【金色の裕者】「弱虫冒険譚-②-」

 アルガリア大陸西方——そこは魔女やエルフ、狩人の隠れ村などが存在すると言われている地域。僕は今、彼女に手を引かれながらそこへと向かっていた。


 足での移動だとそれなりに距離がある場所。お金はあるって言ったのに、なぜか彼女は僕の手を引いて走って向かっていた。

 もちろん「馬車を使おう」なんかの提案も出したさ。けれど、彼女は一切の反応を見せずにそのまま走っていた。



 そんなこんなで、道中出くわした魔物を討伐しながら、野宿も挟んでそこへ向かい、数日かけてようやく到着した。




 アルー村————


 かつては魔物と共存する、狩人を生業とする者が多かった隠れ村だった——しかし、村人一人の反乱により魔物が全滅させられ、現在では狩人のみの村となっている。


 ——そこへなぜ、僕たちは来たのだろう。彼女に引かれながら宛てもなく向かった先だが、彼女の目的は——



 アルー村の入り口へ踏み入れた時、それまで一切気配を感じなかったそこに、突如として人の気配が現れ始めた。


「ここへ何しに来た」


 ボクの背後にそれは立ち、僕に刃物のような何かを当てながらそう言った。

 ゴクリと唾を飲み込み、その場に制止する。とんでもなく殺伐とした雰囲気だ。少しでも動いたら殺されるだろう。


 と、そんな相手に対して、


「ただいま」


 フィリアは何食わぬ顔であいさつをした。




 フィリアの地元がこの辺だったらしく、このアルー村にも顔なじみなようだ。そのため、村にいる人たちとは、ご近所さんとお話しするかのような、実家のような安心感すら生まれている、ほっこりとした空気を漂わせていた。

 先ほどまでの殺伐とした空気が嘘のようだ。


 そして僕も、フィリアの同行者としてなんとかその場に受け入れられた。


 村は木造と石でできた建物が立ち並ぶ、森に囲まれた静かな印象だ。数多くの村人はみな、背中に大きな弓を背負っている——やはり狩人の村と言うのは本当のようだ。

 フィリアが村の人たちと話し込んでいる間、僕は適当に村の中を歩き回っていた。


 野生の動物が多く生息し、村の中を清らかな川が流れていた。かつては魔物と共存していたと聞くが、今では魔物の気配が一切しないな——



 適当に散策していくうちに、一か所のさびれた場所に出た。

 村の隅、木々に囲まれ隠されるようにあったそこは、数多くの墓が立ち並んでいて——その一つ、中央に大きく聳え立った立派な墓石。名前は——


『偉大なる狩人【ホーク】、ここに眠る——』


「——これこれ、ここは面白半分に踏み入れて良い場所ではないぞ」


 その時、一人の老婆に話しかけられた。


「さ、フィリアが待っておる。ワシについて来なさい」


 「誰ですか」と尋ねようとしたが、すぐにそう言われてしまったので、僕はその老婆について行くことにした——




 村の中で一番大きく、そして一番古そうで、一番立派な建物。そこに案内され、入ってすぐのところでフィリアが僕を待っていた。



 フィリアがこの村を訪れたのは、とある依頼クエストを攻略するため——。その依頼クエストはこの村でしか受注することができないものらしく、しかもその内容がまた異質なモノだった。


※ ※ ※


【ダンジョン攻略:エルフの里】

~?ランク~ 達成ポイント:1200pt


[メイン依頼]

ダンジョン調査


[目的地]

エルフの里跡地


[報酬]

・5000G

・エルフの薬


[特殊条件]

なし


[内容]

 かつてエルフの里が存在したその場所が、現在ではエルフアンデットによって占領されダンジョン化してしまっております。こちらのダンジョンを調査し、その原因を突き止め、解決してください。


[追記]

 多数の冒険者様によって調査を実行いたしましたが、何度倒してもエルフアンデットが治まることはありませんでした。そのため依頼クエストランクを「?」とし、達成ポイントもそれの準ずるものとします。


依頼クエストを受注しますか?』


『▶はい

  いいえ』


※ ※ ※


【ダンジョンとは】


 何かしらの理由である一定の魔物が無制限に湧いてしまい、それが原因で被害が拡大してしまっているような場所を総じてダンジョンと呼ぶ。

 ダンジョン認定された場所は冒険者ギルドによって封鎖され、原因が解決するまで一般人は足を踏み入れることすらできない。


 また、各種ダンジョンは、その最寄りの村や街から依頼クエストとして潜入許可を得ることができる。


※ ※ ※


「——本当にそこへ行くのかね、フィリア」


 その老婆は、依頼クエスト受付兼、村長を務める者だったらしく、フィリアを心配そうに見つめながら言った。


 ——だが、


「そのために冒険者になったようなものだから」


 彼女は何食わぬ顔で、その依頼クエストを受けた。


 彼女に手を引かれ、その場を立ち去ろうとする僕たち。不意に振り返ると、村長が悲しそうな表情をこちらに向けていた。



「フィリアを……あの子を頼みますじゃ……」



 僕たちは、その場所を目指すのであった——

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