木犀
琥珀色の香りに秋を悟った。知らぬ間に夏に突き飛ばされていたようだった。昨日まで目を閉じていた木犀たちが、責め立てるように私を見つめていた。
何度こんな思いをしただろうか。しばし考えを巡らして、そのすべてを数え上げ、ありありと思い出せてしまうことに失望する。この先せいぜい数十回の季節の巡りも、きっと振り返る頃には失望しかもたらさないのだ。
私は木犀の香りを振り切るように逃げ出した。酷暑に見放されて冷えた風が逃走を加速させた。
行き着く先がどこであろうとよかった。ただ逃げることだけが目的だった。
今生幾度目かの秋が来た。抗いようもなく巡る季節から、私は少しだけ目を逸らしていたかったのだ。
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