本の感想:エッセイ

青切

倉橋由美子

倉橋由美子「迷路の旅人」を読んで(倉橋本人について)

〇本書について


 倉橋由美子の「迷路の旅人」は、講談社文庫から出ているエッセイであり、主に文学について語られている。


 読み方としては、Ⅲの「遊びと文学」を読んでから、Ⅱのエッセイ群を読み、最後にⅠの「反小説論」を読むとよい。

 「遊びと文学」に倉橋の文学への立ち位置が書かれているので、それからⅡとⅠを読むと理解が進む。

 Ⅰの「反小説論」はとにかく長いので、読む手が止まる可能性がある。

 ⅢとⅡで予備知識を得てから読むことを勧める。


 読む人を選ぶ本だが、ライトノベルを書いている人には、参考になる文学論が書かれている。

 是非、図書館ではなく、買って読んでもらいたい。

 以下、内容について考えたことを書く。

 なお、引用の末尾の№は、電子書籍のページ番号を指している。



『冬でも夏でもない日々が続いているうちに、やがて夏になる。そしてアイオワはまた玉蜀黍におおわれ、太陽がそれを灼くのである』(№2986)


『もっとも雨の中の旅、あるいは旅をしていてその土地で雨に降りこめられるというのは気分が落着くもので、観光客という浮足立った気分もこの雨で、乾いて埃が立っていた空気が洗われるような工合にしずまってくる。そうなるとその土地に足がつく。走りまわりたがる動物から、仮にでもそこに根を下した植物に近い気分になる』(№4517)


 上のような文章が書ける職業作家なのだが、倉橋に私が持っているイメージは、真っ当な庶民である。

 真っ当な庶民とはどういう人たちのことを指すのか。

 そう問われれば、基本的に保守的で、偏った考えを嫌い、黙々と自分の仕事をこなす人たち、と答えたい。

 彼らは、頭でっかちな人間や、何にでも政治を絡めて話す者を嫌う。

 人間の可能性・進歩というものにあまり信を置いていないが、人間を肯定的に捉えている。

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