第32話 オルーマン冒険者ギルド・・・それぞれの思惑。



 おじさんが宿について一息付いている頃。


 冒険者ギルドSide


 オルーマン冒険者ギルドでは今、ギルドマスターの前で3名の人物が報告をしていた。

「以上が、クロウ・クローバーに関する報告です」


「ミラルからの報告では特におかしな点は無いな。

 リルルカ、お前が見た感じどうだった、どうせのだろ」


 ギルドマスター・マルコムがそう訪ねた、ミラルとアゲインはまたやったのかと呆れて見ていた。


「特に怪しい所は無いよ、レベルは8、棒術Lv4、生活魔法Lv3、心体力も20前後、持っていた木の棒に痺れ攻撃の付与されていただけだった。

 もう少し聞き出そうとしたらアゲインのおっちゃんに邪魔された」

 リルルカは少し膨れながらそう言った。


「おまえ、何度も注意しているだろう! 新人覗きはやめろと‼ 本当に取り返しのつかない事に成るぞ!!!」

 アゲインは青筋を立てながら強めに言う。


新人ルーキーじゃあ、私の鑑定と看破は気付かれないし異常を見逃す事は無いよ、最低でもスキルレベル6以上は無いとまずは無理だね!」

 自慢げに語るリルルカは大して気にもしていない素振りだ。


「そう言う事を言っているんじゃない、他の冒険者からの心象にも影響するんだ!何故解らんのだ、相手によっては痛い目を見るぞ」

 アゲインが自分の頭に左手を置きながらリルルカに忠告をするが、あまり効果は無いようだ。


 リルルカは元々、神殿での〈10周期の祝福〉(10歳に成る年に神殿で神々からスキルやジョブが授けられる、神殿が無い場所は神官が修行に一環として行脚あんぎゃしておこなっている。)で鑑定と看破のスキルを授けられた。


 本来ならばそう言ったスキルは本人の安全の為に口外しないのだが、レアスキルに気が大きくなったリルルカは周囲に自慢して周った結果誘拐されかけた。

 幸い、当時のとある冒険者パーティーに助けられ事なきを得たが、当の本人はその時は気を失っており覚えていない。


 娘の身の危険を感じた両親は父親がギルド職員だった事も在り、当時のギルドマスターに相談してFランク冒険者として登録し、職員の手伝いとして冒険者ギルドに囲い込む事にした。


 リルルカも自分のスキルが役立つのが嬉しかったらしく、精力的に鑑定と看破を使いギルドに貢献した、その結果14歳にはDランクに昇進し、成人すると共にCランクの昇進が約束されていた。


 だがそれが不味かった、リルルカは増長した、元々ギルド内でも職員や年上の冒険者達からマスコット的な扱いを受けていたのも原因だが、同年代との扱いの違いも拍車を掛けた、当然レアスキルを使える彼女が優遇されるのは仕方が無いが、周りの大人達、特に父親が娘に甘すぎた!


 リルルカは、自分が特別だと思う様になり始め、優越感に浸る為自分より劣っているだろう相手や低ランクの冒険者のステータスを鑑定と看破を用いて覗くのが習慣に成ってしまった。


 もちろん、リルルカもそれがマナー違反だと知っていたので相手を選んで周囲にもバレない様に行っていたが、運が良いのか悪いのか何時もの様に相手を選びながら鑑定していると、他所から来たと思われる低ランクの冒険者(ギルドカードを確認している)に気付かれて怒鳴り付けられた。


 周りもその騒ぎで彼女が鑑定した事に気付いたが、食って掛かる男に対して、リルルカは、この男が素性を偽った重犯罪者だと告げた、男は鑑定でそんな事が解る訳が無く出鱈目だと主張したのに対して、リルルカは偽装ぎそういつわった男の本名と看破した犯罪称号を告げて、違うと言うなら神殿の神義官(神に真実と偽証を見抜くスキルを貸し与えられた神官:但し有料お布施)に判断してもらおうと言うと、男は慌てて何か行動を起こそうとしたが周囲は歴戦の冒険者達、何も出来ずに取り押さえられた。


 その後の調べで、男はこの町で仕事犯罪をする為に仲間と侵入したと判り、他の仲間も芋づる式に捕縛された。


 当然、軽い注意はされたが周囲は彼女を褒めたたえた(特に父親)。


 ただ、彼女の大捕り物はこれだけでその後は平和なものだが、リルルカはその事大捕り物が免罪符に成ると思い込み、すでに成人した今でも新人覗きを止めなかった。


 ただそんな彼女を叱ったり注意するのがアゲインだった。


 アゲインは結婚を機に冒険者を引退し、冒険者時代からの高いレベルの解体スキルが有ったので冒険者ギルドの解体部署に就職した。

 仕事に真面目で勤勉だったアゲインは解体現場で高い評価を受けていた。


 その為、鑑定や看破の使えるリルルカと多く仕事をした。

 アゲインからすれば可愛い妹みたいな存在だが仕事では危険が無い様に厳しく接していた。

 リルルカ自身も文句は言うが指示には従っていた。

 そんな関係で数年、今では他の者が言えば殴られるハゲネタもリルルカなら怒鳴られる程度で済む程の信頼関係だ?


「とにかく、クロウ・クローバーにはちょっかいを出すないいな!

 ギルマスからもしっかり釘を刺しておいて下さい!」

 アゲインは黙っているギルマスにも話を振る。


 リルルカはギルマスが自分に甘いのを知っているので大した事は言われないと高を括っていたが、ギルマスの次の言葉に耳を疑った。


「リルルカ、アゲインが言った通りクロウ・クローバーにはこれ以降、鑑定・看破を使用するな、ギルドマスター命令だ!

 違反すれば減俸3ヶ月の処分だ!」


「え、え?」

 驚くリルルカ、ミラルもこのギルマスの判断に驚いていた。

 返事の無いリルルカに対し、ギルマスは畳みかける様に言い放つ。

「リルルカ、返事は!」

 ビクッ!と体を震わせ返事をする。


「はい、わかりました」

 納得は行かなかったが了承した。


「納得できない様だがな、クロウ・クローバーには女神ドゥジィン様が関わっている。

 迂闊な事は出来ないのだ!納得出来なくても理解しろ!」


「ギルマス、彼は偶然契約の仲介をして頂いただけと言っていましたが」

 ミラルがそう言うと、大きなため息と共にギルマスは話し出す。


「はあ~~~ぁ、良いかお前ら、ここからの話は外に漏らすな!

 特にドゥジィン教や神殿にはな!

 ミラル、間違いなく、女神ドゥジィン様はクロウ・クローバーに目を掛けている。

 本人が知らなくても下手すると信者として認めているかもしれない!」


 ???


「何を言ってるのか分からない様だな、女神ドゥジィン様は信仰する事は誰でも出来るが、信者を名乗る事は女神ドゥジィン様に認められた者のみが名乗る事が許されている」


「それじゃあ、あまり信仰されていないの?」

 リルルカは疑問に思い尋ねる。


「女神ドゥジィン様の信仰は根強く多い、特にドゥジィン信者作品の愛好者は貴族から平民まで幅広い、さらにドゥジィン教会に助けられた人間は沢山居るからな、特に孤児はあの教会で食事と働く為の技術が学べる、なのにあの教会は助けはすれども別に信仰は押し付けないし、好きに他の神々を信仰しても良いと簡単に言い放つ『汝がなしたい様になさい』とな、少し変わった教会なんだ」

 

「確かに変わっているよな、あの教会の連中は」

 アゲインも頷いている。


「ただし、信者を名乗れるのは女神ドゥジィン様に認められた者だけ、かたれば間違い無く姿を消す、ドゥジィン信者は芸術家揃いだからな、以前犯罪組織が資金稼ぎに利用しようとしたら一夜で姿を消した。

 愛と境界の女神と呼ばれているがな、怒らせると恐ろしい女神様だ。

 未だに300年経ってもその怒りが収まっていない場所も在るからな、いい加減開放して欲しい・・・」

 ギルマスが疲れた様な顔をする。


「本当にアレは何とか為らないのか?」

 アゲインも頭を抱えている。


「え~、私は無くなると困ります」

 ミラルが頬に手を当て困った様に言う。


 ・・・「「えっ」」、「なにか?」、「「いえ、なんでもないです」」


 ?、リルルカだけが分からなかった。


「まあ、取り敢えずだ! クロウ・クローバーのDランク昇進は認めよう。

 どちらにせよ、大変なのはCランクへの昇進なのだからな。

 ミラル、彼が冒険者ギルドへ来たらランクの昇進とカードの更新を頼む」


「わかりました、ギルマスではその様に対応します」


「それとリルルカ、再度言っておくがくれぐれも馬鹿な事はするなよ!」


「分かってます、私だってもう子供じゃありません!」

 頬を膨らませて返事をした。


 (((そういう所が子供なんだよなぁ。)))


 3名は呆れる様に見ていた。


 

 

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