2・提訴活動-6[理の在り処]

藤沼氏のメールに目を疑った。


こうき僕のペンネーム


お久しぶりです。

わざわざ書類の制作お疲れさまでした。

ご縁のあった方なのでご忠告させていただきますが、こうき様は諦めた方が良いです。


頭に血が登って、採算度外視でもいいから訴えられたのだと思いますが、無駄なことです。知識のない方だったら、裁判所から書類が届けば驚いて支払ってしまうかもしれませんが、私には法律と実務の知識があるので効きません。


このまま訴えれば勝訴されるとはおもいますが、無駄です。裁判所も債権の有無を決めるだけで、取り立ててくれるわけではありません。なので強制執行をされるかと思いますが、強制執行は難易度が高く成功出来ません。ご存じないと思いますが、強制執行では一般的に預金を差し押さえます。しかし口座番号までわからなければ差し押さえできません。当然私は口座を教えません。ご自身で調べるのも難しいでしょう。もし解ったとしても、残高がなければ空振りです。執行代金がかかるだけで終わります。


ちなみに今送っている住所には■月■日、あと1ヶ月ほどで転送は止まります。

それ以降は何を送っても届きません。


これでおわかりだと思いますが、こうき様のやっていることはまったくの無駄なのです。私には全然効果のないことです。今すぐ勉強代だと思って諦めることが最善策でしょう。


ご自身は強い立場だと勘違いなされているかもしれませんが、世の中は全く違います。雇主が下請けに不当な扱いをするというのはよくあります。お互いの力関係で下の者が理不尽な目にあうことは商取引ではよくあることなのです。ご自身がいくら正しいことだと駄々をこねても、正しいことが必ず勝つとは限りません。


長々と書きましたが、最善の方法は諦めることです。

無駄のないように忠告させていただきましたが、聞く耳がないのならお好きにしてください。

それでは失礼します。』


内容意図が理解できず、何度か読み返した。


何を言っているのだろう?煽りだろうか?脅しだろうか?少なくても示談のお誘いではないのは確かだ。

本当に法律と実務の知識があるのだろうか?

何度も「諦めろ」と強要してくるのは洗脳宗教みたいて気持ちが悪いが。

とりあえず整理するために順にツッコミをいれてみよう。


>裁判所から書類が届いたら驚いて払う…


なぜわざわざ「驚いて」なんて書いてきたんだろう。法律にお詳しいなら支払督促と訴状の区別はつくだろうし、あわてることはないはずなのだから。請求勧告を受け取ったのだ。まさかビックリしたわけではないだろう。


そもそも裁判所からの書類で届いて驚いて払っちゃいけないのは、「支払督促」。

今回は少額訴訟の「訴状」であって、まだ支払いを請求していない。藤沼氏に本当に支払い義務があるか裁判で決着つけましょうという強制お誘いだ。本当の裁判所からの通知であれば「支払督促」も「訴状」も身に覚えが無いとか不満があるなら反論の答弁書を返送すればいい。

無視するのは一番悪手で、例え身に覚えがなくても問答無用で原告に対して支払い義務が発生する債務者になる。そういう詐欺があるが答弁書を出せば詐欺の場合はほぼ防げる。

そもそも藤沼氏が『不満なら裁判起こせ』と提案したのだ。

驚くことなど何もない。


次に強制執行について。

>一般的に預金を抑える…


相手の財産、特に勤務先が解っているときには不明瞭な口座より先に、給与を押さえるのが普通だ。

訴状にはフェイスブックで調べておいた会社の住所を書いておいた。


なぜか会社名が二個あったので両方書いておいたはずだ。そして片方の会社は実家のものだということが証拠を作っているときに判明した。

というのもPayPalのキャンセルされた履歴に住所が書かれており、それが内容証明が届いた辺りの住所だった。

両方就職していると書いてあったからには、派遣かヘルプ的な何かで行っていたのだろうか。

だったら実家の会社から給与を差し押さえれば良い。

もしお優しい親御さんがかばって、支払いを拒否した場合は会社を取立訴訟することになる。


何にせよ普通は財産が解っている所からおさえるのである。

もし藤沼氏が会社を辞めていたとして預金口座が空だと言うなら、証券口座を抑えれば良い。トレーダーで株取引をしているなら、持っているだろう。藤沼氏の性格や収入がないことを考慮すると財産としてなるべく手放したくないはずだ。

それも裁判所で手続きを行えば、保有株や残高まで解る。財産調査は弁護士に頼んだ場合は自腹だが、裁判所に頼んで執行されれば、それは「事件の裁判」扱いとされ、申請すれば、債務者に請求が可能である。

もちろんこれも、藤沼氏には既知のことだろう。何せ法律にお詳しいのだ。


>何を送っても届きません…


住所については、勝訴すれば住民票の取り寄せも可能だし、それ以前に特別送達でバレることも当然承知しているだろう。だって法律に(略

実務に詳しいならPayPalの住所も気がついていただろうが、僕が都内の住所を送ったので気がついていないとおもっているのだろう。しかし折角いつ転送が終わるのか教えてくれたのだ。裁判のついでに上申書で訂正しておいてあげよう。でも何故一ヶ月後に転送が終わるのだろう?郵便の転送は通常1年のはずだ。最近移動したわけじゃないのか?


>下請けが不当な扱いを受ける…


この辺りの理解が難しかった。

言っている意味が解らないという事ではない。そういうことは確かに世の中あるだろう。

ただ僕が藤沼氏の不法行為に対し抗議しているのは正しいが、不法行為がまかり通ることがあるから、僕が正しいことをするのはワガママなのだと言っているのだ。

要は藤沼氏は不法行為をやっているやつがいるから自分の主張に従うべきだと言っている。僕が正しいことを言っていると認めているのにだ。

僕の知っている一般的な道徳心と真逆のことをさも当然と説いてくることに理解が追い付かなかった。こんなこと平然に主張するのは、漫画やドラマのフィクションの世界か一部の犯罪者だけだと思っていた。

まさか30過ぎのセミプロで生粋の物書きを名乗る人物がここまで分別がつかないとは思わなかったのだ。


昭和初期までは一方的な商取引があったそうだが、今は「下請法」という法律がある。雇い主が大きい会社の場合に適用されるが、違反事項は人を雇うなら守るべき当たり前のことが記されている。商取引を引き合いに出すなら、完全に違法行為である。

個人間では下請法は適用されないとはいえ、法律・実務知識があるなら違法行為を常識として振りかざすことは恥だと知って欲しい。

今は令和なのだ。


僕の主張が法的に正しいということは弁護士の証言で証明した。それが駄々をこねているということらしい。藤沼氏は自身の思いどおりになる他者の不法行為を例に上げて正しいと主張している。


僕が「絵を発注して納品したら、料金を払うべき」というのが正しいというように、藤沼氏にとっては「雇い主が気に入らない相手には、料金を支払わなくて良い」というのが正しいのだろう。日本の法律とは異なるが、それが彼の道理なのだ。


奇しくも今回の件で二次創作の元となった作品はキャラクター達の己の主張する道理をぶつけ合う話だ。

ではお互いのことわりを示そうじゃあないか。

無駄かどうかは、他人が決める事ではない。自分で決めることだ。


このメールで藤沼氏の人としての遵法じゅんぽう意識については完全に諦めがついた。もしかして諦めろとは、そういう意味だったのだろうか?


出来ないかもしれないは、できる可能性があるのだ。

どちらにせよダメなら、後悔しない方をやった方がいい。

それにこれは「正しい」ことではない。「あたりまえ」のことなのだ。

藤沼氏に払う勉強代は1円もないが、他に払う勉強代ならある。

なかなか出来ない体験にあってしまったのだから、せいぜい勉強させていただこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る