6センチ目「楽しい買い出しタイム」
歓迎会をするにあたっては、食事やパーティーグッズなど、様々なものが必要となる。俺は講義を一通り受け終わった後、クリアと先輩たちを伴って、大学近くのショッピングモールまで買い物に来ていた。
「まずは、靴を買ってあげたいんです」
「なるほど。いままではサンダルで過ごしていたのだね、クリアくん」
「うん、クウに借りたの」
ぶかぶかのサンダルで歩くクリアは、どことなく歩きづらそうだった。靴ずれを起こしても困るし、今後のことを考えると動きやすい方がいいだろう。
シューズコーナーにつくと、俺たちは真っ先に運動靴の棚へと向かった。
「どれがいい?」
「これ!」
クリアが指差したのは、白を基調として水色のラインが入った子供用スニーカーだった。いくつかサイズを見繕って履かせてやると、その中で一番小さいものがぴったりと合った。足踏みした後、クリアは大きくうなずいた。
「よし、じゃあこれを買おう」
「うん!」
会計を済ませると、俺たちはモール全体の地図が設置されているところへやってきた。敷地面積が広いので、こうしていちいち場所を確認しないと、今どこにいるか分からなくなってしまうのだ。
「さて、足りないものはこれで全部かな?」
「そうですね……あとは着替えもちょっと欲しいかな」
「服ならあっちの区画だな。ついてきたまえ」
高坂先輩に先導され、俺たちは歩いていく。モール内には様々な店がずらりと立ち並んでおり、平日の午後にしては結構な賑わいがあった。
やがて俺たちは、大きな服屋に到着した。このチェーン店はCMをばんばん打っており、ファストファッションとしては全国的な認知度がある。ここなら、一通りの着替えは揃うだろう。
「よし、せっかくだから私が服を選んであげよう。君たちはどうする?」
同性同士の方が気兼ねなく買い物できるだろうと思い、俺は遠慮することにした。
「あー、その辺をぶらついてきてもいいですか? 俺、女の子の服ってよく分からないし」
「そしたら、俺も空と一緒にぶらつくかな」
「オーケー。終わったら連絡するから、それまで待っていてくれ。行こう、クリアくん」
「それじゃ行ってくるね、クウ」
「ゆっくり見てくるといいよ」
クリアは一緒に行動するうち高坂先輩に心を許したようで、駄々をこねることなくついていった。あの様子なら、安心してクリアを任せられそうだ。
俺は新垣先輩と一緒に服屋を後にすると、一階の広場にある休憩スペースのテーブル席に腰を下ろした。
「疲れたか?」
「いえ、大丈夫です」
そうは言ったものの、疲れが顔に出てしまっていたらしい。先輩はおかしそうに笑いながら、俺の肩をちょんと小突いてきた。
「女子の買い物に気長に付き合うのも、気遣いが出来る男子の条件だぞ?」
先輩はそう言うと、さっき買った缶コーヒーを一本、俺に手渡してくれた。わざわざ二本買っていたのはそういうわけか。俺は先輩の気配りの上手さに感心しきりだった。
「クリアちゃんとは結構長いのか?」
「いえ、昨日の今日ですよ。まだ接し方がいまいち分からなくて、困ってます」
「そうか。それにしてはずいぶん仲良く見えたけどな」
「そうなんですかね」
そこまでの実感はないが、初対面にしてはそこそこ仲良くやれているのかもしれない。クリアが素直な性格をしていることもあって、彼女とのやり取りにストレスを感じることはあまりなかった。
「相性ってのは、長く付き合ってりゃいいってもんじゃないからな。空とクリアちゃんはきっと波長が合ってるんだろうよ」
「波長、ですか」
先輩の口から飛び出したスピリチュアルなそのワードに、俺は苦笑した。もっとも、オカ研のサークルメンバーとしてはこの上ない発言だろう。
「そのうち、テレパシーで通じ合ったりしちゃってな」
「そんなのあるわけないじゃないですか。テレビや映画の見過ぎですよ」
「そうか? 俺はあると信じてるぞ。虫の知らせってよく言うだろ?」
「まさかぁ」
俺が首をかしげた、その時だった。
〈助けて、クウ……!〉
「クリア……!?」
〈助けて……!〉
いまのは確かにクリアの声だった。幻聴にしてはあまりにはっきりと、脳内で囁かれたように聞こえた。俺は急いで椅子から立ち上がると、飲み終わったコーヒーの缶を先輩に押し付けた。
「コーヒー、ごちそうさまでした。これ捨てといてください」
「お、おい、どこ行くんだよ!」
「虫の知らせですよ、新垣先輩」
俺は階段を使って二階まで一気に駆け上ると、さっき高坂先輩とクリアが入っていった服屋にたどり着いた。
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