第14話 ペールチーム加入
アレクシスが運動場に着いた時には、すでに基礎練習が始まっていた。
リゼットは、自分より低学年であろう女子と……つまり下手くそ同士で……仲良くパス練習をしていた。
アレクシスがその様子を見ていると、先ほどリゼットを誘ったヴィクトルがやって来た。
『オリガの言うとおりだな。リゼットを誘う作戦は正解だった』
コイツらグルだったんだな。アレクシスは舌打ちをこらえ、睨んだ。
アレクシスはヴィクトルとペアで練習することになった。
前回、見よう見まねで適当にやっていたことにも、色々とコツがあることが分かった。ヴィクトルは、チームのキャプテンだけあって、流石に上手く、アドバイスも的確だった。
途中で試合形式の練習が始まったが、ヴィクトルは、アレクシスの基礎練習に付き合った。彼の熱意はアレクシスの心を動かすものがあった。
***
ペールは、ボールを足で蹴るだけではなく、手で持って運べるし、掌か拳でボールを撃ち込める。それだけ多彩な攻撃が可能な訳で、試合では、体力だけではなく頭脳、つまり相手の動きを読み、試合展開を優位に運ぶ位置取りを計算するという頭の良さが必要になる。
ヴィクトルは、リゼットの従兄というアレクシスが、王国貴族というだけあって、かなり頭が良いことを前回の公園で見抜いていた。だから、自分のドリブルはカットされたのだ。
あとは必要となる体力面を知るために、今日は付きっきりで色々と試したが、ひ弱なリゼットとは違って、バテそうな気配は微塵もない。
ヴィクトルは久しぶりにワクワクとした気分になった。
だが、リゼットが木陰で女子に囲まれて休憩しだすと、アレクシスの集中力が途端に切れた。
ヴィクトルは、ボールを一度足で止め、
『そんなにリゼットのことが気になるか?』
とニヤニヤと笑いながら、アレクシスにパスを渡した。
ムッとした顔でそれを受け止めたアレクシスは、
『アイツの面倒を見るのは俺の仕事だ!』
と言いながら、ボールをヴィクトルに鋭く
***
リゼットは、年の近い子たちとは流石に無理なので、年下の子たちと楽しく練習していた。
王国にいる頃は、健康に問題などなく、自分がひ弱だと思ったことはなかった。だが、ここタルールは暑すぎる。流れるような汗をかいているのは自分だけで、ジーラント人とは体の作りが違うのだと実感する。
……タルール人はそもそも汗などかかない。全く別の生き物だ。
年下の少女たちは、ふらついたリゼットを木陰で休ませて、練習に戻っていった。
目を閉じて休んでいるリゼットの頬に、冷たいものが触れた。うっすら目を開けると、アレクシスが冷たい缶をリゼットの頬に当てていた。リゼットのために医務室で常に冷やしている、王国から持ち込んだ補水液入りの缶を持ってきてくれたようだ。
その表情は、怒っているようで、心配してくれているようで、もうわからない。
リゼットは、そろそろと起き上がり、礼を言って補水液を飲んだ。冷たい水が急速に体に染み入り、体の隅々まで行き渡っていく感じがする。
そんなリゼットの横に、アレクシスは座る。目は遠くの中等部ペールチームの模擬練習試合を見ている。
〈俺、ペールチームに入ろうと思う〉
「……うん。そうした方がいいよ」
〈だから、リゼットにはペールするの、辞めてほしい〉
「……え、何でそうなるの?」
アレクシスは視線を近くの草に移し、次の言葉を告げかねている。
リゼットは辛抱強く待った。
〈……リゼットが倒れていたら、集中出来ない〉
リゼットは一瞬考えた。
「ま、まぁそうだよね。またおんぶさせられるのか~って?」
とたんに額に衝撃が走る。アレクシスが指で作った輪っかをリゼットのおでこで弾けさせた。
「痛~っ! ヒドイ!」
〈バカ、そういう意味じゃない! 俺は伯爵にお前の面倒見るよう頼まれてるだろ? 言わば、俺がジンシャーンに置いてもらうために伯に頼まれた仕事だ。お前が倒れてたら、お前を放って何やってたんだって話になるだろ!〉
そんな風に思っていたなんて。なんだか、悲しくなる。
「アレクシスが、そんな風に思う必要ないよ。お父様も言ってたじゃない。たくさん仲間を作って、子どもらしく過ごしてほしいって」
〈うん。でも、俺が……俺がダメなんだ。……リゼットが倒れるのを……見たくない〉
アレクシスが座った膝の上に肘を載せ、腕で顔を隠しながら、小さく思念で伝えてきた。
──やっぱり私のこと……、心配してくれて……。
おでこが地味に痛い。
アレクシスは、意地悪だ。……意地悪だけど、……優しい。
「分かった。もうジンシャーンでペールするのは諦めるよ。そりゃちょっとはやりたいけど。でも、ペールチームに入るのはやめとくね。だから、アレクシス。アレクシスは私の分まで頑張って活躍してよね?」
アレクシスは小さく頷き、立ち上がると、練習へ戻っていった。
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