわけではないが、奴らは群れを形成し、集団で襲って来る為たった1人で旅をしている男にはやや分が悪い。聞こえてきた鳴き声はどうやら警告や威嚇をする時の声に聞こえた。これならば、必要以上に刺激をしなければ、襲われることもないはずだ。
腰に下げた剣の柄に手をかけたままゆっくりと歩く。森の出口が、差し込む光が近くなる。慎重に歩き続けたが再び鳴き声が聞こえてくることはなかった。森を抜け、さらに距離をとった位置で男は柄から手を離した。森を振り返り、栗色の瞳で空を見上げ、前を向く。
故郷はもうすぐだ。
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