ミクリヤの砂消し
「えっ、珍しい……。どうしたの突然? 雨でも降るんじゃない?」
机に向かって真面目に勉強しているぼくに、母ちゃんが笑いながら言った。
「なんて失礼な! ぼくだってやる時はやるんだ!」
「ははははは! はいはい、そうだね笑っちゃ悪いよね。ははははは!」
まったく……言ってるそばからこれだ。ぼくはまたひと言言い返してやりたくなったが、グッと堪えて開いた教科書に目を戻した。
「そうか……そんなに頑張って勉強しているなら、儂も協力しよう。静かにせんとな」
床の間にいた爺ちゃんがそう言って、テレビの電源を消した。
「ありゃ、なんか急に暗くなってきたぞ。こりゃ本当に……。光子さん、洗濯物は」
爺ちゃんがそう呼びかけたと同時に、後ろでカチャカチャと音が鳴った。見ると、既にベランダに出ていた母ちゃんが、籠に洗濯物を取り込んでいた。つまりそれは、本当に雨が降ると思ったという事なのだ。
「うう……ちきしょう。絶対に最高点を取ってやる……」
「ん、なんか言ったか? あ、そろそろやるかな」
爺ちゃんはリモコンを取り、またテレビの電源を点けた。
切っ掛けは昨日の朝の事。教室に入り席に着くなり、後ろから女子ふたりの会話が聞こえてきた。
「ねえ、相談があるんだけどさあ」
「なあに?」
「今度の"母の日”に何を贈ろうかと考えてんだけど、良さそうなの思いつかないんだよねえ……」
「え! そうか再来週か。う〜ん私も去年迷ったんだよねえ。そうだ、ヒナに聞いてみようよ。あの子なら面白そうな物知ってそうだし」
母の日か……去年はエプロンを贈ったなあ。その前は……エプロン。で、さらにその前は……前掛け。
「だめじゃん!」
思わず立ち上がり叫ぶと、女子達が会話を止めこっちを見た。
「なに……? いきなり……あ、ヒナおはよう! 今ちょうどあんたの事話しててさ」
「おはよう! 何? 何の話!」
御厨雛子は、ぼくの右隣の席に座ると、ランドセル代わりにしている手提げ鞄をドサッと机の上に置いた。名探偵が愛用してそうな、古めかしい旅行鞄だ。
「あ、何の話かわかったぞ。いや、こういう時は『よし! わかった!』か。きっと君達」
「母の日が近いじゃん! だから何か面白い物あれば教えてほしいなって」
「ふぇ……母の日って……? おほん、いや思った通りだ。う〜ん、そうだなあ」
そう言うと御厨は鞄を開けて、ゴソゴソと中の物を物色しだした。確かあれには勉強道具の他に、巷では中々手に入らないという妙ちくりんな品がたくさん入っているという。ぼくも気になり覗こうとしたが、隣に来た女子ふたりが邪魔になり何も見られなかった。
「あ、なにこれ! ヘー、こんなの初めて見る。さすがはヒナだね。いつも思うんだけど、こうゆうのどこで探してくるの?」
「ふふ……それは企業秘密ってやつさ。それより気になったんだけどさあ、こういう時は面白そうな物よりも、喜ぶ物を贈るべきなんじゃないのかなあ」
御厨はボサボサのショートヘアを、鞄から出したお釜帽で押さえつけながら言った。クラスメイトもぼくも、すっかり見慣れてしまっているから何とも思わないけど、知らない人が見たら、とてつもなく変わった小学生だと思うだろう。いや、実際そうなのだけれど……。
でも、今あいつが言った事は正論だ。思い返せばぼくは、母ちゃんを数え切れないほど困り顔にしてきたものの、笑顔にさせた事はたぶんそんなにない。この前のテストだって……さらにその前のテストだって……。
「よし決めたぞ!」
ぼくは拳を強く握って叫んだ。
「次こそ百点! は難しいかもしれないけど、自分史上最高の点数をとってやる! そんでもって日曜になったら答案用紙を母ちゃんに」
「さっきから何なのこいつ」
女子ふたりが、冷やかな視線を僕に浴びせてきた。
「あ……ううん、別になんでもない、ごめん」
「たくっ、本当男子ってこんなのばっかだよね。ねえ、ヒナ」
その時御厨がどんな顔をしてこっちを見ていたかは、やはり女子ふたりが邪魔になってわからなかった。
「何してんの? 早く校庭に行こうよ」
昼休み、いつものように武が声を掛けてきた。
「ごめん、ぼく今日から次のテストの日までは、休み時間も勉強すると決めたんだ」
「え、勉強! おまえがなんで? みんな来てくれ、大変だ!」
武の呼び声に、クラス中の男子が集まってきた。
「え、勉強! おまえがなんで?」
みんな武と同じ事を言う。百年ぶりに大雨でも降ったかのような反応。いくらなんでも騒ぎ過ぎ、というかあんまりだ。
「ねえ君達、可哀想だよそんなに騒いじゃ。集中出来ないじゃないか」
と注意してくれたのは意外や意外、隣の席にいた御厨だった。
「う、うん……。そうだよな、こんなに頑張ってんのに。こっちこそ悪かったよ、じゃあテスト明けにまた遊ぼうぜ」
武が頭を下げ、みんなを引き連れて教室を出た。後にはぼくと御厨だけが残った。
「あ、ありがとな。助かった」
「ううん。でも本当にどうしたのかなあ? 君そんなに勉強する子だったっけ……ひょっとして何か理由でもあるのかい?」
「え、うん……まあ理由って程でもないんだけと……うん、まあ……何でもないよ」
ぼくが答えを誤摩化したためか、御厨はほっぺたを少し膨らませてから頬杖をついた。
怒らせてしまったのかなあ……せっかく助けてもらったのに。
思わず指に力が入り、鉛筆の芯がポキッと折れてしまった。
「あっ、やべえ……」
「あっ……他に代わりの持ってきてないの?」
「うん。普段勉強なんてしないから。鉛筆削りだって家に置きっぱなしだし。ごめん、貸してもらってもいいかな?」
ぼくが頼むと御厨はニヤリと笑って、例の鞄からよく削れた鉛筆を一本取り出した。
「よし、今日だけ特別にいいものを貸してあげよう。これはね、一見普通の鉛筆のようだけど、実はさる村に生えていた御神木を材料としたものなんだ」
「御神木? あの神社とかにある木?」
「その通り。昔その木に雷が落ちて砕けたんだけど、村人達が破片を保存していたんだって。で、その中には道具として利用されたのもあって、そのうちのひとつがこの鉛筆というわけ」
「そんな大事なもの、簡単に使っていいの? なんか怖いし……」
ぼくがオドオドして言うと、御厨はそっとぼくの机の上に鉛筆を置いた。
「道具っていうのは、使われるためにあるものさ。この木だって、鉛筆にならなければ、ずっと破片のまましまわれてたわけでしょ。それなら、困っている誰かを助けるために使われた方が、神様も喜ぶんじゃないかなあ」
「なるほど……確かにそうかもしれない。ありがとう、じゃあ遠慮なく使わせてもらうよ」
ぼくは鉛筆を手に取り勉強を続けた。不思議な事に、それまでよりもスラスラと文字が書けていくような気がした。右手だって段々と軽くなっていき、まるで鳥の羽根みたいだった。
「この鉛筆すごいね! きっと神様の」
「言っとくけど」
御厨は人差し指を、ぼくの顔の前に立てた。
「それは今君が困っていたから貸したんだよ。貴重な物に変わりはないの」
「そ、そりゃあもちろん、ちゃんと返すよ。でも、出来れば放課後まで借りていたいんだけど」
「ふぅー、いいよ。帰りに返してもらえれば」
「よかった、ありが……え! 何くわえてんの!」
ぼくの目は、名探偵が愛用しているようなパイプに釘付けになった。
「ああ、これ? いつも鞄に入れてるんだ。ぼくのお気に入りなのさ」
「いや、駄目じゃん! そんなの子供が吸っちゃ!」
「ふぇ……子供が吸うものでしょ? パイプチョコって」
「あ……」
ポカンとした表情の御厨を見て「やっぱり変な女の子だ」と口に出しそうになった。
それから五時間目が終わって帰りの会のあと、ぼくは御厨に改めてお礼を言い鉛筆を返し、大急ぎで家に帰った。もちろん、テスト勉強をするためだ。
でも、玄関を開けた途端、急に眠気と疲れが襲ってきて、机の前にたどり着くと同時にいびきをかいていた。
慣れない事をしたせいだな、きっと……。
そう思いながら見た夢の中で、ぼくは自分の名前が書かれた答案用紙を見つめていた。そこにはチェックばかりで丸はひとつもなかった。当然用紙の右上に書かれていたのは、二本線の上に丸、いやゼロだ
「うぅう……うぅう……」
「なんじゃ? そんなとこにいたのか?」
うなされていたぼくの目を覚ましてくれたのは、爺ちゃんの声とテレビの音だった。
その次の日からは、家でも学校でも猛勉強の日が続いた。
最初のうちは笑っていた母ちゃんに父ちゃん、それに爺ちゃんさえも、勉強机から離れないぼくを見守ってくれるようになった。
教室でも、みんなの見る目が変わってきているのがわかった。
「すぐに元のあいつに戻るよ」
と誂っていた武や他の男子達も、ぼくの気迫に押されたのか席には近寄らなくなった。
そんな周りの反応の中でも、特に気になる事があった。
「あの……ぼくの顔に何か付いてるのかな?」
その日の昼休みも、トロンとしたふたつの目がこっちを見続けていた。
「ううん、何でもないよ。今日も頑張ってるなあ、と思っただけ。ふあ〜あ」
御厨は大きな欠伸をしてから、お釜帽を脱ぎ机の上に俯せた。
「そういえば御厨さんて、昼休みはいつも教室にいるね。友達と遊ばないの?」
「うん。ぼくは学校が終わってから色々とやる事があるからね。この時間はまさに"休み時間”にしてるのさ。今日は特に昨夜の疲れが残っているから、この通り……ね」
「昨夜って、一体何をしてるの?」
「ん……しゅうしゅう……」
そこで言葉は途切れて、気持ち良さそうな寝息へと変わった。
"しゅうしゅう”って、収集ってことかな。鞄の中の妙ちくりんアイテムは、夜に集め回っているのか。
しかしこの娘、やっぱり鉛筆を借りた日から、ぼくに対する反応が変わってきている気がする。ずっとこっちをを見ている理由だって他にあるんじゃないかな……。もしかして……。
「あー、ヒナ寝ちゃってるよ」
「よっぽど疲れたんだろうね、なんか都会の方に行くとか言ってたし」
教室に戻ってきた女子ふたりの声で我に返ったぼくは、視線をノートに戻し、鉛筆を握り直した。
「よし。じゃあ、そろそろ準備しとけよう」
ゴンゾー先生が、束ねたプリントを列ごとに分けながら呼びかける。
遂に運命の日がやってきた。ぼくは筆箱から出した筆記用具を、机の上に並べた。
鉛筆はちゃんと3本ある。BとHBと2B、それに小型の鉛筆削りだって忘れていない。これで万全なはずだ。だが、何かが足りないような気がした。
「ねえ……大丈夫?」
御厨が心配そうな表情で聞いてきた。
「うん、もちろん。だって、この日のために努力してきたんじゃないか!」
「ふうん。よっぽど自信があるんだね、書き間違いもしないくらいに」
「あ……」
足りないのは、消しゴムだったのだ。
「なんてこったい……必ず何かを忘れる……ぼくって本当に駄目な奴だ」
「いいよ。消しゴムならぼくが貸してあげよう」
頭を抱えてうなだれるぼくに、この前と同じ調子で御厨が言った。
「あ、ありがとう。でも今日はいいよ」
「遠慮する事はない」
「ううん、いつも借りてちゃ悪いし。今から武にでも借りるから」
そう言うと、御厨はほっぺたを少し膨らませてから頬杖をついた。また怒らせてしまったのかなあ……。
「ごめん……じゃあ、貸してもらえるかな、消しゴ」
「そうかい! そこまで言うならとっておきのを使わせてあげるよ。えっと」
はしゃぐように鞄を開ける姿を見て、思わず「面倒くさい女の子だなあ」と口に出しそうになった。
「あったあ! これだ!」
と、勢いよくぼくの机に置かれたその消しゴムは、むき出しで、形も細長く見慣れないものだった。
「これって……もしかして"砂消し”ってやつじゃない?」
「その通り! どうだい?」
「どうだいって……。これって、普通の消しゴムでは消せないボールペンのインクとかに使うものでしょ? しかも文字を消すんじゃなくて、削りとるんじゃなかったっけ。テスト用紙は藁半紙のはずだから、破けちゃうよ」
そう言うと御厨はニヤリと笑って、砂消しと一緒に出したパイプチョコをくわえようとした。が、ゴンゾー先生の方を見て、すぐに机の中にしまった。
「あっぶなかったあ……。おほん、いやその砂消しはね、文字通り砂で消すものなんだよ」
「砂で消す?」
「そう。試しに字を書いて消してみて」
ぼくは机の中を探り、クシャクシャになった古いプリントを出し、適当に文字を書いたあと砂消しで擦った。
「あ! すごい、綺麗に消えてる。しかも、あんまり力を入れなかったのに」
「砂が字を覆うんだよ。色も藁半紙と同じだから全然目立たないでしょ、ちゃんとその上に字だって書ける。こないだの鉛筆が神の道具だとしたら、この砂消しは魔法の道具だね」
「魔法の……。一体これは何処で手に入れたの?」
「ふふ……それは企業秘密って」
「コラァ!」と、先生の叱り声が届いた。ぼくも御厨もスッと前を向き、回ってきたプリントを受け取った。
「それじゃあ、みんな準備いいか? よしテスト開始!」
先生の掛け声の後、教室中に鉛筆の音が鳴り響いた。
「よし、じゃあ今から答案を返却する。名前を呼ばれたら……」
今朝から心臓がバクバクしている。左胸に手を当て深呼吸をしてみたら、少し心が落ち着いた。
きっと大丈夫なはずだ。何度も問いた問題も出たし、山掛けだって当たった。でも、テストが調子よく進んだ一番の理由は、あの砂消しのおかげかもしれない。
「幸太……おまえ、流石にもうちょっと勉強してこいよ。で、次は」
いよいよぼくの名前が呼ばれた。席から立つと、先生の表情がわからないように顔を下に向けた。そして背中に御厨と武、いやクラス全員の視線を感じながら、教壇に進んだ。
「本当によく頑張ったな」
ゴンゾー先生にしては、珍しく優しい声だった。下を向いたまま答案用紙を受け取って見ると、右上の二本線の上には、自分史上最高の点数が書かれていた。
「よっしゃあ!」
思わず叫んだぼくの反応を見て、クラスのみんなも歓声をあげた。
「おめでとう。悪かったな、誂ったりして」
席に戻る途中、横から武が声をかけてきた。
「ううん。また昼休み遊ぼうぜ」
喜びを噛み締めながら席に着き右隣を見ると、御厨と目が合った。
「ありがとう! これも御厨さんのおかげだ……あれ、どうかした?」
「う、ううん。な、なんでもないよ……おめでとう!」
とは言うものの、明らかに様子がおかしい。目だって泳ぎ始めてる。
「ほ、本当におめでとう……あのさ、あとで話があるんだけど、いいかな?」
「はなし?」
「うん。大事な話だから……放課後、校舎の裏に来てもらえるかな……ひとりで……ね」
そう言うと御厨は目を伏せて、その後にぼくが何を尋ねても答えてはくれなかった。
それから午前の授業が終わり昼休みになると、またもや心臓がバクバクしはじめた。それは決して武達と走り回っていたせいじゃない。
ひとりきりで……校舎の裏……大事な話……この三つの条件が揃えば答えはひとつ。いくら鈍感なぼくにだって予想はつく。山掛けよりも簡単だ。
放課後、ぼくはトロンとしたふたつの目を思い出しながら校舎裏に走り、その相手を待った。
「……君」
名前を呼ばれた気がしたので振り向くと、鞄を持ちお釜帽子を被ったいつもの御厨がいた。
「い、言われた通りきたけど、そのう、話って?」
「あのね、あたしね……」
"ぼく”ではなく"あたし”と言った。思わずゴクリと唾を飲み込む。
「あたしね、謝らなくちゃいけない事をしたかも……」
「ほぇ……謝る?」
「うん……ちょっと、というか、急いで答案用紙を出して!」
ぼくは意味もわからず、急かされるようにランドセルを下ろして用紙を取り出した。
「さっき借した砂消しなんだけど、あたし、間違っておかしなの渡しちゃったみたいなの」
「え、ちゃんと最後まで使えたけど」
「それ……本当に大丈夫?」
「大丈夫って……ねえ、さっきからどうしたの? 全然なんにも……はっ! これは!」
見ると、紙に書かれた文字の上から、何本ものヤシの木がニョキニョキと生えはじめた。
「ど、ど、どういうことだえ!」
「や、やっぱりそうだ……ごめん……本当にごめんなさい」
御厨が申し訳なさそうに手を合わせた。
「あの砂消しはね、サハラ砂漠の砂から作られてるの。でも砂漠だけに、覆った場所からオアシスが出来てしまう事もあるの。は、ははは……まさに魔法の道具ってやつ……でしょ」
「"でしょ”じゃねえ!」
「ひい!」
「あ、ごめん……貸してもらっておいて……。でも、これは……これはちょっと」
あんまりだ……。そう続けて言いたかったけど、叱られた子猫みたいな顔になった女の子に、文句を言う事なんて出来なかった。
そうこうしているうちに木々の間から泉が湧いて溢れ、紙がビショビショになると、ぼくの目からも自然と涙が溢れた。
「うう……最高点が……」
ぼくは、用紙の切れ端を握ったまま校門を出た。後ろから御厨の声が聞こえてきたけど、振り向かずに歩き続けた。それは好きになった相手に、これ以上泣き顔を見せたくなかったからでもあるのだけれど。
しばらくすると、よく武達と遊びに行く公園が見えてきたので、涙が乾くまでそこで時間を潰そうとした時、誰かに肩を叩かれた。
「あんた何してんのここで?」
もう夕暮れ時だったので顔はよく見えなかったけど、それは間違いなく、買い物籠をぶら下げた母ちゃんだった。
「いつもこの道から帰ってんの? まあいいや、一緒に帰ろ。さっきミチルちゃんとケイちゃんのお母さんに会ってさ、すっかり話こんじゃって」
ミチルちゃんとケイちゃん……。あ、あの女子ふたりだ……。
「でね、聞いたよテストの事。頑張ったね、えらい!」
「うう……日曜になったら……母ちゃんに……」
「何よ? 泣いてんの? ほら歩こう、今日はお父さんも早く帰ってくるみたいだから、急いで夕飯作らなきゃ。もう、ほうら!」
母ちゃんに背中を押され、ぼくはまた黙って歩き出した。握っていた切れ端は、ソッとズボンのポケットにしまった。
「おお、珍しいな。ふたりで帰ってきたのか」
家に着くと爺ちゃんが笑って迎えてくれた。それから、帰ってきた父ちゃんと四人で夕飯を食べたあと、すぐに眠くなってしまったので、お風呂にも入らずに布団に潜り込んだ。
そしてその夜、とても不思議な夢をみた。
夢の中のぼくは、二週間前にみた夢と同じように、答案用紙を見つめていた。でも、そこには自分の名前以外に何も書かれてはいなかった。
「どうだい? この砂消しは魔法の道具だからね。綺麗に消えてる……でしょ?」
右隣から、よく知っている女の子の声がした。
「"でしょ”じゃないよ」
やっぱり……変な女の子だ。
(了)
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