悪の華~復讐に取り憑かれた者の末路

ちい。

第1話

 ずぶり……

 

 はち切れんばかりの豊かな胸の谷間に、漆黒の刀身が滑り込んでいく。純白の法衣がそのきっさきを中心にじわりじわりとあかく染まっていく。あかでもなくあかでもない。黒みを帯びたあか色。女は自らの胸に半分以上滑り込んだ漆黒の刀身と、その紅色に染まりゆく法衣を信じられないという様な表情で見つめている。

 

「なんで……私まで……」

 

 これでもかと言う程に見開いたその大きな瞳で俺を見ている女。しかし、俺は柄を握る手に力を込め、さらに深く刀身を滑り込ませると、その刀身をぐりりと捻るようにひねった。

 

 ごぼり……

 

 ごぼりと女の口から、法衣に染み広がる紅色と同じ色の血液が溢れ出しては、その足元へと落ちていく。

 

「……ご……ご……」

 

 声にならない声が女の口から漏れている。何か喋ろうとしているのだろう。ただ、それはその口から溢れ出す紅色の血が邪魔をする。

 

「貴方は先程、俺になんでと聞いてきましたね……」

 

 苦しいのか、女は自らの身体を突き刺している刀を握る俺の手を、震えているその手で掴もうとしている。しかし、震えが激しいその両手では、上手く掴むことができず、俺の手を触っては離れるその繰り返しであった。

 

「その理由は貴方がよく知っているはず……貴方は彼女の死に関わっている。そして一番の理由は貴方が俺を見つけたこと。見つけて、英雄にしてしまったことでしょう。俺を見つけなければ、こうはならなかったし、俺もこんな事をしなかったでしょう」

 

 俺の言葉が聞こえたのかは分からないが、話し終えた時、女のぶるりぶるりと震え、だらりと両腕が力なく落ちていく。

 

 その女の身体から漆黒の刃を抜くと同時に、女は床の上に崩れる様に倒れた。倒れた女はぴくりとも動かない。完全に事切れた様である。

 

 倒れた女を中心にじわりと床へ紅色の華が咲いていく。

 

 俺は刀についた女の血を払うと鞘へと納め、その場を後にした。

 

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悪の華~復讐に取り憑かれた者の末路 ちい。 @koyomi-8574

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