第16話 罰ゲーム定期
「また、みちるに負けた~!」
「また、タッ君に勝った~♪」
不服ながらいつもの光景。今日も今日とて、みちるに卓球で敗北していた。無事にみちるもウチの学園に入部して、正式に卓球部にも入った。部活で時間いっぱい練習してから、恒例の公民館での卓球が始まる。お互いにこの時間は別とばかりに、力の拮抗した白熱のゲームとなっている。だけど、軍配が上がるのは、毎度みちるだった。
「それじゃあ、覚悟はできてるよね?」
「…ああ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
俺たちは勝負する際、あるモノを賭けている。それは罰ゲームだ。まあ、勝った人が負けた人に命令できるって感じだ。いつからか、みちるの提案で始まったのだが、試合に緊張感も出るから、俺はアリだと考えている。だが…勝てない。このルールって勝つときもあるから楽しいのであって、罰ゲームを食らい続けるのは嘆かわしいだけだ。ニヤけながら、目の前にみちるがやってきた。
「クックック。それじゃあ、タッ君」
「その笑い、なんなんだよ」
小悪党っぽい笑みを携えながら、みちるは宣告した。
「脱いで」
「マジで⁈」
ストレートなエロ罰ゲームで草。じゃなくて、流石に卓球に負けたくらいで、全裸にされてたまるか。
「タッ君、勘違いしてるでしょ。脱いでほしいのは上だからね。下まで脱いだら、罰ゲームじゃなくてリアル罰が下るからね」
「上だけでも十分アウトな気がするけどな」
「いいから、早く早く」
やむなく俺はウェアを脱ぎ、上半身裸になった。
「お~、タッ君の体、なかなか…」
自分で言うのもなんだが、ガチで運動部の活動をしているだけあって、俺の体は引き締まっている。
「…え、コレ、いつまで?」
「そうだね~。あ、いいこと思いついた。このままあたしと1セットマッチで勝負しよう」
「なんだ。打ち足りなかったか?ハズいけど、いつもに比べれば、ヌルい罰ゲームだな」
「決まりだね。今、ケチョンケチョンにしてあげるよ」
「俺からしたら②ー③のセットカウントで負けてるから、このボーナスステージを勝てば同点。失うモノのないチャンス到来だな」
やる気が出てきた。上半身裸にされてはいるけど、むしろ体が軽くなっているし、強いのではないだろうか。このオマケのセットを勝ち切ってやるぜ!ちなみに、みちるからの罰ゲーム中に行われる試合だから、負けても罰ゲームは発生しない。もし、罰アリだと1日2発の罰ゲームになりかねないからな。
「みちる、サーブはどっちからにする?」
「サア!」
「ちょっ⁈」
突然打ってきやがった。みちるのストレートサーブに俺は、為す術なく空振りしてしまった。なんてヤツだ。
「フフフ、あたしからに決まっておろう」
「先に言えや!」
くぅ、罰ゲームの流れがあるからって卑怯だろ。負けたくない気持ちが、より一層強くなった。負けてたまるかア!
「フフフ、いい目と体をしているね」
「体は余計だ!」
褒められているのかもしれないけど、なんか嫌だ。みちるの場合、おちょくっている気がしてならない。ゲームを再開して4-4のスコアになったところで、みちるの卓球に変化が起き始めた。
パチィ!!
「あ、いってぇ!」
みちるの打った低弾道のスマッシュが、コートに入ることなく、俺の腹部に突き刺さった。瞬間的にではあるが、そこそこの痛みなのよ、これが。
「ゴメン、タッ君」
「いや、気にすんな」
「まあ、よく考えたら、タッ君にポイントが入るんだし、あたしが謝るのもおかしいよね。失敗、失敗」
「切り替え早いな!」
ということで、次。みちるは積極的に台上での攻撃を仕掛ける。いい動きだったが、惜しくもボールはコートには入らなかった。アウトしたボールは、俺の上半身に当たった。
「ぐっはあ!」
変な声が出てしまった。何はともあれ俺の得点だ。…痛いなあ。ヤダなあ。
「タッ君、すまぬ」
次は激しい打ち合いになった。…のだが!なんか、みちるの打つボールはほとんどミドル狙いだった。そういう戦法は確かにある。実際フォアで打つか、バックで打つか、難しい判断を、俺は迫られている。でも、今はミドル攻めは勘弁していただきたい。ハッキリ言うと、
「体を狙ってんじゃねええええええええ!」
「とりゃあ!」
みちるの可愛らしい掛け声と共に、俺の上半身に、もう1発命中しましたとさ。次のプレーでも、1発食らった。
奈鬼羅 みちる 4 - 8 滝川 卓丸
「…みちる、わざとやってるだろ」
「ちっ、バレたか」
「認めやがった!」
よくよく考えたら、みちるは始めから俺の体付近にばかりボールを打ち込んでいた。俺も返球したから大事には至らなかったけどね。さては、始めから俺をいたぶる(物理)つもりだったな。
「バレないように始めは露骨なスマッシュはしなかったけど、気づくのが早いよタッ君」
「計画的犯行かよ」
「でも、これで容赦する必要もなくなったね」
みちるはラケットをクルリと反転させた。黒い面のラバーが俺の方に向く。ヤバい。そっちは超高反発ラバーを採用していたはずだ。つまり、めちゃめちゃ弾む。スマッシュがエグい威力になる。
「フフフ、あたしの裏面スマッシュ、素肌で耐えられるかな」
みちるの目は、うっとりしていた。俺は無事でいられるのだろうか。あと、みちるは変な性癖に目覚めていないだろうな。
「しかし、みちるがミドル攻めしてくるのが分かっているなら、俺だって対応できるってもんだ。何より、あと3点で俺の勝ちだからな」
俺の言葉を聞いたみちるは、あからさまにシュンとなった。
「はあ、そうなんだよ。あと3点でタッ君の勝ち。つまり、あと3発しか打ち込めないんだね」
ん…?その言い方じゃあ、残りのポイントもストレートで俺がかっさらうみたいだろ。そんな弱気なのって、みちるらしくない…。え、まさか。
「みちる、このゲームに勝つ気ないってことか!」
「気付くの遅っ!罰ゲームの試合なんだから勝敗なんてどうでもいいに決まってるじゃん。あくまでも事故を装って、スマッシュを直撃させるための口実に過ぎないよ。バレてもともとなのに、タッ君全然気付かないんだもん」
ゲンナリしてしまう。早くこの試合を終わらせよう。問題は超攻撃的な黒い面のラバーだ。みちるは、フォアでの強打を狙って持ち替えているので、フォアへのロングサーブなど、言語道断だ。導き出した答えは、中央に短めのカットサーブだった。対してみちるは、台上に身を乗り出してきた。
「ていやっ!」
弱そうな掛け声でスナップの効いたレシーブを打つ。打たれたボールはコートを意に介さずに、俺に直撃した。もとい、俺の乳首に直撃した。
「アイエエエエ!」
ジンジンするう!両手で、狙撃された乳首を押さえて、膝から崩れ落ちる。手元を離れたラケットが、コートの上でカランカラン、とバウンドする。
「タッ君の大事なところが!これじゃあ、もう、タッ君はお嫁に行けないよ~」
「誰が嫁に行くか!」
身悶えながらもツッコむ。
「コホン。安心してタッ君。あたしがもらってあげるよ(イケボ)」
「やかましいわ!」
みちるが無駄にイケボで言うものだから、イラッとした。
「あれ、もう回復したの?」
立ち上がった俺を見て、つまらなさそうに言ってのける。
「まあ、な。負けて、られないからな」
まだダメージは残っているけどね。
「いや、点数はタッ君に入っているからね」
「…勝ちって何だろう」
「フフフ、哲学だね」
しかし、今の一撃でみちるが俺に、攻撃したいだけなのは分かった。浅めにサーブを出しても、ターゲットが俺である以上、何の意味もない。なれば、俺のすべきことは打球の威力を殺すことなり。そのためにどうするか。バックだ。フォアよりは強く打てないバックにこそ、サーブを出す。これなら、黒い面のラバーも使わせずに済むからな。最小限のダメージで乗り切ってやる!
「いくぞ、みちる!」
ロングサーブをバックに出した。イメージ通りの道筋を、ボールが通っていく。これなら大丈夫だろう。
「読んでいたよ♪」
ボールの行く先には、バック側に回り込んだみちるがいた。惚れ惚れするようなフットワークであった。こうなっては、俺のロングサーブはスマッシュにおあつらえ向きのチャンスボールと化していた。
「ぎゃーす!」
はい。またエグいスマッシュをいただきました。もう、ヤだ。体育館の冷たい床に、大の字になって寝っ転がった。今のも痛かった…!そこにみちるがやってきた。
「ちょっとは手加減しやがれってんだ。もう終わりにしようぜ」
「ゲームはまだ終わってないよ。次、というか最後はあたしのサーブだよ」
「なら自分のコートに戻ったらどうだ。俺もすぐに立ち上がるからさ」
「いやいやタッ君、あたし、ここからサーブ打つよ」
「ここからじゃコートに入らないだろ?」
「タッ君、まだそんなこと言ってるの?あ、寝たままでいいよ」
「おい、なんでラケットとボールを構えているんだ。まさか」
「サーブミスになるかもしれないけど、全力で打つからね」
「やめるんだ、バカ!」
空中に高々とボールを上げるみちる。その様は卓球というよりも、テニスを彷彿させる。軽くタ、タンとステップを踏んで、大きくラケットを振りかぶる。見えたのは黒ラバー。それが、小柄ながらも類まれな身体能力を持つ選手によって振り下ろされた。
乾いた音、そして、
「いったあああああアアアアアア!」
俺の断末魔。
その一打で出来た痕は、三日三晩引くことはなかった。トホホ。
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