兎にも角にも率いるゲーマー譚

ホウセイ

第1話


 完全没入型仮想現実ゲーム。


 当初はバカデカイ二畳もの大きさのゲーム機から始まった。そんな大きさの物ですら処理が追い付かず、一人用のゲームしか出来なかった。しかし、着々と技術は進歩していき、大きさこそ差程変わっていないが、その中身はもはや別物へと変わっていった。

 そうして、10年後に満を持して発売されたのがオンライン型のゲームであった。


 多人数でのバーチャルゲームは流行りに流行り、日本では凡そ二人に一人は何かしらのオンラインバーチャルゲームをプレイする時代へと変わっていった。


 流れ流れて40年。

 完全没入型仮想現実ゲームの初期型が発売されてから50年後。


 流行りは個人用ゲームへと戻ることになった。


 オンラインゲームをプレイする時に行われていた処理の多くが無くなる事によって、その必要の無くなったリソースを全てクオリティアップへと繋げるに至った。結果、個人用ゲームのクオリティは比較できないほどに上昇。画質は勿論の事より、質感や音、匂いと言った互換に関するものも総じて向上させた。

 もはや『仮想現実』なのか『本当の現実』なのかさえも曖昧にさせる程のクオリティ。


 唯一未だに【人工頭脳】としては発展途上であり、NPCの挙動は一昔前とそう変わらずにいた事が一種の『ゲームらしさ』、『仮想空間』らしさを感じさせていた。


 それでも、いくらNPCが変わらずとも、実に多くの人々がドハマりした。


 そんなゲームの数多あるタイトルの一つ。

 個人用没入型仮想現実専用ゲーム。

【戦乱魔界】。


 プレイヤーは身一つと従者2人だけから始め、集団、村、町、そして街、都市、行く行くは国となるものを運営しつつ、魔界からやってくる魔物、魔族の軍団を退けるのゲーム。


 プレイヤー自身が戦うことは皆無であり、プレイヤーが行うこと、行える事は幾千も用意させた選択肢を選ぶだけである。


 しかし、その選ぶとは言っても選択肢は数限りなくある。

 例えば《運営フェイズ》で行う《コマンド》は、どんな開拓や開発をさせるかを選択。従事させる人数や従事させた者の適性も加味しなければならず、勿論失敗もあり得る。


 更に物資の調達も必要であり、そちらにも人数を割く必要がある。《人口》《資材》《食料》は初めから気にしつつプレイする必要があり、ある程度の発展をすることができれば《金銭》や《土地》も考えていかなければならない。


 また所々で発生する膨大な種類のイベントでは例え2つしか選択肢がなくとも、関連した次の選択肢では3つ4つあるのは当たり前で、運が悪いときにはマイナスイベントが連鎖発生し、対策や経過を見守る必要も出てくる。しかもそれが2つ3つと重なっていく場合もある。


 比較的序盤はただの【集団】となっているため穏やかであり、問題があっても1つ程度。しかし、プレイ時間が重なっていき、上手く運営していけばいく程に【集団】は大きなり、やがては【小国】。そして更にドンドンと大国化していく。

 そうなれば問題が山積みになることもあるし、平時であっても、とても穏やかとは言えないくらいに頭を悩ませる事になる。


 そんな《運営フェイズ》よりも尚大変なのが、このゲーム最大の売りでもある《戦乱フェイズ》だ。


 集団時から国になっても攻め寄って来る魔物や魔族たち。そしてそれを撃退するフェイズだ。

 それは、相手の拠点とも言える、異次元から侵入してくる為に必要な《門》の様なもの。《歪み》を維持するモノを破壊するまで続く。

 国を大きく、強大にしたければ少しでも早く《歪み》を閉じさせ《戦乱フェイズ》を終わらせるのがキモ。長引けば、次の《戦乱フェイズ》がノータイムで発生するし、更に長引けば《戦乱フェイズ》が事もある。準備期間とも言える《運営フェイズ》が全く行えず、2つ、3つと増えていく《歪み》により攻め寄る魔物や魔族が増大。

 当然ながら多方面での攻防を余儀なくされ、最終的にはじり貧におちいり、ゲームオーバーとなってしまうだろう。


 そんな《戦乱フェイズ》でプレイヤーがする事は《運営フェイズ》と同じくコマンドとイベントの選択肢の選択だけだが、《運営フェイズ》と違うのは、刻一刻と状況が変化することだ。


 コマンドを選択するのにも悠長にしていれば刻一刻と変化していくため、《突撃》のコマンドを選択したのに突撃した場所には最早何もなく、相手の強襲を受け、部隊が壊滅する。と言うのは初心者の多くが経験するものだった。


 例えばイベント。

 選択肢が2つあり、どちらにしようかと数分間悩んだとしよう。

 その数分間で戦況が変化し、良策であったものが下策に成り下がる事もある。下手をすれば選択肢どちらを選んでも戦況が大きく不利に傾いたりする場合がある。


《戦乱フェイズ》では正しいコマンドと選択肢を素早く的確に選択する。言葉にすれば極々簡単ではあるが、難易度はかなり高めのゲーム。

《運営フェイズ》では正しい選択をした上で、いくつもの予防策を施行させる必要があり、更に食糧やその他の資材、労力や軍事力も整える必要がある。

 そして、更に更に平時でさえ大地に跋扈し、時折小規模ながらも発生する《襲撃》をも警戒する必要がある。


 そんな一部の人間にとっては頭が痛くなりそうなゲームは一部を除いたそのまた一部に熱狂的なプレイヤーたちが存在した。


 そんなプレイヤーたちの中の1人。

 名を【吉田一誠】。

 プレイヤー名【ワンス】。


 神の戯れか、はたまたただの偶然か。


【戦乱魔界】とほぼ同一と言える世界に降り立つこととなった。

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