第3話 森の中での出来事
ふらつきながら森の中を彷徨っていると一軒の炭焼き小屋を見つけた。
この炭焼き小屋と言うのは、冬場に畑作業の出来ない農民や猟の出来ない漁師たちが冬の生活費稼ぎに炭を焼くときに使う簡易宿舎の様な物だ。
取り敢えず今の季節は誰も使っていないはずだ。
そう思い扉を開けて中に入った。
予想通り、簡易な木製のベッドが有るだけで布団も家財道具も何もない。
ただ雨露くらいはしのげる。
俺はこの粗末なベッドの上で眠りについた。
◇◆◇◆
夢を見ていた。
セシリアの夢を……
いつも優しい笑顔を俺に向けてくれていた。
俺は婚約者候補に選ばれてから今まで以上に必死で学んできた。
少しでもハインツ王国が豊かになる様に……
セシリア女王の治世が最もハインツ王国の歴史の中で豊かで幸福な時代だったと後世で称えられることを夢見て……
何故、昨日のセシリアはあのように豹変したんだろう。
きっと理由がある筈だ……
夢の中でも答えは出ないまま朝を迎えた。
どうしよう……持ち物は何もない。
今身につけている衣服だけだ。
お金も銅貨一枚すら持ってはいない。
取り敢えずここを拠点に暮らすしか無いか。
ギフトの使い道は未だに良く解らないままだが「女神様は必ずその人に相応しいギフトを授けてくれるはずだよ。レオンのギフトも宰相としてこの国を導くために一番重要なギフトだと思うな?」セシリアはいつもそう言ってくれていた。
きっと何かの使い道はあるはずだ。
だが、ここで暮らすにしても危険な魔の森の中だ。
魔獣から身を守る術は必要である。
小屋の中には炭焼きに使う薪を割る為の斧と、干し草を扱うのに使う四本爪のフォークがあった。
どちらも錆びてはいるが使えそうだ。
俺も学園の生徒として弱いながらも魔法は基本属性の初期魔法程度は使えるし、ギフト持ちには決して敵わないが剣と槍も授業では学んでいる。
なんとか弱い魔獣を倒しながら食つなぐしかないな。
そう思い腰に斧を刺し手に四本爪フォークを持って、森の奥へと移動を始めた。
出会って欲しい時には中々魔獣に出会わないもんだな……
そう思いながら、三十分ほど捜し歩いていたら街道沿いに喧騒が聞こえた。
そう大きくない馬車を十人程の山賊が取り囲んでいた。
こんな危険な森の中で山賊家業をやっていけるグループであれば決して弱くはないだろう。
そもそもこの森を抜ける商隊などは必ず腕利きの護衛を雇うはずでもあるし……
俺が出て行った所で何の役にも立てないだろうな……
どうやら襲われているのは、狼獣人の商人のようだ。
善戦はしているが人数差はいかんともしがたい様で、一人また一人と倒されている。
俺は何とか助ける事は出来ないかと必死で考えた。
よく見ると襲っている山賊たちも結構傷だらけだ。
一か八かだと思い、ファイアの魔法を打ち込みながら大声で叫んだ。
「山賊ども! 既に衛兵に連絡してある。すぐに一網打尽にする為に衛兵隊が来るぞ。大人しく降参しろ」
そう叫ぶと四本爪フォークを振りかざして商人たちの前に出る。
「ちっ。衛兵が来たら面倒だ。引き揚げろ」
そう言いながら山賊たちがけが人を引き連れて逃げだした。
心臓がバクバク音を立てる。
(良かった。成功した)
商隊の狼獣人たちは六人で、二人は死んで三人は大けがをしている状況だった。
「大丈夫で……では無いですね。すいません」
「いや、助かりました。亡くなった者もいますが、お嬢様達が生き延びただけでも幸運でした」
怪我人の応急処置を手伝い、この場所では、また山賊が戻って来たらまずいので俺が昨晩泊った炭焼き小屋まで引き下がる事にした。
この商隊は王国から獣人国への行商の荷物を運ぶ途中で、今回は王都に留学していた狼獣人のお嬢様を一緒に獣人国ビスティまで送り届ける旅の途中であることなどを聞いた。
炭焼き小屋に辿り着くと馬車の扉が開き、中から可愛らしい女の子と侍女が一人現れた。
「えっ? レオンハルト様?」
「あ、なんだ。ウルルだったのか」
中から現れたのは学園でクラスは違ったが同級生の子であった。
「なぜ王配になられるはずのレオンハルト様がこんな場所に?」
その言葉を聞いて商隊の他の狼獣人たちが一斉に膝間づいた。
「あ、辞めて下さい。俺はもう貴族でなくなったので、そんな礼は不要です」
「なんで? 何があったんですか?」
「まぁ色々あったんだ。今の俺は王国と家を追い出された、ただのレオンハルトだ。大した能力も持って無いからどうしようか途方に暮れてたとこだよ」
「そんな……レオンハルト様は、学園でも凄い人気者だったじゃありませんか?」
「それは……俺が人気だったんじゃ無くてセシリア王女の王配候補と言う立場が人気だっただけなんだよ……」
ウルル達一行は取り敢えず怪我人が回復をするまで二、三日の間をこの場所で過ごす事になった。
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