あの頃、すべては学校にあった

@emiiokjii

第1話

1998年4月


 中学時代、ろくに勉強しなかった私は稼いだ内申点をもとに推薦をもらい、偏差値の低い高校に推薦入試枠で作文と面接で無事に合格して入学することができたこのM高校で3年間を過ごす。


勉強が嫌いで当時ハマってた演劇に興味を惹かれ演劇の学校に行きたいと親に話したけど、高校は普通科に行けと言われてどこでもいいから推薦が取れる高校へと進路を決めたらこの高校だった。

本来はもう少し偏差値が上の高校もあったけど、そっちの校風はお前に合わないと先生に言われてM高になった。

夏休み中の学校見学も行ってないからどんな高校か全く知らないで入学を迎えた。

演劇部はあるって言ってたから演劇部に入部予定ではいるんだけど、はたしてどんな3年間をこの高校で送るのか、実はちょっと楽しみだったりもする。


桜も散りアスファルトに落ちた茶色くなった桜もどこかに消え、過ごしやすかった涼しい気候も徐々に日中の陽射しが強く感じてきた。

入学して2週間ちょっとが経過した。


昨日席替えをした教室の席では、私は窓側から三列目の1番後ろの席になった。

隣は男子のケイ。

確か、入学式の日に式が終わってから突然、勢いよく教室の後ろのドアを開けて無言で入ってきた彼。

私は驚きすぎてこの人はなんなんだ、入学式から遅刻?と思った。

サラサラなストレートで少し陽に当たると茶色くて、耳もすっぽり髪で隠れておまけに前髪も長くて目が隠れてる。

目の前に行って「前見える?」って前髪かきあげてあげたいくらい、その髪型でよく見えるなぁと思った。

おまけに体が細くてなよっとしてる。

私より細い。羨ましい。

いや、憎たらしい。

あんな男子が世の中にいるなんて。


そんな不思議な男の子の隣の席になってしまった。

ところがどっこい、私のストライクゾーンなんだよなぁ。

カッコいいの。恋愛対象なの。


中学では同じ人に2年間も片想いして、その彼が彼女と別れるたびに告白してはフラレ、それを幾度となく繰り返した挙句、私は彼と交際して別れて疎遠になるくらいならずっと友達でいよう。

彼となら大人になってもずっと友人でいられる関係のほうがのちのち自慢になる。と思った。

そんな片思いで終わった中学生活とは違って、高校では恋愛を謳歌したいと思った。

だから思い切って休み時間に話しかけてみたんだ。


「ねぇ、私エミです。よろしくね。」


と隣の席に座ってる彼の顔を覗き込むように話しかけた。

小さな声だったけど、男子にしては高めの声で返事してくれた。


「あ、はい。よろしくお願いします。」


なぜ敬語•••。

私は目を見開いた。


「ところでさ、その前髪、ウザくない?見えてる?」

「見えますよ、大丈夫です」


••••会話が続かない。

「どこからきてるの?」

「S駅です、最寄り」

「あ、じゃぁ私途中まで一緒。今日よかったら一緒に帰らない?」

「今日は同好会に顔を出したいので時間合わないですけど。」

「邪魔じゃなければついて行っていい?だから一緒に帰ろう。私、実はずっとあなたと話がしてみたいと思ったんだ。」

「はぁ。いいですけど、変わってる人ですね。」


はぁ、って言われたぁー!?

ちょっとズカズカいきすぎたかな!?

内心ハラハラしながらも強気な表情を崩さずに、こういうの慣れてるような素振りで頑張る自分を演じてみせた。


がんばれ私。

高校では変わるんだ。


放課後、彼は教室を出て斜め向かいの教室に入っていった。

ドアにはA4の紙に手書きで「模型同好会」と書いてある。

入学してまだ2週間ちょっとしか経ってないのにもう部活決めたんだ?

すごいなぁ、しかしコアな同好会があるなぁ。


「ちぃーす。」

彼が1年生とは思えないくだけた感じで扉を開けるからさらに驚いた。

教室では敬語だったのにこのくだけた挨拶はなに!?

同好会メンバーもくだけた様子で彼を迎え入れる。

「おぅ、ケイちゃん、おつかれー。」

打ち解けるの早!

ケイちゃんて呼ばれてる!?

え、この彼何者よ!?

先輩からもうそんなにくだけた感じで受け入れられてるなんて見た目によらずコミュ力高いのかな?

「クラスの子?」

「初めまして、エミです」

「どうもー、ケイちゃんのことよろしくね」

「は、はい•••?」

いきなりよろしくねと言われてもなにをどうよろしくすれば??

「おれヒトムって言います。エミさん、彼ね、美術部と掛け持ち、俺も美術部なの。」

「へぇ。」

こんな短期間で2つも入部したんだ。

しばらく親しげに話しこむ彼らを一歩下がって私は見ていたら、しばらくすると突然こう言って帰るタイミングを切り出した。

「じゃ、俺はこの辺で、エミさんに一緒に帰ろうって言われたから今日は帰るわ、また明日」

そういって同好会を出ると私も先輩に一礼してその教室をあとにした。


「ちょっと教室戻っていい?帰る前に座って話そう」

そう言ってすぐに教室の自分の席に座る。

向かい合って話したいし、教室はもう誰もいないので彼の前の席に私は座ると彼が喋り出した。


「で、話したいことがあるんだよね?あなた本当に珍しいね、こんな俺と話したいことある?」

もっと自然に帰りながら喋ることができればそれでよかったのだけれど、あえてこんなふうに場を設けられるとドキッとしたけど、作り出したキャラで頑張って喋ってみることにした。

「私、あなたのこと入学式の日から気になってたの。当日に遅刻してくるし、校内のこと知り尽くしてるし、さっきも先輩とタメのように話すし、入学してまだ間もないのに。なんだかいろんなことがカッコよく見えて。」

「え?エミさん知らないの?」

ケイはキョトンとした顔で私に聞いてきた。

「何を?」

「俺、留年してるの。実際はあなたたちの一個上だよ。2回目の1年生だよ。」


りゅうねん・・・?りゅうねん、りゅう、留年!!!


「え、留年てあの留年?あ、だからかぁ!ケイってほんとは2年生なんだ?」

「そうなの。うちのクラスのみんな大体知ってるよ?知らないの珍しいよ(笑)本当に俺に興味あった?」

「え、いや、だってそんなこと一言も・・・」

「俺だってわざわざ言いふらさないよ、いつの間にかみんな知ってたよ。」

「マジかぁー。」

「で?他に知りたいことは?質問答えますよ?」

実は歳が一つ上だってわかっただけで、急にケイが大人に見えた。

「あの、私、ケイのことが好きなんだ。お試しで1週間でもいいから付き合わない?」

少し前に読んだマンガで主人公が告白して振られるんだけど1週間でもいいから付き合って見定めてほしいって言ってるシーンがなんだかかっこよく見えてちょっと真似したいって思ってたんだ。

今使っちゃった。

「これはまたぶっとんだねー(笑)嫌いじゃないよ、そういうの。いいよ。今日から1週間ね。付き合おっか。」

あっさり返ってくる言葉に驚いた。

「え、あ、いいんだ?じゃぁよろしくね」


こうして1週間限定の彼氏彼女生活がスタートした。

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