第26話 妹の写真で精神安定
二年生になって最初の中間テストの採点が終わり、全て返却された。
結果は――全て赤点回避。
一番の難関であって数学で三十一点を獲得した俺は、授業が終わると同時にガッツポーズ。
「よっっっっしゃぁあああああ!」
「大学に受かったみたいなテンションだね」
「瑞貴、知ってるか? 高校を卒業できなきゃ大学には行けない。つまり、赤点回避は実質大学に受かったのと同じだ」
「わお、超理論」
追試や補習になれば想夜歌のお迎えに支障が出る可能性がある。想夜歌と会う時間が減るなんて絶対嫌だ。
瑞貴は全てのテストで八割ほどの点数を取っている。この点数なら上から一割の順位には入っていそうだ。曰く、最低限の勉強で取れる点数なのだとか。相変わらず要領がよくてムカつくな。
「瑞貴君すごーい」
「カッコよくて勉強もできるなんて」
「勉強教えて欲しいなー」
瑞貴が悪戯っぽい顔で俺にテスト用紙を見せびらかしていると、チャンスとばかりに女子が集まってきた。俺のことなんて眼中にもなさそうだな。まあいいけど。
瑞貴はテストをそそくさと片付けると、外面を張り付けて対応する。喜んでいるところ悪いが、こうなった瑞貴は無感情だぞ。
「澄、二年生になっても絶好調じゃん!」
「麻帆……ええ。今回も結果が出て良かったわ」
「ほぼ満点って、やばいでしょ」
まあ、あいつめちゃくちゃ頑張ってたからな。
なぜか自分のことのように喜んでしまい、慌てて頭をぶんぶん横に振った。今のはまずい。まるで彼氏ヅラだ。
最近妙に距離が近くて、不覚にも可愛いと思ってしまうことが多かったがただのママ友である。だいたい、ゴミを見るような目で毒を吐いてくる女だぞ。可愛さでは想夜歌の足元にも及ばない。
想夜歌の写真を見て心を落ち着かせる。なんて可憐な……。一時間に一回は見ないと禁断症状が現れる。そのくらい可愛い。
「なに見てたんだよ、響汰」
「想夜歌だけど?」
「その前。暁山ちゃんのこと見てたでしょ。なんで学校では話さないの?」
瑞貴には、柊との一件の時に幼稚園での関係を知られている。前に関係を誤魔化したことを散々いじられたが、まだ茶化す気でいるらしい。
さっきの子たちはどうしたのかと思えば、適当に切り上げてきたようだ。しつこいと露骨に嫌な顔をするのは、彼女たちも承知の上か。
「いや、別に想夜歌とあいつの弟が仲良いから一緒にいるだけだからな」
「なにその中学生みたいな言い訳。俺はお似合いだと思うけどなー。兄バカと姉バカ」
学校で暁山と話す理由は特にない。
最近は柊と時々話すようになってきたとはいえ、無表情で塩対応なのは変わっていない。完璧を目指すとか以前に、感情が表に出ないタイプなのだ。それがクールでカッコイイ美人という評価に繋がっているのだから、わざわざ邪魔することはないだろう。
暁山がちらりとこちらを見たので、ふいに目が合う。
瑞貴にからかわれた直後だから、どうしても余計なことを考えてしまう。
彼女は胸の前でテストをひらひらと揺らし、ほんの少しだけ口角を上げて目を細めた。
うん、完全に俺のこと馬鹿にしてるわ。胸の高鳴りが一瞬で落ち着いた。高得点を取っても威張ることなく淡々としているって? 俺から見たらめちゃくちゃ喜んでるよ、あいつ。
「やっぱ仲いいじゃん。麻帆はどうだったのかな?」
「知らねぇよ。訊いてくれば?」
「いやー最近冷たくて」
そう言えば教科書を忘れた時、ひと悶着あったのを目撃したな。
瑞貴の本性を知る女性が増えて嬉しい限りである。
「最高だよね」
「――は?」
「女の子から悪意を向けられたのは初めてでさ。男ならしょっちゅうなんだけど」
柊……お前、起こしてはいけないものを目覚めさせてしまったようだぞ……。
推してダメなら引いてみろ、ということか。塩対応の暁山を気に入ったかと思いきや、今度は自分を嫌う相手か。
「まあなんだ。頑張れよ……?」
「響汰もね」
視線の先で、柊が寒気を感じたように震えた。
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