第二回 魔女の飛行薬
① 藤原家・一階座敷A(夜)
食卓の中央に並んでいる、大盛りの酢
豚と大盛りの餃子の皿。と、餃子をひ
とつ取り上げる箸(敦之)。
ワイシャツにネクタイを外した敦之。
じっと箸の餃子を見て、
敦之「(神妙な顔で)……この臭いじゃない
な……」
畳の本間六畳に大きな円卓。上座から
時計回りに、将之、
和之、敦之が座っている。美味しそう
な夕飯を食べている一同。しかし皆、
一様に神妙な顔。敦之と和之、将之は
ネクタイを外したワイシャツ姿。それ
以外は初夏の私服。潮、エプロン姿。
潮 「いろいろ考えたんだけどね」
信之「中華が一番よろしいかと……」
取り皿に酢豚を取っている和之、
和之「酢豚でもねェ。なんかこう……」
眼鏡を外した和之。ぎゅっと目を閉じ
て、左手に眼鏡、右手(指)で眉間を
摘まんで、
和之「目にくるっていう……」
仁之「
敦之「(仁之に)陽生?」
和之、眼鏡をかけ乍ら、
和之「(仁之に)狼──いや、カイラーサの
魔女が、神社で
黙って箸を進めている将之、潮、信之。
愕然とした顔で(仁之を)見ている敦
之と和之。敦之の箸からボタッと餃子
が落ちて、
② 同・表(夜)
──仰角で。
温かな門灯に照らされてる表札『藤原』。
簡素な生垣の中に、座敷Aの灯りが見
えている。
敦之・和之の声「(大仰に驚いて)飛行薬ー
ッ!?」
──────────────────────
屋根の上に春の夜空。すっと一筋の流
れ星。
③ 藤之宮神社・境内(回想・夕)
T『さかのぼる事、その日の夕方』
──やや仰角で。
拝殿下手側。立派な藤の木に花房。
SE、夕拝の太鼓の音。
④ 同・廊下(回想・夕)
歩いて来る仁之。
姿。
仁之「(気づいて)?」
⑤ 同・境内(回想・夕)
Fr.inする仁之。立ち止まって、辺りを
伺う。
⑥ 同・鎮守の森(回想・夕)
Fr.inする仁之(後ろ姿)。立ち止まっ
て、辺りを伺う。と、再び歩き出す。
その足元、掃除されて綺麗な石畳。
× × ×
木々の間から現れる仁之。
仁之、「うっ」と眉を
で鼻を覆う。
× × ×
手の甲で鼻を覆ったままの仁之。駆け
ては立ち止まって、辺りを伺う。見え
る空き家A。
× × ×
空き家Bの前に仁之Fr.in。立ち止まっ
て、手の甲で鼻を覆ったまま辺りを伺
う。と、気づいて見る。その方向をキ
ッと睨んで、駆け出してFr.out。
⑦ 空き家C・台所(回想・夕)
バッと勢いよく勝手口を開ける仁之。
怪しく振り返る獣の影(陽生)。
──────────────────────
陽生「(野太い声で平然と仁之に)よォ」
調理台の前に立っている陽生。大きな
狼姿。エプロンをつけ、カセットコン
ロにかけた鉄鍋をサンザシの枝でかき
混ぜている(この回、最後まで狼姿)。
仁之、鼻を摘まんで、
仁之「(涙目で)『よォ』じゃねーだろッ!」
⑧ 藤之宮神社・境内(回想・夕)
夕闇の迫る境内。点いている常夜灯。
慶之の声「まー、お前の友達じゃからな」
⑨ 同・座敷B(回想・夕)
向かい合って座っている慶之と仁之。
慶之、白衣に紫色の差袴姿。仁之、腕
を組んで目を
仁之「狼を友達に持った覚えはねーよ」
慶之「拓にも頼まれておるでな」
沢田の挿入映像(吹き出し型)がC.I。
沢田に矢印、T『カイラーサ店長
沢田 拓』。
慶之「それに」
と、鼻を摘まんで、
慶之「こんな臭い、
地域にも観光客にも迷惑じゃろう」
仁之、ぎゅっと目を瞑り、眉間を摘ま
んで、
仁之「だったら先に言えよな、先にッ」
慶之「(鼻を摘まんだまま)
賛成せんじゃろう」
仁之「(目を開けて)賛成すると思うのかよ」
慶之「(鼻を摘まんだまま)じゃろ? まー、
陽生も今は、あの姿じゃからな。うちくら
いしか頼るところもあるまいて」
挿入映像(吹き出し型)C.I。狼の陽生。
慶之「ま、使ゥておらん家もたんとあるでな」
仁之「(小さく舌打ちして)ったく……(と、
再び目を瞑って眉間を押さえて)にしても」
⑩ 同・境内(回想・夕)
─────────────────────
夕闇が深まっている。点いている常夜
灯。
仁之の声「目にくるな……この臭い……」
⑪ 藤原家・二階ベランダ(夜→朝)
真っ暗な鎮守の森。その中にポッカリ
と点っている小さな灯。T.Bして、ベ
ランダの手摺に寄りかかって、鎮守の
森を見ている敦之と和之。共に後ろ姿。
敦之「(仁之に)陽生、飯どうしてるんだ」
敦之の隣に仁之。手摺に背中を預けた
まま、
仁之「(敦之に)あ? あァ、(と夜空を見
上げて)自分で用意してた」
仁之の声「明日っからは、
差し入れに来るンだとよ」
鎮守の森を見ていた敦之と和之、
敦之・和之「(ギョッと仁之を見て)!?」
敦之「(仁之に)明日……?」
和之、敦之越しに身を乗り出して、
和之「(仁之に)明日から……って」
夜空を仰いでいる仁之。目を閉じて眉
間を指で摘まんでいる。
⑫ 藤之宮神社・鎮守の森(夜)
真っ暗な鎮守の森。その中に、ポッカ
リと点っている小さな灯。さっとP.U
して、
敦之・和之の声「(絶叫して)
!?」
初夏の夜空。そのまま明けて明朝。
⑬ 同・西参道下
立てかけられいる看板『藤之宮神社
う回路』。その前をさっと横切る、雅
美、千歳、明日香、陸の姿。
⑭ 同・境内
──やや仰角で。
本殿下手側。立派な藤の木に花房。
──────────────────────
T『一日目 土曜日』
雅美・千歳・明日香の声「こんにちはー」
⑮ 同・社務所の前
社務所から顔を出している和之。白衣
に浅葱色の差袴姿。
和之「(爽やかに微笑んで)いらっしゃい」
社務所の前に並んでいる雅美、千歳、
明日香。その後ろに陸。手に奉納酒
(一升瓶二本)。皆、初夏の装い。
陸 「(ぎくしゃくして)あ~、宮司さん、
いるかな?」
和之「(爽やかに)いるよ。あがって」
外にいる雅美、千歳、明日香。社務
所の窓際に座っている仁之に、
雅美「ねー、
仁之「あ? 鎮守の森だよ」
明日香「鎮守の森……って」
仁之「空き
⑯ 同・社務所の玄関
千歳の声「なるほど。よく考えましたね」
陸 「(遠慮がちに)おじゃましま~す」
と、上り口に上がる。と、
陸(後ろ姿)の眼前に和之。眼鏡のレ
ンズがギラッと光って、
和之「(真顔で重く)陽生の事で話がある」
ぞくっと背筋を伸ばす陸(後ろ姿)。
⑰ 同・鎮守の森
──仰角で。
歩く様に、木漏れ日の中をPUN。鳥の
囀りが聞こえている。
陸の声「いや~……助かった」
⑱ 同・社務所の玄関(回想)
陸 「(OFF)じーちゃんが来てくれなかっ
たら」
陸、慶之に奉納酒(一升瓶二本)を渡
す。と、深々と頭を下げる。その傍、
──────────────────────
腕組みをして立っている和之。小さく
舌打ち。
⑲ 同・鎮守の森
陸 「(泣いて)俺、間違いなく吊るされて
た」
イメージBG、俯瞰で。ぐるぐる巻きに
縛られて天井から吊るされている陸と、
力強く縄を引っ張って、陸を吊し上げ
ている和之。ギラッと光っている和之
の眼鏡。泣いている陸。後方に大きく、
T『俺が一体何をしたーッ!』
イメージBGの手前に雅美、千歳、明日
香、陸。皆、横を向いて歩いている。
雅美「(笑って)
は情け容赦無いからなァ。危ない、危ない」
千歳「(眼鏡を押し上げて)思った通り、バ
リ◯◯。間違いないわね」
セリフの◯印に自主規制音。
明日香「(きょとんとして千歳に)え? 何
? 聞こえなかった」
雅美と千歳の後ろに明日香と陸。四人、
掃除されて綺麗な石畳をゆっくりと歩
いて来る。
見上げている明日香。
──仰角で。
歩く様に、木漏れ日の中をPUN。鳥の
囀りが聞こえている。
明日香の声「(懐かしそうに)……変わらな
いね」
× × ×
雅美達の横を走って行く半透明の雅美、
千歳、明日香。全員五歳(思い出の姿)。
「だーるまさんが、こーろんだ!」と
振り返る雅美(五歳)。
雅美「(OFF・懐かしそうに)ホンマ」
ぴたっと止まる千歳と明日香(共に五
歳)。その中に、真之(八歳)、信之
(十歳)、仁之(十一歳)の姿。雅美、
仁之を指して「あー、動いたー」。仁
──────────────────────
之「動いてねーだろッ!」。笑い声。
千歳「(OFF)でも」
鼻を摘まんでいる千歳、
千歳「この臭いは無かったわね」
鼻を摘まんでいる雅美、
雅美「(涙目で)何やねん! 人のエェ思い
出を台無しにするこの臭いはッ!」
明日香、両手を目に当ててぐしぐしと
泣き乍ら、
明日香「目に沁みるの~」
「うっ」と掌で口を押えている陸。
⑳ 空き家C・台所
怪しげな色の煙が充満している。勝手
口の磨りガラス窓の外、
づいて来る人影(陸)。
恐る恐る勝手口が開いて行く。と、
陸 「(覗く様に)陽生、いる」
㉑ 同・裏
陸、飛び退いて、
陸 「(掌で口を押えて)なんだァ!! この
臭い!」
勝手口から噴き出ている、大量の怪し
げな色の煙。
同時に、悲鳴を上げて飛び退く雅美達。
㉒ 同・台所
陽生「(勝手口に)あ、陸。来たの?」
調理台の前に立っている陽生。怪しげ
な煙の中、カセットコンロにかけた鉄
鍋を、サンザシの枝でかき混ぜている。
勝手口で腰が引けている陸、
陸 「何やってんだ! 一体ッ!!」
ぐつぐつと煮込まれている鉄鍋の中を、
サンザシの枝がかき混ぜていく。
明日香の声「空を飛ぶ薬……ですか?」
遠くから覗き込んでいる雅美、千歳、
明日香。三人、興味
て手前に陽生。鉄鍋をかき混ぜながら、
──────────────────────
陽生「伝統的な魔女の軟膏だよ」
陸、陽生の隣から鉄鍋を覗き込んで、
陸 「(
か」
陽生「貼るタイプは無い。(陸に)陸だって、
空、飛びたいっしょ?」
陸 「あ? 俺、幽体離脱で飛べるから」
陸に矢印、T『これでも念術師』。
雅美・千歳・明日香「(驚いて)えッ!? 幽
体離脱ッ!?」
雅美達、陽生と陸を背にして額を突き
合わせて、
雅美「(訝し気に)幽体離脱って、そんなに
簡単にできるモンなん?」
千歳「(眼鏡を押し上げて)さァ……経験な
いから」
明日香「(わくわくして)あたし、飛んでみ
たいなァ」
ぐつぐつと煮込まれている鉄鍋の中を、
サンザシの枝がかき混ぜて行く。
陸と雅美の挿入映像(吹き出し型)が
それぞれC.I、
陸 「それにしてもエグい見てくれだな~」
雅美「これが、呪われし沼の色ってヤツ?」
陸 「内容は何だ?」
㉓ タイトル画面
T『伝統的 魔女の飛行薬』
雅美、千歳、明日香、元気よく、
雅美・千歳・明日香「(OFF)伝統的! 魔
女の飛行薬の作り方!」
㉔ 空き家C・台所
雅美、フィリップボードを伏せたまま、
雅美「(
てええ事?」
千歳「(
わ!」
以下、フィリップボードの内容。
『・クマツヅラ
──────────────────────
・キョウチクトウ
・◯◯◯◯◯◯◯◯◯
・ベラドンナ
・◯◯◯
・◯◯◯の◯
・馬の◯◯
・ガマガエルの脂肪
・埋葬された棺桶に溜まった水
・乳香』
明日香の声「クマツヅラ、キョウチクトウ、
◯◯◯◯◯◯◯◯◯、ベラドンナ、◯◯◯。
(驚いて)◯◯◯!? ◯◯◯の◯。えッ!?
馬……馬の、◯◯!? (息を整えて落ちつ
いて)……ガマガエルの脂肪。埋葬された、
埋葬!? 棺桶!? に、溜まった!? 水!?」
セリフの◯印に自主規制音。
胸に手を当てて、はーはーと息をして
どきどきしている明日香。青褪めた顔。
その後ろでフィリップボードを持って
いる雅美を挟んで千歳と陸。千歳と陸、
フィリップボードを見ている。
千歳「(フィリップボードを指して)と、乳
香」
鉄鍋をかき混ぜている陽生(後ろ姿)
の手前に雅美達。千歳、胸を張って、
千歳「(眼鏡を押し上げて)一部の材料と分
量を伏せておけば、問題無いでしょ」
雅美「(渋い顔で千歳に)そーゆーモン?」
陸 「(陽生に)てゆーかッ! こんな材料、
どーやって入手したんだよッ!」
陽生「(振り返らずにしれっと)個人輸入」
千歳「(陽生に)あ! そうなんですか!」
㉕
千歳の想像。
暗い、寝静まった厩舎。空に月。
千歳「(OFF)私は」
㉖ 同・中(夜)
千歳の想像。
──────────────────────
千歳「(OFF)てっきり……」
小屋の中で眠っている雄の馬。
馬、ふと気づいて、薄っすらと目を開
ける。
小屋の入口に陽生。大きな狼姿に田治
見要蔵(『八つ墓村』)の三十二人殺
しの容貌。ギラッと光る日本刀と怪し
く光っている両目。鬼の角の様に頭に
つけた二本の懐中電灯が、不気味に天
を照らしている。
馬 「(陽生に驚いて)ヒヒンッ!?」
大きくT『おぉっと! これはオスの
一大事!』。
㉗ 空き家C・台所
陽生「(千歳に)そんな訳ないだろッ!」
台所の隅で団子になっている雅美、千
歳、明日香をT.U。三人、ひそひそと、
千歳「やるよね」
雅美「
明日香「馬……馬の」
陸、その手前にFr.in。少し水の入っ
た一升瓶を持って、
陸 「まさか、棺桶の水まで通販で売ってる
のか?」
陽生の声「いや」
㉘ 墓所(回想)
陽生「(OFF)
合祀墓の中に手を突っ込んで、水を
っている狼姿の陽生。傍にバケツ。
陽生「おー、溜まっとる溜まっとる。やっぱ
古いもんなー」
㉙ 空き家C・台所
憤慨して頬に汗を流している陸、「な
るほど」と眼鏡を押し上げている千歳、
ぎょっとしている雅美。おろおろして
いる明日香。その後ろにイメージBG、
大きくT『ばちあたりっ!!』。さっと
──────────────────────
T.Bして、手前に鉄鍋を混ぜている陽
生。
陽生「(しれっと)私、仏教徒じゃないもー
ん」
陸 「じゃ、つきっきりで煮込むわけだ」
陽生「(鉄鍋を見たまま)うん」
陸 「(腕組みをして)で、今晩も」
㉚ 藤之宮神社・拝殿の前
陸 「(OFF)帰らない……と」
陽生「(OFF)うん」
──やや仰角で。
拝殿下手側、立派な藤の木に花房。
㉛ 同・庭
初夏の日差しが射し込んでいる庭の先、
窓の中に座敷Bが見えている。平机に
並んで座っている将之と敦之。共に白
衣、浅葱色の差袴姿。
㉜ 同・座敷B
机上。二人並んで、それぞれ筆で古い
巻子本を書写している将之と敦之の手
元。P.Uして二人の横顔。将之、書き
乍ら、
将之「(静かに)……一週間……か」
敦之「(静かに)はい……」
㉝ 同・台所
静かにお茶を飲んでいる慶之(口元)。
板間の中央に大きなテーブル。椅子に
座って、静かにお茶を飲んでいる神職
姿の慶之と略礼装の信之、エプロン姿
の潮。真顔の三人。
慶之「(念を押す様に)一週間じゃ」
潮・信之「はい……」
㉞ 同・社務所の中
窓際に座っている仁之(横顔)。そろ
ばんを弾き乍ら、
──────────────────────
仁之「(諦め口調で)一週間、一晩中煮込む
ンだとよ。(F.Oし乍ら)第一、父さんも
ジイや俺、
つーの……」
さっと仁之をT.Bして、手前に和之。
姿勢良く真正面を向いている。ギラッ
と光っている眼鏡で目元は見えないが、
真剣な顔。
和之のM「一週間! 一晩中煮込む!」
──和之をPUNから仰角のUPで。
和之のM「俺達は一週間! この臭いと共に、
(強く)一週間!」
㉟ 空き家C・台所
陽生、鉄鍋をかき混ぜ乍ら、
陽生「む゛ー、コゲつくな~」
陸 「じゃ、仕方ないな。(振り返って)四
人で行くか」
陽生「(陸を見て)?」
陸、意地悪くにやっとして、
陸 「(陽生に)
かと思ったんだけど、そーか、陽生は無理
だな」
真っ白になっている陽生。頬に伝う汗。
イメージBG、真っ黒な画面に大きく白
いタイトルで、T『え゛』。
㊱ 同・裏
陸 「(にこにこして)さー、行こ行こ」
と、勝手口から出て来る。陸の前に明
日香。嬉しそうに、
明日香「(陸に)何でもいーんですかー?」
陽生「(勝手口に)ちょっ……ちょっと!」
㊲ 同・台所
陸の声「(明日香に)どこでもいいぞぉ~。
この格好で入れる店なら~」
勝手口の外に千歳と雅美。二人、中に
手を振って、
──────────────────────
千歳「お昼ご飯は買ってきますから。ご心配
なく」
雅美「(あっさりと)頑張ってな~」
陽生「(勝手口に)待てっ!」
㊳ 藤之宮神社・鎮守の森
(昼→夜→昼→夜→朝)
──俯瞰で。
鎮守の森の一画から、怪しげな色の煙
が立ち昇っている。陸と雅美達の楽し
そうな笑い声。P.Uして、
陽生の声「おーいッ! 待てっつーにッ!」
春の青空。暮れて夜。明けて、
T『二日目 日曜日』
依然として立ち昇っている煙。
シーターの声「陽生ー。差し入れ持って」
シーターの絶叫。春の青空。暮れて夜。
明けて、
T『三日目 月曜日』
依然として立ち昇っている煙。
㊴ 藤原家・表(朝)
玄関から出て来る将之、敦之、和之。
皆、スーツ姿。
将之・敦之・和之「(口々に)いってきます」
潮の声「いってらっしゃーい」
敦之「あと何日だって?」
和之「(うんざりして)……三日」
西参道を歩いて行く三人の後ろ姿。
敦之「遠い……三日だな……」
和之「俺は二十六年の人生で、三日後をこん
なに心待ちにした事はねェ」
㊵ 藤之宮神社・鎮守の森
(昼→夜→昼→夜→昼→夜)
──仰角で。
立ち昇る煙が次第に細くなって、暮れ
て夜。明けて、
T『四日目 火曜日』
細くなっている煙。
──────────────────────
沢田の声「おーす、生きてるかー?」
思いっきり咳き込む沢田。暮れて夜。
明けて、
T『五日目 水曜日』
かなり細くなっている煙。暮れて夜。
㊶ 藤原家・二階ベランダ(夜→昼→夜)
真っ暗な鎮守の森。その中に、ポッカ
リと点っている小さな灯。T.Bして、
ベランダの手摺に寄りかかって、鎮守
の森を見ている敦之と和之。共に後ろ
姿。
和之「意外に慣れたな。この臭い」
敦之「……慣れとは……恐ろしいな」
真っ暗な鎮守の森。その中に、ポッカ
リと点っている小さな灯。明けて、
T『六日目 木曜日』
見えている鎮守の森。ほとんどなくな
っている煙。暮れて夜。
和之の声「(絶叫して)何ィッ!?」
SE、壁を思いっきり叩く音。
㊷ 藤原家・一階座敷A(夜)
私服の仁之を壁に追い詰めて、迫って
いる和之と敦之。二人、共にスーツ姿。
敦之「明日の夕方までだと!?」
仁之「俺だって、今日だと思ったよッ!」
ワイシャツ姿の将之。腕時計を外し乍
ら、
将之「(淡々と)……丸七日……という事は」
㊸ 同・表(夜→朝)
将之の声「そうなるな……」
──仰角で。
温かな門灯に照らされてる表札『藤原』。
簡素な生垣の中に、座敷Aの灯りが見
えている。明けて、
T『七日目 金曜日』
㊹ 同・玄関(朝)
──────────────────────
神職姿の仁之の眼前にスーツ姿の和之。
和之、眼鏡がギラッと光って、
和之「(真顔で重く)帰って来た時には、終
わってンだろうな。ん?」
仁之「終わってる。(小さく)はず」
㊺ 藤之宮神社・鎮守の森(夕)
──仰角で。
夕闇が迫っている鎮守の森。
仁之の声「(愕然と)あと一ヶ月ゥッ!?」
× × ×
陽生、木の根元に瓶を埋め乍ら、
陽生「ああ。一ヶ月後に掘り出す」
神職姿の仁之、腕を組んで陽生を見下
ろしている。
仁之「じゃあ、終わったのは、終わったのか」
陽生「そうだ」
と、瓶を埋め終わる。
イメージBG(構図、シーン⑲同様)、
俯瞰で。ぐるぐる巻きに縛られて天井
から吊るされている仁之と、力強く縄
を引っ張って、仁之を吊し上げている
和之。ギラッと光っている和之の眼鏡。
泣いている仁之。後方に大きくT、
T『俺のせいじゃねーだろーッ!』
イメージBGの手前、掌を払いながら立
ち上がる陽生と仁之の後ろ姿。
仁之のM「(ほっとして)危うく吊るされる
ところだったぜ……(小さく)危ねェ、危
ねェ」
陽生「(仁之に)片づけがあるから、今夜も
泊まるぞ」
仁之「好きにしろ」
と、踵を返して、
仁之「後で晩飯、持ってきてやる」
陽生「え」
仁之「まともなモン、食ってねェだろ」
と、歩いて行く。と、
陽生の声「ありがとう」
立ち止まって、振り向いている仁之。
──────────────────────
陽生「いろいろ、助かった」
仁之、そっと微笑んで、
――俯瞰で。
歩いて行く仁之と、その後ろに続く陽
生。
仁之「狼──いや、魔女の友達も悪かねェよ」
陽生「(頭を掻いて)はあ?」
㊻ 藤之宮神社・境内(夕→夜→朝)
夕闇が深まっている。点いている常夜
灯。暮れて夜。明けて、
SE、朝拝の太鼓の音。
㊼ 同・座敷C
深々と頭を下げる陽生。
縁側の外、穏やかな春の庭が見えてい
る。その手前、向かい合って座ってい
る神職姿の慶之と頭を下げている陽生。
慶之「(にこにこして)上手くできとると良
いの」
陽生「(頭を下げたまま)はい。ありがとう
ございました」
㊽ 同・境内
西参道を歩いて行く陽生。肩に大きな
鞄をかけて、手に鉄鍋を下げている。
腕組みをして見送っている仁之(横顔)。
T.Bする。と、仁之の手前に慶之(横
顔)。暫し(陽生を)見送っている二
人。
慶之「(思い出した様に)ところで
仁之「(前を見たまま)ん?」
慶之「(前を見たまま)ワシは
じゃがな」
T『
慶之「ここ数日、お
知っておったか」
と、境内を向いている慶之と仁之をさ
っとT.Bする。と、境内のあちこちに
付喪神(参考『百鬼夜行絵巻』)の姿。
──────────────────────
眉を顰めてぎゅっと目を瞑っている仁
之。片手を腰、反対側の掌を首筋に当
てて、
仁之「あ~、
㊾ 付喪神のいる風景
仁之「(OFF)うちの連中、
思うぜ」
藤原家・二階ベランダ。――やや俯瞰
で。布団が干されている手摺。物干し
いっぱいに干された男物の洗濯物。そ
の中に、一緒に干されている付喪神達。
洗濯物を干している潮をT.Bする。と、
屋根の上、日向ぼっこをしてゴロゴロ
している付喪神達。
× × ×
藤之宮神社・座敷C。略礼装で薄茶点
前の信之。姿勢良く座って、両手で抹
茶茶碗を持っている。その傍に付喪神
達。茶を点てて、互いをもてなしてい
る。
× × ×
電車・車内。吊り革を持って、立って
いるスーツ姿の敦之。吊り革でブラン
コをしたり、網棚に寝そべったり、車
内を駆けて行く付喪神達。
× × ×
オフィスA。パソコンに向かっている
スーツ姿の和之。そのモニター画面を
覗き込んでいる付喪神達。T.Bして、
オフィスA全景。コピー機に挟まって
いる付喪神Aとコピーを取っている付
喪神B。シュレッダーに巻き込まれて
いる付喪神Cを助けようと引っ張って
いる付喪神D、E。電話を取っている
付喪神Fなど、付喪神だらけのオフィ
ス内。
× × ×
オフィスB。一人席の机。書類を書い
ているスーツ姿の将之。ペンを置いて、
──────────────────────
印鑑を押す。と、気づく将之。机の脇
から差し出されている盆。その上に湯
呑み。
将之「ありがとうございます」
と、湯呑みを受け取る。机の陰、机と
同じ身長の付喪神G。
㊿ タイトル画面
SE、『ピンポーン』と呼び出しチャイ
ムの音。
T『魔女の飛行薬には、幻覚を引き起
こす材料が含まれております』
前述のTより小さなポイントで。
T『ご利用は計画的に』
フレームの下手隅に明日香、上手側に
雅美と千歳。明日香、頬を伝う汗。カ
メラ目線でTに掌を向けて、
明日香「(苦笑して)魔女の飛行薬には、幻
覚を引き起こす材料が含まれています」
雅美「(明日香に)アカンやんッ! ソレッ
!」
千歳「(眼鏡を押し上げて納得し乍ら)あァ、
そういう事! 実際に空を飛ぶンやなくて、
精神的に飛ぶ……という事なンか」
51)藤之宮神社・拝殿の前
──やや仰角で。
拝殿下手側、立派な藤の木に花房。
52)同・庭
初夏の日差しが射し込んでいる庭の先、
窓の中に座敷Bが見えている。平机に
座っている将之。白衣、浅葱色の差袴
姿。
53)同・座敷B
筆を置く将之(手元)。
将之、ふと気づく。
将之の傍に付喪神G。盆の上に湯呑み
を乗せて、お茶を差し出している。
──────────────────────
将之「ありがとうございます」
と、湯呑みを受け取る(後ろ姿)。
和之の声「陽生ィッ!」
54)カイラーサ・中
入口に和之と敦之。共に神職姿。二人
に大量の付喪神がまとわりついている。
うんざり顔の敦之。和之、片手で摘ま
み上げている付喪神Aを突きつけて、
和之「こいつ等、なんとかしやがれッ!」
カウンターの中に陽生。頬杖をついた
まま和之を指して、
陽生「さすが
さっとT.Bして、手前にシーターと陸。
陸、入口を見ている。
シーター「(おろおろして陸に)これって、
飛行薬の、幻覚?」
陸 「(ぞっとして)俺もしっかり見えてん
だよなァッ!」
「ばあッ!」と一斉にフレームの外か
ら顔を出して、画面いっぱいになる付
喪神達。
第二回『魔女の飛行薬』終
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