24センチ目「チームクウVS七つ石の少年」

「子供……?」


 岩本の体内から現れたのは、薄緑色の肌を持つ少年だった。

 大きな葉っぱの腰蓑こしみのをつけており、その腹部にはなんと、七つもの留魂石るこんせきが埋め込まれている。


 その少年は俺たちを虚ろな目で見つめた。


「なんだ、こいつ……!?」


「クリア、解析スキャン!」


「種族:人間/人工観葉植物、スキル:変身メタモーフ寄生パラサイト触手テンタクル刀化カッター増殖コピー消化アシッド加速ブースト――なんか十個くらいあるよ!?」


「マジかよ……!」


 少年は自分の両手をまじまじと見つめると、クリアに向かって手のひらからツタを伸ばした。

 その速度はいままでの比ではない。俺には目で追うのがやっとだった。


 それでも辛うじて避けたクリアだったが、わずかに肩をかすってしまった。触手に接触した部分の皮膚が溶けて煙を上げている。おそらく、数多あるスキル効果のうちの一つだろう。


「つうっ……!」


「ちぃっ、解析終了オーバー!」


 少年はツタを手のひらに引っ込めると、今度は背中からツタを生やした。そして、生やす本数をどんどん増やしていく。

 二本から五本、五本から十本、十本から二十本。その数が留まることはない。


「ねえ空くん、これってヤバいんじゃないの?」


「ああ、正直めちゃくちゃヤバいと思う」


「どうする、クウ!?」


「ひとまず逃げて体勢を――」


 そう言いかけた瞬間、地面から生えたツタの壁が俺たちの周囲をぐるりと取り囲んだ。もはや逃げ場はどこにもない。


 ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる少年に、俺は絶望した。

 こんな規格外の敵、どうやって戦えばいいんだ。勝ち目など全くないように思われた。


「あきらめちゃダメだよ、クウ」


「クリア……」


「わたしたちてっぺんを取るんだから、こんなところで負けてられない。それに、ユージのかたきも取らなきゃ。そうでしょ?」


 クリアは俺の手を掴むと、満面の笑顔を見せた。

 クリアにとっては精一杯のやせ我慢だったのかもしれない。しかし、その言葉は確かに俺の闘志を燃え上がらせた。


「ああ、そうだな……!」


 俺たちには、負けた者たちから託された想いがある。それを、こんなところで終わらせるわけにはいかない。


 そのとき、ポケットに入れてある神スマホが光り輝き、バイブレーションが大きく振動した。そんな機能があることに気づいたのは初めてだった。

 俺はわらにもすがる思いでその画面を見た。


〈スキル『刀化カッター』が解放されました〉


 俺は迷わずその四文字を叫んだ。


刀化カッター!」


 クリアの右手首から先がすらりと伸び、半透明の刃へと変化する。クリアが腕を振るうと、かすかな風切り音がひゅんと鳴った。


 クリアは前に進み出ると、少年と真っ向から対峙した。少年は虚ろな目でクリアを見定める。


 ついに、少年の背から生えるツタのうち数本が襲いかかってきた。

 しかしクリアは臆することなく、それら全てを一刀の下に切り捨てる。


「勝つぞ、クリア!」


「もちろん!」


 クリアは右手の剣を前方に突き出しながら、大きくうなずいた。


「二人ともすごい……!」


「オレたちも負けてらんないぜ、ハルナ!」


「うん!」


 クリアとゴンタはさっきまでの勢いを取り戻すと、お互い競うように前進を始めた。


 行く手を遮るツタをクリアが切断し、斬りそびれたツタをゴンタが外へ弾く。

 左方から襲い来るツタをゴンタが弾き、右方から飛んできたツタをクリアが両断する。

 そうやって絶妙なコンビネーションを見せながら、二人は少年に一歩ずつ近づいていく。


 手に汗握る高速の攻防が続くこと、数十秒。ついに緑の少年の下にたどり着いたクリアたちは、二人同時に少年の腹部を拳で打ち抜いた。


「これで!」


「終わりっ!」


 破壊された留魂石るこんせきの破片が少年の体から剥がれ落ち、輝きを失う。


「ア、アアアアアッ!!」


 少年は自分の頭を抱えながら断末魔の叫び声を上げた。薄緑色だった全身が、枯れ木のように変色して朽ちていく。最後に残ったのは、どす黒く変色したツタの山だった。


「岩本先生……どうしてこんなことに……」


「人の気持ちって、分からないものだね」


「そうだな……」


 時折ユーモアを交えながら講義をしてくれた岩本先生は、もういない。

 顔見知りの相手を倒したことに喪失感とやるせなさを覚えつつ、俺は岩本先生のミイラ化した死体を静かに拝んだ。せめて魂だけは安らかに眠ってほしいと願いながら。

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