68センチ目「決勝戦」
部屋で休んでいた俺たちは、ナターシャからの連絡を受けて、ついに決勝戦の相手が決まったことを知った。
その相手は、春菜とゴンタだそうだ。
「あいつら、決勝まで来たのか」
「はい。さすがクウさんのご友人ですね」
無事に勝ち残っていることを知って安心した反面、俺は不安も感じていた。
春菜とゴンタは、俺がいま一番戦いたくない相手だ。友達相手に本気でぶつかれるかどうか、自信がない。
クリアもどうやら気持ちは俺と同じようで、何やら複雑そうな表情をしている。
そんな俺たちを見兼ねたナターシャは、続けて言葉を紡ぐ。
「大丈夫です。今までどんなに辛い戦いだって乗り越えてきたじゃないですか。だから、今回もきっと上手くいきますよ」
気休めとはいえ、その思いやりの言葉がありがたかった。
自分の戦う理由が揺らいでしまっては、勝てる試合も勝てなくなる。
俺はもう一度自分自身に問いただすため、今までの戦いを振り返ることにした。
俺たちは色んな持ち主やツクモと出会い、別れてきた。誰かを倒す度に、彼らの道具を思う気持ちを受け取ってきた。
散っていった大勢の者たちの想いを背負って、俺とクリアはいまここにいる。
豪さんが言った通り、俺たちの手の中にはたくさんのバトンが握られている。それは勝者にだけ与えられる責任であり、糧でもある。
では、それらを支える俺自身の想いは何だ?
俺はクリアを最後のツクモにしたい。それは最初からずっと変わらない、純粋な気持ちだ。
そして、俺の願いはすでに決まっている。その願いを遂げることがクリアのために、ひいては全てのツクモのためになると、俺は信じている。
そのために俺たちはここまで勝ち抜いてきた。あとは最善を尽くすだけだ。
「クウ……」
「うん?」
「わたしやっぱり、勝ちたい。春菜とゴンタに、勝ちたい」
クリアは声を絞り出すように言った。苦悩の末にようやく導き出した結論だったのだろう。その表情は固く険しい。
「俺もだよ。勝とう、クリア。勝って、俺たちの願いを叶えよう」
「うん……!」
俺の決意に満ちた表情を見て安心したのか、クリアは凛々しい顔つきで迷いなくうなずいた。
この白い階段を上るのも、これで最後になるだろう。そして上りきってしまえば、もう後戻りはできない。
一段ずつしっかりと踏み締めながら、俺たちは試合の舞台へと向かう。
大部屋に足を踏み入れたのは、ほぼ同時だった。俺たちは春菜たちのペアと向かい合って立ち止まった。
「ついに決勝戦だね、空くん」
「そうだな。心の準備はできてるか?」
「正直、心臓がバクバクしてるよ。でも、大丈夫。私にはゴンタがついてる」
俺たち四人は共に戦い、成長してきた。辛いことも苦しいことも、互いに分かち合ってきた。
だが、今回だけは違う。
春菜とゴンタは堂々とした態度で身構えた。
「私たちの全力、見せてあげる」
「望むところだ」
俺とクリアもそれに応じて戦闘態勢に入る。戦うことにもう迷いはなかった。
「トーナメント決勝戦、雨宮空・クリアペア対春菜・ゴンタペア、開始します。よーい――」
緊迫の一瞬の後、ロザリアは宣言した。
「はじめ!」
こうして賽は投げられた。その勝敗の行方は、神でさえ知らない領域だ。
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