ネズッチ視点~競合他社!~

意識が戻って初めに思ったのが、「トラックの運転手は、ちゃんと車の保険に入ってただろうか?」という事だった。

車の事故の慰謝料はハンパないって、聞いたことがある。トラックを運転してるって事は、仕事だろうから、会社で保険に入ってるから大丈夫だろうか?そんな考えにいたり、うっすら目を開けると金髪碧眼の威厳ある髭をたくわえた男性が、俺を心配そうに覗き込んでいた。


「父上·····」


俺の口から自然とその単語が漏れると共に、記憶が急激に溢れ出してきた。

それが、日本にいた16歳の俺と、14歳の国民にイケメン王子と呼ばれている存在が融合した瞬間だった。

融合したと言うには語弊がある、言うならば2歳から16歳まで毎日同じ世界のVRのゲームを8時間やっていた感覚だろうか。二重人格とまではいかないが、確かに俺が二人いた。


俺は異世界に転生したのか·····。


そう理解すると共に、前世の両親と妹にもう二度と会えない事を実感した。急に心に穴が空いたかのような感覚にとらわれ、目から涙が止まらなくなった。


「そう泣くな、息子よ」


そんな俺を見て、この世の父親である国王が、俺の頭を撫でてくれた。


「古語を勉強している最中に、ワシの名前の由来を知り、ショックで倒れたと聞いておるぞ。産後、急に倒れて亡くなった王妃を思い起こされて、ワシは肝が冷えたぞ。息子よどうか、体を大事にしてくれ」


そうだった。この世の俺は、家庭教師と古語の勉強中に父親の『バースト』という名前の意味が『うんこまみれ』と言う意味だったと知り、爆笑して呼吸困難に陥り意識を失ったのだった。


きっと家庭教師は爆笑した事は伏せて、意識を失った事のみ報告したのだろう。

俺は涙がひっこみ、思い出し笑いをしそうになるのを必死にこらえた。

俺の眉間にシワを寄せて笑いを堪える表情を、国王は勘違いしたらしく、眉尻を下げて優しく言った。


「『災い転じて福となす』と言うだろう。この名は、幸福が沢山おとずれるようにとの逆の願いが込められておると聞いた。ワシは良い名だと気に入っておる。お前の名前もなかなかの名前だが、『皆から愛されるように』との願いが込められているのだ、安心するといい」


そう言って、俺の金髪の髪をポンポンと手で叩くと、国王は部屋を出ていったのだった。


***


俺は記憶がハッキリしてくると、異世界転生ならではを試そうとした。ラノベで色々、異世界転生知識は持っていた。

異世界といえばチートにハーレム!


しかし、俺には転生チート能力は何も無かった。

それならば、王子という立場と現代知識を使って内政チートじゃあー!と思い、国王に依頼して政治の場に参加させてもらったが、元老院の議員のお歴々方に「前例がない」「根拠が甘い」と滅多打ちにされて追い返されてしまった。

現代社会の平凡な16歳には内政チートは、無理っぽい。


俺が出来た事といえば、側近にケンタを引きたてたくらいだ。

ケンタは本名はケンタ・マクドナルドと言い、俺はその名を聞いた時に思わず「競合他社っ!」と叫んでしまった。

ケンタには「王子とお会いするのは初めてなので、競合したことはないかと思いますが?」と冷静に返されてしまった。

ケンタは東の大国の貴族と、この国の令嬢の間にできた子供で、この国では珍しい黒髪黒目の東洋風の顔立ちだ。その顔立ちのせいで、優秀なのに不遇の身だったのを俺が側近に引き立てた。

慣れ親しんだ前世の東洋風の顔立ちが近くにいてくれると、俺は自然と心安らいだ。


異世界ハーレムについては、金髪碧眼のイケメン王子という身になったので、存分に叶えられると息巻いていた。しかし、厳格な一夫一妻制のこの国では、ハーレムなぞ許し難い所業とされていて無理そうだ。

ただ、好いてくれる存在には困らないだろうとたかを括っていた。しかし、様々なご令嬢に会う度に俺は、身分と外見以外にはまったく興味を示してもらえない現状に気づいた。

次第に、心が苦しくなってきていた俺は、王宮の窓から満月を眺めながら呟いてしまった。


「俺の身分と外見ではなく、内面に惚れてくれる女の子と結ばれたいと思うのは、身分不相応な夢なのだろうな·····」


俺がそう呟いた瞬間、背後でドスのきいた声が聞こえた。


「その願い、叶えてやろう」


部屋に1人だったはずなのになぜ?と、慌てて振り返ると部屋に黒いローブを着たガチムキの50代くらいのスキンヘッドのオッサンが立っていた。

片目が潰れていて、正直ヤクザにしか見えない。


「不法侵入者だ!衛兵!」


俺の声に部屋の扉が開き、衛兵ではなく何故かケンタが慌てた様子で入ってきた。


「王子、その方はこの国で唯一の魔法使い様です!先程、王から魔法使いが王子の部屋に行くと伝令がありました」


「ま、魔法使い??この人が?」


「そうだ。これを見ろ」


そう言って、スキンヘッドのヤクザ風オッサンは胸元を探った。

拳銃でも出てくるのではと身構えていた俺は、出てきたものを見て、ポカンとしてしまった。


強面のオッサンは、可愛いピンクのお星様のステッキを堂々と掲げていた。

それは前世の俺の妹が好きだったアニメ『魔女っ子バビデ』の魔法ステッキにそっくりで、思わず俺は叫んでしまった。


「似合わねぇー!」


俺の発言が気に障ったのか、強面のオッサンのコメカミの血管が浮き上がった。


「無礼な。·····まぁ良い、貴様の願い叶えてやろう。ビビデバビデブー」


オッサンの魔法ステッキからピンク色の光が俺に向かって噴出した。

そして、気づくと俺はネズミになっていた。


スキンヘッドのオッサンは可愛いピンクのお星様のついた魔法ステッキを振りながら、ニヤニヤと俺に言い放った。


「『王城のイケメン王子様より、ボロネズミの方が好き』と思ってくれる女性に恋してもらったら、人間に戻してやるよ」


「そんな·····」


「『身分と外見ではなく、内面に惚れてくれる女の子と結ばれる』のが、お前の夢なんだろ?さっき、ほざいてただろ?」


絶対このオッサン、俺がさっき魔法ステッキ似合わねぇって言ったこと根に持ってるよ·····俺は、予想外の事態に狼狽えた。

すると黙って様子を見ていたケンタが、魔法使いのオッサンに向かって言ってくれた。


「王子も割り当てられてる執務があるので、ずっとネズミのままでは困ります」


「安心しろや。この魔法は月の力を利用してるから、夜にしかネズミにはならねぇ」


「ならいいです」


あっさり引き下がったケンタに、俺は叫んだ。


「良くねぇだろ!夜の間ずっとネズミなんだぜ!?ボロネズミの方が良いと言う女性なんて、この世にいるわけねぇから一生夜はネズミの姿って事だろ?」


「安心しろ。目星はつけてある」


そう言って魔法使いのオッサンがお星様のステッキを振ると、部屋の壁にボンヤリと映像が投影された。

ツギハギだらけの服を着た女性が、食器を布で一生懸命磨いている様子が映し出されていた。


「彼女の名前は、シンデレラ。動物にも優しいし、彼女ならお前に惚れてくれる可能性が1ミクロンくらいならあるかもな。まぁ、お前の中身がどれほど魅力的なのかによるがな」


「1ミクロンって1ミリの1000分の1だろ!?絶望的ってことじゃねーか!!ってか、シンデレラって·····この異世界、まさか童話の世界だったのか!?」


「ゴチャゴチャとうるせぇ。自業自得だ、さっさと行け。新月の日以外は毎日、1時間だけ転送魔法でシンデレラの元に飛ばしてやるよ」


そう言って魔法使いのオッサンは、俺に向かって杖を降った。

そうして、俺はシンデレラの屋根裏部屋に転送されたのだった。

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