61センチ目「神器覚醒」

 ちょうどそのときだった。後ろの扉が開き、春菜たちが駆けつけてきた。


「みんな、無事だったか!」


「うん……浪吉はやられちゃったけど……」


「そうか……」


 戦いの中で誰か仲間を失うかもしれないとは分かっていたが、いざこうして何度も直面してみると辛いものがあった。


 しかし、へこたれてはいられない。彼らの犠牲を無駄にしないためにも、王城竜馬の恐ろしい計画を何としても食い止めなければならない。


「それより、なんなんだあいつ……!?」


 異様な存在感を放つ着物のツクモに、ゴンタは目をやった。


「神器が目覚めたんだ」


「くそっ、間に合わなかったか……!」


 王城竜馬は白髪の神器ツクモに向かって手をかざした。


「さあ、天叢雲あまのむらくもよ! 手始めに、我々の計画を邪魔する彼らを殲滅するのだ!」


 天叢雲は指示を聞いているのか分からない沈黙を保ちながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


解析スキャン!」


「……だめだよ、クウ! 何もわからない!」


「マジかよ……! 解析終了オーバー!」


 色々と規格外なこのツクモに、スキルが通用すると考えたのが間違いだったのかもしれない。


 そのとき、天叢雲はふと立ち止まると、右手を前に向かってすっと掲げた。


 猛烈に嫌な予感がして、俺は思わず叫んだ。


「伏せろ!」


 天叢雲が手を横一文字に振る。その瞬間、ズンという音響とともに、背後の柱や壁が鋭利な刃物で切断したかのように引き裂かれた。


「素晴らしい! 素晴らしいぞ!」


 その攻撃の桁外れの威力に、俺たちは絶句した。先ほど戦ったダイダラなど比ではない。まさに神代の存在が復活を遂げたといえる。


 こんなやつが野に放たれたら、大変なことになる。


 そんな絶望的な状況の中、真っ先に体勢を立て直したのは豪さんとケンだった。


「諦めるのはまだ早い。絶対にここで食い止めるぞ」


「……はい!」


 別に負けたわけではない。俺たちはまだ生きている。力を合わせて立ち向かえば、どうにかなるかもしれない。


 そう自分を奮い立たせ、俺は立ち上がった。それを見たクリアも、決意に満ちた表情とともに立ち上がる。


 そんな俺たちにならって、他のメンバーたちも構えていく。


 張り詰めた空気の中、にらみ合う両者の均衡を破ったのは王城竜馬のかけ声だった。


「さあ、世界再誕の記念すべき幕明けだ!」


「行くぞ、クリア!」


「うん!」


 クリア、ゴンタ、ケン、おたまの四人は一斉に天叢雲へと殴りかかった。しかし、天叢雲はそれを両手でいとも簡単に捌いていく。


「「〈触手テンタクル〉!」」


 今度は、背後から伸びたギターの弦とネクタイが天叢雲の体に絡みつく。


硬化ハーデン! よし、いいぞ!」


 巻きついたネクタイをガチガチに固めたマッキーは、途中でブツリとネクタイを切り離す。それを見た瑠璃はすかさず叫んだ。


「みんな、離れて! 電撃エレクトロ!」


 弦から体に伝わった電撃がバチバチと電光を放つ。しかし、天叢雲は微動だにしない。


「やったか!?」


「いや……」


 天叢雲は体をいったん九の字に曲げると、思い切り力を入れて、体に巻きついた二種類の触手を強引に千切り飛ばした。


「そんなバカな!? あの触手には硬化ハーデンがかかってるんだぞ!」


「効かん効かん! 尋常のスキル程度で神器が止められるか!」


「規格外にも程があるっての……!」


 気を取り直して再び殴りかかるクリアたち。しかし、一行に攻撃が当たる気配はない。


 そのとき、相手の反撃が襲い掛かった。一瞬の隙をついて、両の拳がケンとおたまの腹部を直撃する。


 豪快に吹き飛ばされた二人は、両端のコンクリート壁に叩きつけられ、大きなひび割れとともにくずおれた。


〈クリア、絶対に当たるな! 一発でも食らったら終わりだぞ!〉


〈うん……!〉


 残るクリアにテレパシーで合図を送る。そして、このままでは決め手に欠けると思った俺は、続けてスキルを発動した。


刀化カッター!」


武装アムド!」


 同時にスキルを発動したゴンタとともに、攻撃を放つクリア。


 それらを受け止めた天叢雲は、じろじろと観察するようにそれらの武器を眺めたあと、両手を振るった。


 すると、右手にゴンタと同じ武装が、左手にクリアと同じ手刀が出現した。俺は驚きに目を見張った。


「自分でスキルを作って発動できるのか……!」


「もはやなんでもありだね……!」


 俺は冷や汗を拭いながら、戦況を眺めた。見つめ続けることしかできないのが歯がゆい。


 そのとき、後ろで会話が聞こえて俺は振り返った。


「翔太、やれるよな?」


「マッキー……」


「大丈夫だって、心配すんな。終わったら飲み会するんだろ?」


「ああ、分かったよ。それがお前のやりたいこと、なんだよな」


 なにやら深刻そうな表情でマッキーはこちらに歩いてきた。


「翔太、頼む」


「ああ……触手テンタクル!」


「一体、何を――」


 俺が言い切る前に、マッキーは天叢雲に向かって再び触手を伸ばした。それは体に巻きついて、一瞬だけだがやつの動きを止める。


「効かんと言ったはずだ!」


「いや、いいんだこれで!」


 相手に千切られるよりも一瞬早く、マッキーは触手を巻き取った。相手側に引っ張られるようにして、マッキーは大きく飛んでいき、天叢雲の真横に到着した。


 しかし、天叢雲はそれを見逃さなかった。クリアとゴンタの攻撃をガントレットで受け止めると、左手の手刀を一閃する。


 腹部を真っ二つに切り裂かれたマッキーは、苦悶に顔をしかめた。


「まだだ! 翔太!」


硬化ハーデン!」


 切り裂かれた傷口をスキルで無理やり固定しながら、マッキーは天叢雲の背後へ潜り込み、そのまま抱きついた。


「へへっ、直接押さえこめばさすがにほどけねぇだろ?」


 徐々に消えゆくマッキーは、天叢雲を抱え込んだまま笑顔でこちらに呼びかけた。


「いまだ、クリア、ゴンタ! こいつの留魂石を壊せ!」


「でも……!」


「いいから早く! 長くは持たねえ!」


 クリアとゴンタはうなずくと、大きく手を引いて構える。


「ありがとよ、マッキー!」


「これで、終わりっ!」


 天叢雲の腹部で輝いている留魂石に向かって、クリアたちは思い切り腕を振り抜いた。

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