69センチ目「新スキル合戦」

 準決勝の二の舞にならないよう、俺は初っ端からスキルを発動した。


解析スキャン


「新しいスキルが二個増えてる! 弾性バウンド必殺ウルトだって!」


「了解。解析終了オーバー


 それでも春菜は動じることなく、ふふっと笑う。


「そうだよ、バレるのは分かってた。だからさっさと使わせてもらうね――弾性バウンド!」


 春菜がスキルを唱えた瞬間、ゴンタの姿が見えなくなった。


「っっ〜!?」


 辛うじて両腕でガードしたクリアだったが、そのパンチのすさまじい威力に弾き飛ばされ、後方へ吹き飛んだ。


 ゴンタは消えたわけではなかった。急速に加速したせいで目が追いつかなかったのだ。


 ボヨンボヨンと小さく跳ねながら、ゴンタは再び拳を構える。


「ちょっと格好悪いけど、このまま決めさせてもらうぜ!」


「どんどん行くよ! 武装アムド!」


 ゴンタの両腕に鋼鉄のガントレットが出現する。そして、再びの急加速。


 このままでは危ないと思った俺は、名案を思いついた。


解析スキャン!」


 衝突の寸前、クリアは横へステップしてラリアットを避けた。勢い余ったゴンタはそのまま十数メートル奥まで進み、ようやく停止した。


「ありがとう、クウ! 見えるようになった!」


「目には少しきついだろうけど、我慢してくれ」


「うん!」


 解析スキャンのスキルは、相手のスキルを解析するだけではなく、相手の位置の把握と、単純な視力増強の効果を兼ねている。


 他のスキルと併用しながら戦う練習をしておいて、本当によかったと思う。


「もう対応してきたか。さすが空くんとクリアちゃんだね」


解析スキャンは体への負担がきついんだ。さっさと続きをやろうぜ」


「言われなくてもやってやるよ!」


 ゴンタはそう叫びながら、三度みたび加速した。今度はクリアの周囲を不規則に動き回りながら、隙を狙っているようだ。


 そういうときは、この手に限る。


必殺ウルト!」


「ここで!?」


 クリアが両手を前に向けてかざすと、巨大な定規が地面と平行に刃を向けて出現した。


「回せ!!」


「はああああああああっっ!!」


 クリアは手を下へ振り下ろした。すると巨大定規は、クリア自身を中心として、その周囲を360度回転した。


 そのとき、宙に飛び上がった一つの影があった。クリアはそこを目掛けて、さらに巨大定規を半回転させた。


「ぐっ……!」


 遠心力の加わった超質量の一撃を食らったゴンタは、弾かれるようにして地面に叩きつけられた。


「ゴンタ!」


「大丈夫だ、春菜。もし弾性バウンドがなかったら今頃ヤバかったかもな」


 ゴンタはすぐさますっくと立ち上がった。首をコキコキと鳴らしながら、軽く飛び跳ねている。どうやら致命打にはならなかったらしい。


 相手が勢いを失ったいまがチャンスだ。このまま一気に攻めて、流れを掴む。


刀化カッター!」


 クリアは俺の詠唱に応じて、ゴンタへ駆け寄った。


 半透明の刃とガントレットがぶつかり合い、甲高い衝突音を立てる。


 手数でも威力でも全くの互角。クリアとゴンタは絶妙に拮抗しながら打ち合っていく。


「ゴンタ、狙い目だよ!」


「そうだな! ここらで一丁へし折っとくか!」


 刹那、ゴンタはガントレットを力一杯クリアの刀に叩きつけた。強引ながらもガードせざるを得ないその攻撃に、クリアはたじろぐ。


「よし! これで折れ――」


硬化ハーデン!」


「っ!?」


 そのまま殴り抜けようとしていたゴンタは、手応えの固さに驚いたのか拳を引いた。その弱腰な姿勢を狙って、クリアは攻め立てていく。


「新しいスキルを覚えたのはそっちだけじゃないんだよ!」


「想定外の事態! いったん退いて、ゴンタ!」


「いきなり退けって言われたって、無理があるぜ!」


「それじゃ、逆にそのまま押し通る! 刀化カッター!」


 ゴンタの両腕のガントレットから、それぞれ三本の鉄爪が伸びる。


 ゴンタは左手の爪で剣を受け止めると、残る右手の爪でクリアの腹部にある留魂石を狙った。


湾曲ベンド!」


 クリアの剣は形を曲げてするりと爪の間を抜けると、致命の一撃を難なく受け止める。


 バックステップで互いに距離を取ったクリアとゴンタは、息を切らしながらにらみ合う。


「私たちの予想を次々と超えてくる……これが空くんとクリアちゃんの実力……!」


「気圧されてどうするんだよ、ハルナ! 俺たちにはまだ切り札があるだろ!」


「そうだね! ここで諦めたらもったいない! 行くよ、ゴンタ!」


「おう!」


 春菜とゴンタは互いにうなずき合うと、こちらを不敵な目つきで見つめる。


「受け止めて! これが私たちの全身全霊――」


 ゴンタは頭上に手を高々と掲げた。


必殺ウルト!」


 エネルギーの奔流が次第に物体を形作り、やがて巨大な一つの拳を作り上げた。

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