何故か周りからの当たりがきついけど、隣の席の佐藤さんだけは俺に甘々です。
枝咲
第1話 優しい人ほど、損をする
祖母は小さい頃よく俺に言い聞かせていた『優しい人ほど損をする』だから自分に優しくしてくれる人は大事にしなさいと。
自分を大切にしてくれない人は自分も大事にする必要はないと。
今思えばそれは祖母の後悔なのだろう、夫に恵まれず裏切られ。女手一人で育てた母は都合の良い時だけ祖母に頼るような人だった。
―――俺ももっと祖母に優しくすればよかった。
『今日隆正いないから、真依の好物をたくさん作ったぞー!いつ帰るんだ?』
『は?まじウザイんだけど。ご飯作ってなんてたのんでないし。今日友達と外でご飯だから、じゃ』
声色から漂う不機嫌そうなオーラを纏っていたのは俺の妹、宮下真依。小さい頃は俺の近くにいつもついて回っていたのに最近はずっとこんな感じだ。
(勝手に切りやがった……反抗期か?やっぱり俺は嫌われてるのか?お兄ちゃんかなしいよ)
母親は俺がものごころつく頃に、父親名義で借金を作り蒸発。その影響で父は今まで以上に働く必要があり、俺は自然と小さい頃から掃除洗濯ご飯の準備まで家事全般をこなすようになっていた。
さて、この妹の好物ばかりのおかずたちをどうしようか。今日は隆正も帰る予定はないしな。
そうしばらく俺は考えを巡らせて、真っ先に思い浮かんだのは同じマンションで隣に住んでいる同級生。三森奈緒だが俺はすこし気が進まなかった。
彼女は俺と同じで親が家に居ないことが多い、その関係で彼女の親から何かあった時はよろしくと頼まれているが。俺はたぶん、彼女に嫌われている。
(よろしくと頼まれてるしな……ほっとくとろくなもん食べないし、行ってみるか)
おかずをタッパーに詰め、彼女の家へと向かい。チャイムを押した。
「どちらさまですか……?」
「あ。俺俺!」
「俺俺詐欺はお断りです」
「すまん、おかずを分けに来たんだ。入れてくれると助かる」
「…………何を持ってきたの?」
「きんぴらごぼうと肉じゃがだ」
そう答えると奈緒は明らかに不機嫌そうなオーラを纏い、またかと呆れた顔をこちらに向けてきた。
「はぁ。また、妹の好物」
「あれ、?嫌いだったか?」
「嫌いじゃないけど………また真依ちゃん、食べてくれなかったの?」
「そうなんだよ〜今日は友達とご飯だとよ」
「なるほどね。じゃあ。しかたなく、受け取ってあげる」
「ありがとな!!」
「……夏樹はご飯たべたの?」
「え?まだだけど」
「じゃあ、うちで。いっしょに、たべ…………」
その時俺のスマホが鳴った、奈緒に一言断りを入れ電話に出る。画面には小竹心と表示されていた。
『どうした』
『今日妹はいるか?』
『お前にうちの可愛い妹はやらんぞ』
『……無念』
電話越しにバタンと倒れる音がした。
『大丈夫か?』
『ああ……まあ冗談はこの辺にして。夏樹は今日夕飯ひとりか』
『そうだな』
『ガチャ』
「あいつ急に電話切りやがったな。すまん、さっきなんか言ったか??」
「やっぱ。何でもない」
「そうか?何かあったら言えよ、またな!」
おかずを聞いてから、奈緒は明らかに不機嫌そうだった。きんぴらごぼうと肉じゃがは苦手だったのかもしれない。
無理やり押し付けて申し訳ないなと思いつつ。
次は好物を持って行ってやろうと俺は考えを改め、その場を後にした。
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