第35話 妹の誕生日⑥
「そよかちゃんがほしいかわからないけど……」
朔のプレゼントは、プレゼント用の小さな紙袋だった。
想夜歌はたどたどしい手つきでそれを開封する。
「ネックレスだ! かわいい!」
小さな赤い宝石(無論本物ではない)のネックレスだ。
朔は想夜歌の手からそれを取り、想夜歌の後ろに回った。器用に留め具を外し、つけてあげる。
想夜歌はされるがまま、それを受け入れた。
「ばかなっ。幼稚園児とは思えない甲斐性、そしてプレゼントのセンス……! 朔よ、貴様想夜歌を狙っているのか?」
「あら、朔は誰にでも優しいのよ。勘違いしないでちょうだい。母の日には私と母に手紙をくれたもの」
「俺も想夜歌から貰ったが?」
朔がイケメンすぎて困る。ほら、想夜歌が本気でうっとりしているぞ。
最近恋愛に興味深々だからな……。
ネックレスを大層気に入った想夜歌は、周りにいる大人たちに自慢して回った。柊にもらった洋服ともよく合っている。
柊と瑞貴から褒められてご満悦だ。
朔は恥ずかしそうに姉に抱き着いている。暁山は母性溢れる表情で、朔の頭を撫でた。
「お兄ちゃん、いいでしょー」
「も、もちろんだ。想夜歌は何をつけても似合うからな。決して朔が選んだネックレスが良いと言うわけではなく、いや悪くもないが、想夜歌の可愛さの前では無力だな。うん、よし、今度お兄ちゃんがダイヤのネックレスを買ってあげよう。それに、装飾品のプレゼントは一件脈ありのようにも見えるが、誰にでも渡している可能性があるから要注意で」
「お兄ちゃんうるさい」
想夜歌が視線を外して朔の方に戻っていった。ショックだ。
ひとつ咳払い。気を取り直して、俺のプレゼントを取り出した。
俺が買ってきたのは、子ども用のプリントカメラだ。本体はピンク色で、猫の模様が入っている。
「きゃめら?」
「なんで英語風!?」
すぐ使えるようにと、充電しておいた。
このプリントカメラは撮影しSDカードに保存されると同時に、加熱式の用紙に写真が印刷される。
直接見た方が早いので、首を傾げている想夜歌を写真に撮った。すると、すぐに印刷される。指で用紙をひっぱると、新しい服に身を包んだ想夜歌の写真が出てきた。
「すごい! そぉかもやる!」
「よし、次はお兄ちゃんと一緒に撮ろう! いいか想夜歌、ここを押すんだ」
子ども用と言えど結構きちんとした作りで、普通のデジカメのように液晶がある。それに自撮りもできる。
操作は簡単なので、すぐに覚えるだろう。キッズスマホでも写真は撮れるけど、プリントカメラならすぐ印刷されるからな。
想夜歌は操作を覚えると、俺から離れて行った。そろそろ泣くぞ。
「すみちゃん、はいちーず」
「え。い、いえーい?」
真顔のままぎこちなくピースする。つい噴き出すと思いっきり睨まれた。
だが、現像されてきた写真を見て暁山も苦笑する。
「みじゅき!」
「ふふ、俺の写真は高いよ」
アホなことを言いながらカッコよくポーズを決める。なにこいつ、モデルでもやっているのか?
「想夜歌ちゃん、一緒に撮ろう!」
柊が想夜歌と頬をくっつけて自撮りする。偏見だが、ギャルは自撮りが上手い。
「お兄ちゃん」
「おお、ついに俺と!」
「みんなでとるの!」
「え? お兄ちゃんは撮影係ですか?」
いかん、涙が……。
だが問題ない。タイマー撮影の機能もついているからな!
テーブルに各プレゼントを並べ、想夜歌と朔が中心に立った。想夜歌の腕の中には、母さんから貰ったプレゼントがある。二人の後ろに俺と暁山が。柊と瑞貴は、再度に立った。
「なあ、暁山」
「なにかしら」
楽しげに笑う二人に、俺たちの声は聞こえない。
「俺たちは、親の代わりにはやっぱりなれないと思う」
「……ええ」
「それでもさ、出来る限り愛情を注いで、想夜歌には幸せになってもらいたいんだ。人並みに遊んで、元気に育って欲しい」
「私も、朔のために何でもするわ」
俺たちの家庭は、一般的に見ると少々歪だと思う。
家に帰れば普通に両親がいて、一緒に食事を取って、楽しく話す。そんな生活はあり得ない。
でも、不幸ではないと思うんだ。いや不幸だと思わせたくない。
想夜歌には俺がいて、朔には暁山がいる。
そして、俺たちには似た境遇の相手がいる。
「これからも頼むぞ。想夜歌と朔は仲がいいからな」
「そうね。朔のためならやぶさかではないわ」
「ママ友として、な」
「ええ、ママ友として」
彼女と自然に隣合っていることが、心地良いと感じる。
まあ、想夜歌も懐いているからな。たまに夕飯でも作ってやろう。
瑞貴がタイマーをセットし、急いで戻ってきた。
想夜歌の明るい声と同時に、シャッター音が響いた。
作者コメント
ここまでお読みいただきありがとうございました。
WEB版「クラスメイトがママ友になった。」は、一旦ここで完結です!
皆様の応援、本当に励みになりました。改めて、最大級の感謝を。
さて、この作品ですが、書籍化が決定いたしました。
ストーリー、設定共に大幅に見直しを行い、現在一から書き直しております。
より進化した作品を、今度は書籍でお届けできるよう尽力いたします。
よろしくお願いいたします!
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