第105話 アバルナ冒険者ギルド・・・探し人が見つからない。



 アバルナ冒険者ギルドSide


 現在、冒険者ギルドの幹部数名がダンジョン出口の前に在る石碑に集まっている。


 石碑の前には、受付嬢のアナシアが刻まれた文字の解析と解読をしていた。


「どうだ、アナシア解読出来そうか?」


 焦らせない様に気を使いながら聞いて来るギルマス。


「サッサと解読しろ! ギルマスを待たせるな!」


 ギルマスの意図を理解しないサブマスが急ぐ様に怒鳴る。


「お前は少し黙って居ろ!」「ひぃ!」


 ギルマスが威圧を込めた一喝に腰を抜かすサブマス、それを冷ややかに見ている他のギルド幹部達。


「ギルマス、石碑の文字の解読と解析が済みました」

 周囲のやり取りも気にせずにアナシアが告げる。


「そうか、何て書かれている!」

 ギルマス達が期待を込めた目で聞いて来る!


「あまり良い報告では在りませんよ、この文字は『神世文字』です。

 神々が用いる文字で通常の方法では読む事は出来ません。

 勿論私も読めません」


 アナシアの説明に愕然とするギルマス達だが、説明された言葉を思い出して聞き直す。


「文字を読む方法は在るのか?」


 ギルマスの問い掛けに対してアナシアが答える。


「神世文字が読めるのは神殿職の上位の方か、神官でも特殊なスキルを習得された方位でしょうね!」


 それを聞きギルマスはすぐさま街の神殿長に面会を求めに向かった!


 その場に残ったのは、ギルド幹部数名とアナシアそして腰を抜かしたままのサブマスだけだった。


「ちっ、肝心な時に役に立たない女だ!」

 まだ立てない状態で悪態をつくサブマス、それを呆れた顔で見ている幹部達。


「バスドサブマス~ 立てないようですけれど、手を貸しましょうかぁ?」

 両手の指をゴキゴキ鳴らしながら笑顔で話し掛けるアナシア。


「ひっ! よ、寄るな! 俺に近づくな~~!」

 更に腰を抜かして這いつくばりアタフタするサブマス。


「随分と楽しそうだねぇ? わしも仲間に入れてくれないかい!」

 不意に声を掛けられて一人を除き全員が声の主に顔を向けると、そこには商業ギルドの制服を着た2名の女性と高齢ではあるがしっかりとした足取りで歩いて来る女性が居た。


「げっ、商業ギルドの女怪!」

 ぼそっと呟いた幹部の一人が、老婆に軽くにらまれると脂汗を搔きながら口をつぐむ。


「やれやれ、か弱い年寄りに冒険者ギルドの幹部はそんな事を言うのかい?

 わしは悲しいねぇ~(泣)」

 悲しそうな立ち振る舞いをするが、その状況を壊す様に話しかける者が居た!


「で? どの様うな御用件で商業ギルドのギルドマスターがこの場所にいらっしゃったのですか? ロザリア様!」

 アナシアが恐れる事無く問い掛けた、付き添いの2名の女性以外は皆目を見開いてアナシアを無言で見つめた!


「くっくっくっく、相変わらずの様だねぇ、安心したよ!

 少し面白い話を聞いたから確認に来ただけさね、用が済んだらすぐ帰るよ」

 怒る様子も無く楽しそうに話すロザリア老と面倒臭そうな表情をするアナシア。


「何せ、アバルナダンジョン始まって以来の快挙だからねぇ商業ギルドも黙っている訳には行かんのだよ、だからこうして誠心誠意を込めてギルドマスターのわし自ら確認しに来たのさ!・・・ほぅ神世文字かい?・・・こりゃあ厄介だ!」


 そう独り言を言うと満足した様に踵を返して帰って行く。

 そんなロザリア老にアナシアが小声で。


「読めるの?」と聞くと、目元のみニヤリと笑いそのまま去って行った。


 その後にギルマスが頼み込んで神殿長にお越し頂き石碑の文字を見て貰った。


「・・・確かに神世文字ですね・・・ふむふむこれは名前ですね」


 神殿長がそう話すと興奮気味にギルマスが訊く。


「そ、それで何者なのですかその者達は?」


 そんなギルマスの期待に申し訳なさそうに神殿長が答える。


「申し訳ないがお答え出来ません、この神世文字は読む事は許されていますが、記す事、伝える事は神々によって禁じられています。

 ですので、文字の意味を教える事は出来ません、精々この文字が名前だとしか言えません」


 そう話すと神殿長はそのまま神殿へと戻って行った。


 呆然とするギルマスをなだめつつ全員が冒険者ギルドに戻って今後の対策について会議を始めたが結局良い案は出なかった。


 ギルマスが執務室で項垂れていると手前にお茶が置かれる、ゆっくりと顔を上げるとそこにはアナシアが居た。


「ありがとうアナシアちゃん」

 疲れた顔でお茶を飲む、そして一拍置いてから息を吐く、少し落ち着いた様だ。


「はぁ、アナシアちゃんどうしたらいいと思う? しかも誰も名乗り出ないのは可笑しいと思うんだよ?」

 ギルマスとしてはダンジョン攻略達成は非常に名誉な事で名乗らないのは可笑しいと考えているが、当のクロウは面倒事に成るから絶対に名乗りたくないと思っている。


「神聖文字まで使うって事は、この後のゴタゴタに係わりたくないのでしょうね、間違い無く様々な権力者達は、攻略達成者が得た宝物に群がりますからね!

 買い取って貰うのならまだ良いでしょうが、献上しろとか言い出しそうな輩や殺して奪おうとする輩も居そうですし。

 此処のギルドにも問題人物がいますし、ギルマスはそんな相手から守ってあげられますか?」


 難しい問題だ、自己責任だと言ってしまえば、今回の状態は自身を守る為の行為で冒険者ギルドが信用されていないと言う事だ。


「そう言えば、商業ギルドの大ババア様が来てたそうだな、警備に止められる事も無く」

 考えたく無くなり話を逸らす。


「ギルマスなら止められます?」


「無理! 既に人族でありながら150歳を超えても今だ商業ギルドのギルドマスターを務めている婆様だぞ!

 この街出身の奴は大体が若い頃の忘れたい秘密を知られているぞ!」


「ギルマスも何か秘密を握られていますか?」

 しかし、ギルマスは答えなかった。


「だが、あの婆様なら突き止めるかもしれないな・・・もしそうなら頭下げてでも情報提供を御願いしないとなぁ~・・・はぁ~憂鬱だ!」


 最悪は商業ギルドの女怪と呼ばれる婆様と交渉しないといけなくなると考えて胃が痛くなるギルドマスター・トルマなのだ。

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