真空管の均衡
晴れ時々雨
🕯
異様な喉の渇きを覚え目に飛び込んだ自販機へ近寄る。微糖の微炭酸水のキャップをあけ喉を鳴らし息をつく。ここはどこだ。切れかけた蛍光灯の点滅する寂れたビル内の自販機。真横の階段は狭く数段先にある踊り場は闇のグラデーション。電灯が無機質に照らす挟域は緑がかっている。突然の孤独。やばい。
なんの音もしない。管理室も共同ポストもない5m四方の空間に置かれた自販機と僕。いつの間にかペットボトルを持つ手に力が入り、軽い素材がパキ、と鳴った。
音が合図であるかのように狭い空間の四方がするすると伸び、大学病院のロビー程の広さになるが、明かりの規模は変わらずほぼ僕の周囲だけをスポットライトのように照らすだけ。闇はグラデーションの域を超え本領を発揮しだした。
均衡、それが崩れそうになる。やばい。
闇の奥で、闇から僅かに吸収した光を反射させた何者かが動いた。部長。彼は狂った歩調でこちらに近づいてくる。歩調と矛盾した速度。
不思議な懐かしさを感じるここは病院のロビーではなく、改修前のオフィスだ。
きっと部長はあれを言う。
『早く帰れよ』
あんたが帰らないから帰れねえんだよ。今だってそうだ。
書類の片付けをして部長の退室を確認したあとオフィスの照明のスイッチを消す。エレベーターのボタンを押して待つ間、まだどこかに残っていた部長が音もなく現れ僕は一瞬どきりとする。
『おつかれ』
ぽいと投げて寄越す濡れたペットボトル。微糖微炭酸水。
お疲れ様です。でした。
また遭えますか、一人は耐えられそうにないので。
真空管の均衡 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます