このラスボス系ヒロイン、俺が育てました
さいりうむ
第1話 ラスボスの目覚め
コツーン、コツーン、コッコッコココココ…。
広い体育館にピンポン玉が転がる。卓球台をはさんで相対している女の子、奈鬼羅みちるが打ち抜いたピンポン玉だ。
「やたー!また、あたしの勝ちだね。タッ君参ったかー!」
「んだよ、もう。どうして今のスマッシュに対応できるんだよ」
転々としているピンポン玉を回収して俺、滝川卓丸は卓球台に戻る。
「今回もたまたまラケットに当てられただけだよ~。あたしはタッ君みたいに考えてプレーとか出来ないからさ」
「あながち、そうでもないかもよ?考えてやる方が合ってる気がするけどな」
「ないない。あたしバカだし」
あっけらかんとした態度でみちるが言ってのける。実際のところ、みちるのプレーの魅力は悩まずに振り切ることができる思い切りの良さだ。
俺もみちるの卓球に食らいつくが、いつも僅差で敗れてしまう。 競技がなんであれ、やはり女子に負けるのは男として悔しい。しかも年下に。故にいつも勝負を挑むのだが、みちるは強い。強いけどコテンパンにされるわけでもなくいい勝負には持ち込めている。みちるに勝てる日は、そう遠くもないはずだ。明日こそ勝つ!
「それじゃあ、タッ君。今日も勝利のゴホービちょうだい」
「へいへい。今日は何をしたらいいんだ?」
「今日はね~。おんぶして!おんぶ!」
こちらに手をパッと広げてねだってくる。1つしか年の違わない中3女子をおんぶ、ねえ。ハードル高いけど初めてってわけでもないしな。
「ほらよ」
みちるが乗りやすいように屈んでやる。背中に気配を感じた次の瞬間には、みちるが体を預けてきた。温もりで、感触で、吐息でみちるの存在がありありと伝わってくる。首もとに女の子の細い腕が回される。ライムのような爽やかな香りに汗の匂いも混じってドキドキしてしまう。先程まで激しいラリーをしていたこともあって「はー、ふー」とみちるは息を乱している。ショートカットの毛先が俺の首筋をくすぐってきて、こそばゆい。体を密着させてくるので、着ている薄いトレーニングウェアでは胸の感触が鮮明に分かる。
「いいよー。タッ君、スタンダップ」
「っ。わかった」
耳元で言われるとゾクッとしてしまう。足裏とふくらはぎに力を込めて立ち上がる。
「よっと。軽いな、ちゃんと飯を食え」
「食べてるけど太らない体質なんだよ。あたしの体のことは、あたしを産んだお母さんにお問い合わせくださ~い」
「嫌だよ!みちるの母親にみちるの体について聞くとか一発で通報されるわ!」
そういう話をされると意識がみちるの体にいってしまう。みちるとのスキンシップは今に始まったことでもなし、落ち着こう。同年代の女子と比べても小柄な体が俺の背中に収まって乗っかっている。この小さな体でみちるは高い身体能力を持つ。どこにそんなパワーが宿っているのか不思議でしょうがない。
「体育館1周、ガンバだよ、タッ君!」
おぶさったみちるが俺の頭をペシペシ叩いて促す。
「へいへい、落ちるなよ」
みちるは軽いので小走りで動き出す。
「あっ、そうっ、だっ、タッ、くんっ」
揺られてスタッカート気味にみちるがしゃべる。
「ん?どった?」
小走りを止めて、話の続きを待つ。
「今年の春から、あたしもタッ君が通っている高校に行く訳じゃん。で、入る部活なんだけどさ」
「ん、そうだな。ウチの高校は部活の種類が豊富だから、選び放題だぞ。みちるは文化部希望だよな。中学でもそうだったし。今から決めなくても体験入部しまくるといいよ」
「違うよタッ君。あたし、高校では運動部に入るつもりだよ。ていうか卓球部」
「は?」
驚いてズルッとみちるを落としてしまう。
次いでみちるが俺の首もとに回していた腕に引っ張られて、後ろに体が傾く。天井を仰ぐ。逆さまの卓球台台が視界に入る。そして不格好に俺とみちるは転倒する。
ゴッという音と同時に鈍い痛みが頭の天辺に走った。淡い残像がゆっくりスライドするような目のチカチカに苛まれる。痛みがあるせいか、体育館の証明が手術室の無影灯を彷彿とさせた。そんな俺の視界に、ヒョコッとみちるが顔を出す。
「ちょっとタッ君!スゴい音がしたよ!大丈夫?!」
…何でみちるは無傷なんだ。咄嗟に転ぶのを回避したってのか?ともかく転倒したのは俺だけらしかった。
「痛いけど、今だけだろ。…イテテ」
ムクリと起き上がる。
「ここだよね。今、打ったところ」
俺の頭部をいたわるように優しく撫でてくれるみちる。
「ん、サンキュ。それで卓球部に入るってホントか?」
「ホントだけど、今日はもう帰ろ。安静にしてなきゃだよ」
みちるの発する言葉が頭に響く感じもするし、お言葉に甘えておこう。しかし、みちるが卓球部かあ。気になることはいくつかあるけど、1番に浮かぶ感情は楽しみだった。
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