陰陽反転剤
ヘイ
反転
「あの局長。何ですか、これ?」
無心派学者にして倫国技術局局長、
「ん、ああ来たのかい? それね……まあ暇潰しに作ってみたんだよ。比較的安全な物だから使ってみたら?」
「……遠慮します」
「そうかい? 勿体ない」
何が勿体無いと言うのか。
結局のところ、実験台を得られなかったと言う程度のものだろう。
「で、何なんですか?」
「陰陽反転剤とでも言えば良いのかな」
「何ですか、性別でも反転するんですか……?」
「まあ、元々はそれを目的に作ったんだけどね」
と言う事は違う物が出来上がった、と言う事だろう。ただ、嘉睿は今も愉快げに笑みを深めていることから彼もろくな物ではないと言う事に理解が及んだ筈だ。
前回の嘉睿の失態を考えれば今回は確かに比較的にマシな物なのかもしれない。保管すると言う意味では。
「薬品という点では保管は安全に出来ますね」
「そうだね」
「前回のこと、忘れてませんからね?」
「何だっけ? 直後に脳をすり潰されたから詳しいことは覚えてないんだよね」
嘘を吐くなと言いたくなるが、どうせ言ったところで聞こうともしないだろう。
「粘性生命体の事ですよ」
「ああ、あれか……。面白かったね」
「大混乱でしたよ!」
「まあ、生きてるから良いじゃないか」
「アレのせいで何人死んだと思ってるんですか!」
「まあ、僕は死ななかったけどね」
などと軽々しく言って嘉睿は笑う。
「その薬ね、材料は鼠の尾、牛の角、虎の牙、兎の目、魚の鱗、蛇の皮、馬の尻尾、羊の血、猿の手、鳥の心臓、犬の血、猪の牙だよ」
「……そんなんで薬が作れるんですか?」
「驚きだよね。昔の人はこれで薬を作ろうとしたらしいよ。眉唾だったんだけど、実際にできたんだから」
「試したんですか?」
「まあね、物は試しと鼠に舐めさせたら馬に成ったんだ」
「ん?」
「犬に舐めさせれば魚に成った」
陰陽反転剤。
性別を変える事を目的とするのではない。これは生物の在り方を変えてしまう。
「人に舐めさせたらどうなるんだろうね」
嘉睿は無邪気な子供を思わせる笑みを浮かべて、薬の入った瓶を手に取る。
「やるんですか?」
歩いて行こうとする彼に声を掛ければ、にこりと狂気をのぞかせ。
「……どうしようかな。でも、君も気になるだろ?」
友達を誘う様な感覚で告げた。
「まあ、否定はしませんが……」
「じゃあ、やってみようか」
結果報告。
人は虎となり、虎は猿となりました。
元(人の姿)に戻る傾向は見受けられません。
陰陽反転剤 ヘイ @Hei767
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