44センチ目「並び立つ戦士たち」

 俺は再びバー『エウレカ』に来ていた。

 豪さんから「準備が整った」との連絡が来たからだ。


 バーの中には前回すでに顔合わせしたペアたちの他に、この前戦ったお笑いコンビが来ていた。


「なんでいるんだよ、お前ら……」


 亮助は丁寧に俺の手を取ると、上下にぶんぶんと振った。


「ボコられたあの日、俺らは兄貴たちの強さに惚れたんや! てなわけで、兄貴の方に付くことにしました!」


「本音は?」


「手柄もなしに戻ったら何されるか分からんから、寝返りました……」


「そんなこったろうと思ったよ」


 肩をすぼめながら白状する亮助に、俺は呆れながら嘆息した。


「いいんですか、豪さん? また裏切るかもしれませんよ、こいつら」


「仲間は多い方がいい。それに、敵の情報は少しでも入手しておきたいからな。彼らの力はいまの我々にとって必要だ」


「そうですか……」


 豪さんには豪さんなりの考えがあって、仲間に引き入れたのだろう。だったら、それ以上何も言うことはない。


「それはそうと、俺が集めた仲間、連れてきましたよ。通してもいいですか?」


「ああ、頼む」


 俺はバーの外に待たせていた人たちを、中に招き入れる。事情を話した結果、協力してくれることになった仲間たちだ。


 まず、春菜が会釈しながら入ってくる。その後ろにギターケースを抱えた瑠璃が続く。最後に、おたまさんと俊彦さんがゆっくりと足を踏み入れた。


山内やまうち春菜です。空くんと同じ、物天堂ぶってんどう大学の一年生です。ツクモは、テディベアのゴンタです。よろしくお願いします」


「アタシは望月もちづき瑠璃るり。シンガーソングライターをやってる。ツクモは、ギターのジェフだ。よろしく」


浜田はまだ俊彦としひこです。海の家で料理人をやってます。それから、こっちは相棒でありツクモのおたまさん」


「おたまです。よろしくお願いします」


 俺の見知った顔が一通り自己紹介を終えると、まばらな拍手が鳴った。


「では、こちらも挨拶を。俺は十文字豪。剣道の道場の師範をしている。それから、このチーム『エウレカ』のリーダーもやっている。ツクモは、竹刀のケンだ。どうぞよろしく」


鹿野かの翔太しょうたです。このバーのマスターをやってます。ツクモは、ネクタイのマッキー。よろしく」


江ノ島えのしま美咲みさき。ツクモは手鏡のミラ」


「というわけで、これで全員揃っーー」


「ちょちょ、ちょい待てや! 俺らの紹介がまだやろ!」


 自己紹介パートを切り上げようとした俺に、亮助は慌ててツッコんできた。


「えー、紹介いる?」


「いりますやんか、そこは!」


「じゃあ手短にね」


 俺が場を譲ると、亮助は待ってましたとばかりに前に進み出た。


「俺は八神やがみ亮助りょうすけ! サーファーやってます! ツクモはサーフボードの浪吉なみきちです! よろしくお願いします!」


「浪吉です。亮助のやつはてんでダメな持ち主ですが、どうか一つよろしくお願いします」


「おい、一言余計や!」


 亮助が浪吉のわき腹を軽く肘で突くと、周囲から失笑が漏れた。なんとも締まりの悪い自己紹介だが、たまにはこういうのも悪くない。


 こうして、ようやく全員の自己紹介が終わったところで、豪さんが口を開いた。


「ここからは団体行動で行く。みな準備は整っているな?」


 メンバー全員の顔を見回して異論がないのを認めると、豪さんは話を再開した。


「敵の本拠地は、鹿児島県内にある建設途中のサバイバルゲーム場だ。そこまでは車と飛行機を乗り継いでいく。長旅になるから、体調管理には気をつけてくれ」


 俺はこくりとうなずいた。戦う前に消耗しては意味がない。できる限り万全の状態で戦いに挑みたいものだ。


「それでは、質問がなければ出発する」


 そこで、春菜が手を挙げた。


「あの、一つだけ聞いてもいいですか?」


「なにかな、山内さん」


「出発する前に、この戦いにおける大義を聞かせてください」


 確かに春菜が言うことには一理ある。大義なき戦いは必ずや私利私欲に走ったものとなり、やがて戦う意味そのものを見失う。


 豪さんは右の拳を握り、自分の胸元に当てた。


「『蔵人くらうど』はツクモ化した神器の力を使って、人類を破滅に導こうとしている。それは絶対に許してはならない蛮行である。俺たちには、それを阻止しようとする大義がある!」


「ありがとうございます。おかげで、心置きなく戦えます」


 今の豪さんの小演説によって、俺たちの士気は心なしか高まった。

 例えどんな苦境に立たされようと、信念を持って戦い抜ける。そんな気がした。


「それでは、行くぞ」


 豪さんの後ろについて、俺たちはバー『エウレカ』を出発した。


 ここに無事戻ってこられるのは、果たして何組いるだろうか。それぞれの運命を懸けた戦いが、もうすぐ始まろうとしていた。

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