王立芸術音楽学院高等部芸能コース

@oomorigohan

第1話 見ザル言ワザル聞カザル

「うっせぇ」

 と、どなって教室から乱暴に出て行く少年。

 またかとあきれかえって、少年を放置したまま授業を再開しようとする教師。

 それをほうっておけずに「わたし心配なんで、ちょっと見てきます」と追いかける少女。

 ひやかすその他おおぜいの生徒たち。

 めんどくさそうに、邪魔くさそうに見つめている…フリ、をしている私。

 いや、もうガン見。眼福。出て行った少年はアイドルグループアザラシのゴマちゃんことゴトウマツリくんですよ!いま、ぜっさんドラマ撮影中!わたしは、モブ生徒のひとりをやっております!

 なんでこんなことになったのか。ほとんど一般人のわたしが撮影現場にもぐりこめるなんて、うれしいをとおりこして恐怖というか、困惑?


 半年まえ、中学三年生だったわたしは地方都市にある実家にいて、地元の高校に進学するつもりでいた。

 そこへ、わたしの叔母にあたるレイちゃんの母親がやってきて、王都にある叔母さんの家に住んで、レイちゃんと一緒の高校に通わないかと進めてくれた。レイちゃんはちいさなころから芸能界で活躍していて普通の友達がいないから、友達になってやって、て。

 レイちゃんの進学予定の学校というのが、王立芸術音楽学院高等部だった。そこには衣装や美術なんかを学べるコースがあり、わたしはそっちのほうに興味があった。けっして芸能コースのほうではなかったし、一般人が入れるようなところでもなかったはずなのだが。

 今、わたしは、叔母さんの家に居候し、王立芸術音楽学院高等部芸能コースに通っている。

 そして、レイちゃんというのが、このドラマのヒロイン、森川玲ちゃんです。


 撮影のあいま、ゴマちゃんを中心に、なにか盛り上がっているようです。わたしはあのキラキラした中には入ってはいけない。無理。まぶしすぎる。だいたい世界が違う。わたしは芸能人側の人間ではない!オタク側の人間だー!

 いや、わたし、オタクでもないのですけど。金銭的理由で。

 わたしの地元の友達ユウカちゃんがゴマちゃん推しだった。いや、過去形ではなく今現在ぜっさん推し中なので、この現状はユウカちゃんに申し訳がたたない。こころぐるしい。うっかりゴマちゃんのリアル恋愛の話なんてのを聞いてしまったらどうすればいいんだろう。話したいけど話せない。無理だ。聞きたくない。芸能コースに入ったことも、ゴマちゃんのドラマにちょい役で出ることもまだ言えないでいるのだ。

 ユウカちゃんと一緒に、わたしも何回かアザラシのコンサートに行ったことがある。楽しかった。自分の推しのコンサートだと余計なことまで気になりすぎて純粋に楽しめなくなってしまっていることがくやまれる。

 アザラシはデビュー2年目。デビュー曲が“ねこねこ寝ころんだ”2曲目が”いっぬは喜び“。3曲目が、このドラマの主題歌となる“カモカモカモフラージュ”。自分で自分を偽っていくうちに、自分自身、もう、なにがなんだかわからなくなっていくという、そういううた。

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