第二回 魔女の飛行薬

① 藤原家・一階座敷A(夜)

   食卓の中央に並んでいる、大盛りの酢

   豚と大盛りの餃子の皿。と、餃子をひ

   とつ取り上げる箸(敦之)。

   ワイシャツにネクタイを外した敦之。

   じっと箸の餃子を見て、

敦之「(神妙な顔で)……この臭いじゃない

 な……」

   畳の本間六畳に大きな円卓。上座から

   時計回りに、将之、うしお信之ただゆき仁之さねゆき

   和之、敦之が座っている。美味しそう

   な夕飯を食べている一同。しかし皆、

   一様に神妙な顔。敦之と和之、将之は

   ネクタイを外したワイシャツ姿。それ

   以外は初夏の私服。潮、エプロン姿。

潮 「いろいろ考えたんだけどね」

信之「中華が一番よろしいかと……」

   取り皿に酢豚を取っている和之、

和之「酢豚でもねェ。なんかこう……」

   眼鏡を外した和之。ぎゅっと目を閉じ

   て、左手に眼鏡、右手(指)で眉間を

   摘まんで、

和之「目にくるっていう……」

仁之「陽生あきみだよ」

敦之「(仁之に)陽生?」

   和之、眼鏡をかけ乍ら、

和之「(仁之に)狼──いや、カイラーサの

 魔女が、神社でなんかしでかしたのか?」

   黙って箸を進めている将之、潮、信之。

   愕然とした顔で(仁之を)見ている敦

   之と和之。敦之の箸からボタッと餃子

   が落ちて、


② 同・表(夜)

   ──仰角で。

   温かな門灯に照らされてる表札『藤原』。

   簡素な生垣の中に、座敷Aの灯りが見

   えている。

敦之・和之の声「(大仰に驚いて)飛行薬ー

 ッ!?」

──────────────────────

   屋根の上に春の夜空。すっと一筋の流

   れ星。


③ 藤之宮神社・境内(回想・夕)

   T『さかのぼる事、その日の夕方』

慶之やすゆきのN「さかのぼる事、その日の夕方」

   ──やや仰角で。

   拝殿下手側。立派な藤の木に花房。

   SE、夕拝の太鼓の音。


④ 同・廊下(回想・夕)

   歩いて来る仁之。白衣びゃくえあさ色のさし

   姿。

仁之「(気づいて)?」


⑤ 同・境内(回想・夕)

   Fr.inする仁之。立ち止まって、辺りを

   伺う。


⑥ 同・鎮守の森(回想・夕)

   Fr.inする仁之(後ろ姿)。立ち止まっ

   て、辺りを伺う。と、再び歩き出す。

   その足元、掃除されて綺麗な石畳。

    ×    ×    ×

   木々の間から現れる仁之。

   仁之、「うっ」と眉をひそめて、手の甲

   で鼻を覆う。

    ×    ×    ×

   手の甲で鼻を覆ったままの仁之。駆け

   ては立ち止まって、辺りを伺う。見え

   る空き家A。

    ×    ×    ×

   空き家Bの前に仁之Fr.in。立ち止まっ

   て、手の甲で鼻を覆ったまま辺りを伺

   う。と、気づいて見る。その方向をキ

   ッと睨んで、駆け出してFr.out。


⑦ 空き家C・台所(回想・夕)

   バッと勢いよく勝手口を開ける仁之。

   怪しく振り返る獣の影(陽生)。

──────────────────────

陽生「(野太い声で平然と仁之に)よォ」

   調理台の前に立っている陽生。大きな

   狼姿。エプロンをつけ、カセットコン

   ロにかけた鉄鍋をサンザシの枝でかき

   混ぜている(この回、最後まで狼姿)。

   仁之、鼻を摘まんで、

仁之「(涙目で)『よォ』じゃねーだろッ!」


⑧ 藤之宮神社・境内(回想・夕)

   夕闇の迫る境内。点いている常夜灯。

慶之の声「まー、お前の友達じゃからな」


⑨ 同・座敷B(回想・夕)

   向かい合って座っている慶之と仁之。

   慶之、白衣に紫色の差袴姿。仁之、腕

   を組んで目をつぶっている。

仁之「狼を友達に持った覚えはねーよ」

慶之「拓にも頼まれておるでな」

   沢田の挿入映像(吹き出し型)がC.I。

   沢田に矢印、T『カイラーサ店長 

   沢田 拓』。

慶之「それに」

   と、鼻を摘まんで、

慶之「こんな臭い、いしこうで漂わせたら、

 地域にも観光客にも迷惑じゃろう」

   仁之、ぎゅっと目を瞑り、眉間を摘ま

   んで、

仁之「だったら先に言えよな、先にッ」

慶之「(鼻を摘まんだまま)ゥたら、お前、

 賛成せんじゃろう」

仁之「(目を開けて)賛成すると思うのかよ」

慶之「(鼻を摘まんだまま)じゃろ? まー、

 陽生も今は、あの姿じゃからな。うちくら

 いしか頼るところもあるまいて」

   挿入映像(吹き出し型)C.I。狼の陽生。

慶之「ま、使ゥておらん家もたんとあるでな」

仁之「(小さく舌打ちして)ったく……(と、

 再び目を瞑って眉間を押さえて)にしても」


⑩ 同・境内(回想・夕)

─────────────────────

   夕闇が深まっている。点いている常夜

   灯。

仁之の声「目にくるな……この臭い……」


⑪ 藤原家・二階ベランダ(夜→朝)

   真っ暗な鎮守の森。その中にポッカリ

   と点っている小さな灯。T.Bして、ベ

   ランダの手摺に寄りかかって、鎮守の

   森を見ている敦之と和之。共に後ろ姿。

敦之「(仁之に)陽生、飯どうしてるんだ」

   敦之の隣に仁之。手摺に背中を預けた

   まま、

仁之「(敦之に)あ? あァ、(と夜空を見

 上げて)自分で用意してた」

仁之の声「明日っからは、陸兄りくにいとシーターが

 差し入れに来るンだとよ」

   鎮守の森を見ていた敦之と和之、

敦之・和之「(ギョッと仁之を見て)!?」

敦之「(仁之に)明日……?」

   和之、敦之越しに身を乗り出して、

和之「(仁之に)明日から……って」

   夜空を仰いでいる仁之。目を閉じて眉

   間を指で摘まんでいる。


⑫ 藤之宮神社・鎮守の森(夜)

   真っ暗な鎮守の森。その中に、ポッカ

   リと点っている小さな灯。さっとP.U

   して、

敦之・和之の声「(絶叫して)なんだってーッ

 !?」

   初夏の夜空。そのまま明けて明朝。


⑬ 同・西参道下

   立てかけられいる看板『藤之宮神社 

   う回路』。その前をさっと横切る、雅

   美、千歳、明日香、陸の姿。


⑭ 同・境内

   ──やや仰角で。

   本殿下手側。立派な藤の木に花房。 

──────────────────────

   T『一日目 土曜日』

雅美・千歳・明日香の声「こんにちはー」


⑮ 同・社務所の前

   社務所から顔を出している和之。白衣

   に浅葱色の差袴姿。

和之「(爽やかに微笑んで)いらっしゃい」

   社務所の前に並んでいる雅美、千歳、

   明日香。その後ろに陸。手に奉納酒

   (一升瓶二本)。皆、初夏の装い。

陸 「(ぎくしゃくして)あ~、宮司さん、

 いるかな?」

和之「(爽やかに)いるよ。あがって」

   外にいる雅美、千歳、明日香。社務

   所の窓際に座っている仁之に、

雅美「ねー、あきねえ、どこにおるん?」

仁之「あ? 鎮守の森だよ」

明日香「鎮守の森……って」

仁之「空き使ってる」


⑯ 同・社務所の玄関

千歳の声「なるほど。よく考えましたね」

陸 「(遠慮がちに)おじゃましま~す」

   と、上り口に上がる。と、

   陸(後ろ姿)の眼前に和之。眼鏡のレ

   ンズがギラッと光って、

和之「(真顔で重く)陽生の事で話がある」

   ぞくっと背筋を伸ばす陸(後ろ姿)。


⑰ 同・鎮守の森

   ──仰角で。

   歩く様に、木漏れ日の中をPUN。鳥の

   囀りが聞こえている。

陸の声「いや~……助かった」


⑱ 同・社務所の玄関(回想)

陸 「(OFF)じーちゃんが来てくれなかっ

 たら」

   陸、慶之に奉納酒(一升瓶二本)を渡

   す。と、深々と頭を下げる。その傍、

──────────────────────

   腕組みをして立っている和之。小さく

   舌打ち。

   

⑲ 同・鎮守の森

陸 「(泣いて)俺、間違いなく吊るされて

 た」

   イメージBG、俯瞰で。ぐるぐる巻きに

   縛られて天井から吊るされている陸と、

   力強く縄を引っ張って、陸を吊し上げ

   ている和之。ギラッと光っている和之

   の眼鏡。泣いている陸。後方に大きく、

   T『俺が一体何をしたーッ!』

   イメージBGの手前に雅美、千歳、明日

   香、陸。皆、横を向いて歩いている。

雅美「(笑って)和兄かずにい、女たらしの上に男に

 は情け容赦無いからなァ。危ない、危ない」

千歳「(眼鏡を押し上げて)思った通り、バ

 リ◯◯。間違いないわね」

   セリフの◯印に自主規制音。

明日香「(きょとんとして千歳に)え? 何

 ? 聞こえなかった」

   雅美と千歳の後ろに明日香と陸。四人、

   掃除されて綺麗な石畳をゆっくりと歩

   いて来る。

   見上げている明日香。

   ──仰角で。

   歩く様に、木漏れ日の中をPUN。鳥の

   囀りが聞こえている。

明日香の声「(懐かしそうに)……変わらな

 いね」

    ×    ×    ×

   雅美達の横を走って行く半透明の雅美、

   千歳、明日香。全員五歳(思い出の姿)。

   「だーるまさんが、こーろんだ!」と

   振り返る雅美(五歳)。

雅美「(OFF・懐かしそうに)ホンマ」

   ぴたっと止まる千歳と明日香(共に五

   歳)。その中に、真之(八歳)、信之

   (十歳)、仁之(十一歳)の姿。雅美、

   仁之を指して「あー、動いたー」。仁

──────────────────────

   之「動いてねーだろッ!」。笑い声。

千歳「(OFF)でも」

   鼻を摘まんでいる千歳、

千歳「この臭いは無かったわね」

   鼻を摘まんでいる雅美、

雅美「(涙目で)何やねん! 人のエェ思い

 出を台無しにするこの臭いはッ!」

   明日香、両手を目に当ててぐしぐしと

   泣き乍ら、

明日香「目に沁みるの~」

   「うっ」と掌で口を押えている陸。


⑳ 空き家C・台所

   怪しげな色の煙が充満している。勝手

   口の磨りガラス窓の外、躊躇ためらい乍ら近

   づいて来る人影(陸)。

   恐る恐る勝手口が開いて行く。と、

陸 「(覗く様に)陽生、いる」


㉑ 同・裏

   陸、飛び退いて、

陸 「(掌で口を押えて)なんだァ!! この

 臭い!」

   勝手口から噴き出ている、大量の怪し

   げな色の煙。

   同時に、悲鳴を上げて飛び退く雅美達。


㉒ 同・台所

陽生「(勝手口に)あ、陸。来たの?」

   調理台の前に立っている陽生。怪しげ

   な煙の中、カセットコンロにかけた鉄

   鍋を、サンザシの枝でかき混ぜている。

   勝手口で腰が引けている陸、

陸 「何やってんだ! 一体ッ!!」

   ぐつぐつと煮込まれている鉄鍋の中を、

   サンザシの枝がかき混ぜていく。

明日香の声「空を飛ぶ薬……ですか?」

   遠くから覗き込んでいる雅美、千歳、

   明日香。三人、興味津々しんしんの顔。T.Bし

   て手前に陽生。鉄鍋をかき混ぜながら、

──────────────────────

陽生「伝統的な魔女の軟膏だよ」

   陸、陽生の隣から鉄鍋を覗き込んで、

陸 「(いぶかし気に)飛行薬って、塗り薬なの

 か」

陽生「貼るタイプは無い。(陸に)陸だって、

 空、飛びたいっしょ?」

陸 「あ? 俺、幽体離脱で飛べるから」

   陸に矢印、T『これでも念術師』。

雅美・千歳・明日香「(驚いて)えッ!? 幽

 体離脱ッ!?」

   雅美達、陽生と陸を背にして額を突き

   合わせて、

雅美「(訝し気に)幽体離脱って、そんなに

 簡単にできるモンなん?」

千歳「(眼鏡を押し上げて)さァ……経験な

 いから」

明日香「(わくわくして)あたし、飛んでみ

 たいなァ」

   ぐつぐつと煮込まれている鉄鍋の中を、

   サンザシの枝がかき混ぜて行く。

   陸と雅美の挿入映像(吹き出し型)が

   それぞれC.I、

陸 「それにしてもエグい見てくれだな~」

雅美「これが、呪われし沼の色ってヤツ?」

陸 「内容は何だ?」


㉓ タイトル画面

   T『伝統的 魔女の飛行薬』

   雅美、千歳、明日香、元気よく、

雅美・千歳・明日香「(OFF)伝統的! 魔

 女の飛行薬の作り方!」


㉔ 空き家C・台所

   雅美、フィリップボードを伏せたまま、

雅美「(躊躇とまどって)え~……コレって、やっ

 てええ事?」

千歳「(ひらめいて)あ! これならええと思う

 わ!」

   以下、フィリップボードの内容。

   『・クマツヅラ

──────────────────────

    ・キョウチクトウ

    ・◯◯◯◯◯◯◯◯◯

    ・ベラドンナ

    ・◯◯◯

    ・◯◯◯の◯

    ・馬の◯◯

    ・ガマガエルの脂肪

    ・埋葬された棺桶に溜まった水

    ・乳香』

明日香の声「クマツヅラ、キョウチクトウ、

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯、ベラドンナ、◯◯◯。

 (驚いて)◯◯◯!? ◯◯◯の◯。えッ!?

 馬……馬の、◯◯!? (息を整えて落ちつ

 いて)……ガマガエルの脂肪。埋葬された、

 埋葬!? 棺桶!? に、溜まった!? 水!?」

   セリフの◯印に自主規制音。

   胸に手を当てて、はーはーと息をして

   どきどきしている明日香。青褪めた顔。

   その後ろでフィリップボードを持って

   いる雅美を挟んで千歳と陸。千歳と陸、

   フィリップボードを見ている。

千歳「(フィリップボードを指して)と、乳

 香」

   鉄鍋をかき混ぜている陽生(後ろ姿)

   の手前に雅美達。千歳、胸を張って、

千歳「(眼鏡を押し上げて)一部の材料と分

 量を伏せておけば、問題無いでしょ」

雅美「(渋い顔で千歳に)そーゆーモン?」

陸 「(陽生に)てゆーかッ! こんな材料、

 どーやって入手したんだよッ!」

陽生「(振り返らずにしれっと)個人輸入」

千歳「(陽生に)あ! そうなんですか!」


㉕ 厩舎きゅうしゃ・表(夜)

   千歳の想像。

   暗い、寝静まった厩舎。空に月。

千歳「(OFF)私は」


㉖ 同・中(夜)

   千歳の想像。

──────────────────────

千歳「(OFF)てっきり……」

   小屋の中で眠っている雄の馬。

   馬、ふと気づいて、薄っすらと目を開

   ける。

   小屋の入口に陽生。大きな狼姿に田治

   見要蔵(『八つ墓村』)の三十二人殺

   しの容貌。ギラッと光る日本刀と怪し

   く光っている両目。鬼の角の様に頭に

   つけた二本の懐中電灯が、不気味に天

   を照らしている。

馬 「(陽生に驚いて)ヒヒンッ!?」

   大きくT『おぉっと! これはオスの

   一大事!』。


㉗ 空き家C・台所

陽生「(千歳に)そんな訳ないだろッ!」

   台所の隅で団子になっている雅美、千

   歳、明日香をT.U。三人、ひそひそと、

千歳「やるよね」

雅美「あきねえやもん」

明日香「馬……馬の」

   陸、その手前にFr.in。少し水の入っ

   た一升瓶を持って、

陸 「まさか、棺桶の水まで通販で売ってる

 のか?」

陽生の声「いや」


㉘ 墓所(回想)

陽生「(OFF)墓穴はかあなからすくってきた」

   合祀墓の中に手を突っ込んで、水をすく

   っている狼姿の陽生。傍にバケツ。

陽生「おー、溜まっとる溜まっとる。やっぱ

 古いもんなー」


㉙ 空き家C・台所

   憤慨して頬に汗を流している陸、「な

   るほど」と眼鏡を押し上げている千歳、

   ぎょっとしている雅美。おろおろして

   いる明日香。その後ろにイメージBG、

   大きくT『ばちあたりっ!!』。さっと

──────────────────────

   T.Bして、手前に鉄鍋を混ぜている陽

   生。

陽生「(しれっと)私、仏教徒じゃないもー

 ん」

陸 「じゃ、つきっきりで煮込むわけだ」

陽生「(鉄鍋を見たまま)うん」

陸 「(腕組みをして)で、今晩も」


㉚ 藤之宮神社・拝殿の前

陸 「(OFF)帰らない……と」

陽生「(OFF)うん」

   ──やや仰角で。

   拝殿下手側、立派な藤の木に花房。


㉛ 同・庭

   初夏の日差しが射し込んでいる庭の先、

   窓の中に座敷Bが見えている。平机に

   並んで座っている将之と敦之。共に白

   衣、浅葱色の差袴姿。


㉜ 同・座敷B

   机上。二人並んで、それぞれ筆で古い

   巻子本を書写している将之と敦之の手

   元。P.Uして二人の横顔。将之、書き

   乍ら、

将之「(静かに)……一週間……か」

敦之「(静かに)はい……」


㉝ 同・台所

   静かにお茶を飲んでいる慶之(口元)。

   板間の中央に大きなテーブル。椅子に

   座って、静かにお茶を飲んでいる神職

   姿の慶之と略礼装の信之、エプロン姿

   の潮。真顔の三人。

慶之「(念を押す様に)一週間じゃ」

潮・信之「はい……」


㉞ 同・社務所の中

   窓際に座っている仁之(横顔)。そろ

   ばんを弾き乍ら、

──────────────────────

仁之「(諦め口調で)一週間、一晩中煮込む

 ンだとよ。(F.Oし乍ら)第一、父さんも

 敦兄あつにい和兄かずにいも、今日明日ぐれェだろ? ジ

 ジイや俺、信之ただゆきは木曜までの四六時中だっ

 つーの……」

   さっと仁之をT.Bして、手前に和之。

   姿勢良く真正面を向いている。ギラッ

   と光っている眼鏡で目元は見えないが、

   真剣な顔。

和之のM「一週間! 一晩中煮込む!」

   ──和之をPUNから仰角のUPで。

和之のM「俺達は一週間! この臭いと共に、

(強く)一週間!」


㉟ 空き家C・台所

   陽生、鉄鍋をかき混ぜ乍ら、

陽生「む゛ー、コゲつくな~」

陸 「じゃ、仕方ないな。(振り返って)四

 人で行くか」

陽生「(陸を見て)?」

   陸、意地悪くにやっとして、

陸 「(陽生に)みんなで昼飯でも食べに行こう

 かと思ったんだけど、そーか、陽生は無理

 だな」

   真っ白になっている陽生。頬に伝う汗。

   イメージBG、真っ黒な画面に大きく白

   いタイトルで、T『え゛』。


㊱ 同・裏

陸 「(にこにこして)さー、行こ行こ」

   と、勝手口から出て来る。陸の前に明

   日香。嬉しそうに、

明日香「(陸に)何でもいーんですかー?」

陽生「(勝手口に)ちょっ……ちょっと!」


㊲ 同・台所

陸の声「(明日香に)どこでもいいぞぉ~。

 この格好で入れる店なら~」

   勝手口の外に千歳と雅美。二人、中に

   手を振って、

──────────────────────

千歳「お昼ご飯は買ってきますから。ご心配

 なく」

雅美「(あっさりと)頑張ってな~」

陽生「(勝手口に)待てっ!」


㊳ 藤之宮神社・鎮守の森

         (昼→夜→昼→夜→朝)

   ──俯瞰で。

   鎮守の森の一画から、怪しげな色の煙

   が立ち昇っている。陸と雅美達の楽し

   そうな笑い声。P.Uして、

陽生の声「おーいッ! 待てっつーにッ!」

   春の青空。暮れて夜。明けて、

   T『二日目 日曜日』

   依然として立ち昇っている煙。

シーターの声「陽生ー。差し入れ持って」

   シーターの絶叫。春の青空。暮れて夜。

   明けて、

   T『三日目 月曜日』

   依然として立ち昇っている煙。


㊴ 藤原家・表(朝)

   玄関から出て来る将之、敦之、和之。

   皆、スーツ姿。

将之・敦之・和之「(口々に)いってきます」

潮の声「いってらっしゃーい」

敦之「あと何日だって?」

和之「(うんざりして)……三日」

   西参道を歩いて行く三人の後ろ姿。

敦之「遠い……三日だな……」

和之「俺は二十六年の人生で、三日後をこん

 なに心待ちにした事はねェ」


㊵ 藤之宮神社・鎮守の森

       (昼→夜→昼→夜→昼→夜)

   ──仰角で。

   立ち昇る煙が次第に細くなって、暮れ

   て夜。明けて、

   T『四日目 火曜日』

   細くなっている煙。

──────────────────────

沢田の声「おーす、生きてるかー?」

   思いっきり咳き込む沢田。暮れて夜。

   明けて、

   T『五日目 水曜日』

   かなり細くなっている煙。暮れて夜。


㊶ 藤原家・二階ベランダ(夜→昼→夜)

   真っ暗な鎮守の森。その中に、ポッカ

   リと点っている小さな灯。T.Bして、

   ベランダの手摺に寄りかかって、鎮守

   の森を見ている敦之と和之。共に後ろ

   姿。

和之「意外に慣れたな。この臭い」

敦之「……慣れとは……恐ろしいな」

   真っ暗な鎮守の森。その中に、ポッカ

   リと点っている小さな灯。明けて、

   T『六日目 木曜日』

   見えている鎮守の森。ほとんどなくな

   っている煙。暮れて夜。

和之の声「(絶叫して)何ィッ!?」

   SE、壁を思いっきり叩く音。


㊷ 藤原家・一階座敷A(夜)

   私服の仁之を壁に追い詰めて、迫って

   いる和之と敦之。二人、共にスーツ姿。

敦之「明日の夕方までだと!?」

仁之「俺だって、今日だと思ったよッ!」

   ワイシャツ姿の将之。腕時計を外し乍

   ら、

将之「(淡々と)……丸七日……という事は」


㊸ 同・表(夜→朝)

将之の声「そうなるな……」

   ──仰角で。

   温かな門灯に照らされてる表札『藤原』。

   簡素な生垣の中に、座敷Aの灯りが見

   えている。明けて、

   T『七日目 金曜日』


㊹ 同・玄関(朝)

──────────────────────

   神職姿の仁之の眼前にスーツ姿の和之。

   和之、眼鏡がギラッと光って、

和之「(真顔で重く)帰って来た時には、終

 わってンだろうな。ん?」

仁之「終わってる。(小さく)はず」


㊺ 藤之宮神社・鎮守の森(夕)

   ──仰角で。

   夕闇が迫っている鎮守の森。

仁之の声「(愕然と)あと一ヶ月ゥッ!?」

    ×    ×    ×

   陽生、木の根元に瓶を埋め乍ら、

陽生「ああ。一ヶ月後に掘り出す」

   神職姿の仁之、腕を組んで陽生を見下

   ろしている。

仁之「じゃあ、終わったのは、終わったのか」

陽生「そうだ」

   と、瓶を埋め終わる。

   イメージBG(構図、シーン⑲同様)、

   俯瞰で。ぐるぐる巻きに縛られて天井

   から吊るされている仁之と、力強く縄

   を引っ張って、仁之を吊し上げている

   和之。ギラッと光っている和之の眼鏡。

   泣いている仁之。後方に大きくT、

   T『俺のせいじゃねーだろーッ!』

   イメージBGの手前、掌を払いながら立

   ち上がる陽生と仁之の後ろ姿。

仁之のM「(ほっとして)危うく吊るされる

 ところだったぜ……(小さく)危ねェ、危

 ねェ」

陽生「(仁之に)片づけがあるから、今夜も

 泊まるぞ」

仁之「好きにしろ」

   と、踵を返して、

仁之「後で晩飯、持ってきてやる」

陽生「え」

仁之「まともなモン、食ってねェだろ」

   と、歩いて行く。と、

陽生の声「ありがとう」

   立ち止まって、振り向いている仁之。

──────────────────────

陽生「いろいろ、助かった」

   仁之、そっと微笑んで、

   ――俯瞰で。

   歩いて行く仁之と、その後ろに続く陽

   生。

仁之「狼──いや、魔女の友達も悪かねェよ」

陽生「(頭を掻いて)はあ?」


㊻ 藤之宮神社・境内(夕→夜→朝)

   夕闇が深まっている。点いている常夜

   灯。暮れて夜。明けて、

   SE、朝拝の太鼓の音。


㊼ 同・座敷C

   深々と頭を下げる陽生。

   縁側の外、穏やかな春の庭が見えてい

   る。その手前、向かい合って座ってい

   る神職姿の慶之と頭を下げている陽生。

慶之「(にこにこして)上手くできとると良

 いの」

陽生「(頭を下げたまま)はい。ありがとう

 ございました」


㊽ 同・境内

   西参道を歩いて行く陽生。肩に大きな

   鞄をかけて、手に鉄鍋を下げている。

   腕組みをして見送っている仁之(横顔)。

   T.Bする。と、仁之の手前に慶之(横

   顔)。暫し(陽生を)見送っている二

   人。

慶之「(思い出した様に)ところで仁之さねゆきよ」

仁之「(前を見たまま)ん?」

慶之「(前を見たまま)ワシは調伏じょうぶくはせんの

 じゃがな」

   T『調伏じょうぶく(魔物を降伏ごうぶくする事)』

慶之「ここ数日、おやしろつくがみが集うておる。

 知っておったか」

   と、境内を向いている慶之と仁之をさ

   っとT.Bする。と、境内のあちこちに

   付喪神(参考『百鬼夜行絵巻』)の姿。

──────────────────────

   眉を顰めてぎゅっと目を瞑っている仁

   之。片手を腰、反対側の掌を首筋に当

   てて、

仁之「あ~、おんなじモンかどうか判ンねェけど」


㊾ 付喪神のいる風景

仁之「(OFF)うちの連中、みんな、見えてると

 思うぜ」

   藤原家・二階ベランダ。――やや俯瞰

   で。布団が干されている手摺。物干し

   いっぱいに干された男物の洗濯物。そ

   の中に、一緒に干されている付喪神達。

   洗濯物を干している潮をT.Bする。と、

   屋根の上、日向ぼっこをしてゴロゴロ

   している付喪神達。

    ×    ×    ×

   藤之宮神社・座敷C。略礼装で薄茶点

   前の信之。姿勢良く座って、両手で抹

   茶茶碗を持っている。その傍に付喪神

   達。茶を点てて、互いをもてなしてい

   る。

    ×    ×    ×

   電車・車内。吊り革を持って、立って

   いるスーツ姿の敦之。吊り革でブラン

   コをしたり、網棚に寝そべったり、車

   内を駆けて行く付喪神達。

    ×    ×    ×

   オフィスA。パソコンに向かっている

   スーツ姿の和之。そのモニター画面を

   覗き込んでいる付喪神達。T.Bして、

   オフィスA全景。コピー機に挟まって

   いる付喪神Aとコピーを取っている付

   喪神B。シュレッダーに巻き込まれて

   いる付喪神Cを助けようと引っ張って

   いる付喪神D、E。電話を取っている

   付喪神Fなど、付喪神だらけのオフィ

   ス内。

    ×    ×    ×

   オフィスB。一人席の机。書類を書い

   ているスーツ姿の将之。ペンを置いて、

──────────────────────

   印鑑を押す。と、気づく将之。机の脇

   から差し出されている盆。その上に湯

   呑み。

将之「ありがとうございます」

   と、湯呑みを受け取る。机の陰、机と

   同じ身長の付喪神G。


㊿ タイトル画面

   SE、『ピンポーン』と呼び出しチャイ

     ムの音。

   T『魔女の飛行薬には、幻覚を引き起

    こす材料が含まれております』

   前述のTより小さなポイントで。   

   T『ご利用は計画的に』

   フレームの下手隅に明日香、上手側に

   雅美と千歳。明日香、頬を伝う汗。カ

   メラ目線でTに掌を向けて、

明日香「(苦笑して)魔女の飛行薬には、幻

 覚を引き起こす材料が含まれています」

雅美「(明日香に)アカンやんッ! ソレッ

 !」

千歳「(眼鏡を押し上げて納得し乍ら)あァ、

 そういう事! 実際に空を飛ぶンやなくて、

 精神的に飛ぶ……という事なンか」


51)藤之宮神社・拝殿の前

   ──やや仰角で。

   拝殿下手側、立派な藤の木に花房。


52)同・庭

   初夏の日差しが射し込んでいる庭の先、

   窓の中に座敷Bが見えている。平机に

   座っている将之。白衣、浅葱色の差袴

   姿。


53)同・座敷B

   筆を置く将之(手元)。

   将之、ふと気づく。

   将之の傍に付喪神G。盆の上に湯呑み

   を乗せて、お茶を差し出している。

──────────────────────

将之「ありがとうございます」

   と、湯呑みを受け取る(後ろ姿)。

和之の声「陽生ィッ!」


54)カイラーサ・中

   入口に和之と敦之。共に神職姿。二人

   に大量の付喪神がまとわりついている。

   うんざり顔の敦之。和之、片手で摘ま

   み上げている付喪神Aを突きつけて、

和之「こいつ等、なんとかしやがれッ!」

   カウンターの中に陽生。頬杖をついた

   まま和之を指して、

陽生「さすが和兄かずにい。付喪神にもモテモテだな」

   さっとT.Bして、手前にシーターと陸。

   陸、入口を見ている。

シーター「(おろおろして陸に)これって、

 飛行薬の、幻覚?」

陸 「(ぞっとして)俺もしっかり見えてん

 だよなァッ!」

   「ばあッ!」と一斉にフレームの外か

   ら顔を出して、画面いっぱいになる付

   喪神達。



        第二回『魔女の飛行薬』終

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