間  話「裕者との会食」

 ヘトスからの依頼クエストを達成した俺は、疲れが溜まっていたこともあってそのまま宿へ戻ろうとしていた。そんな矢先、冒険の書に一通のメッセージが届いていることに気づく。


「——ポール?」


 それは、ポールからの会食の誘いだった。





「こんな時間にすみません」


 アルグリッドの噴水広場。もう24時を越えようとしている時間帯——真っ暗なそこに、見慣れた金髪が立っていた。


 申し訳なさそうに頭を下げるポール。


 たしかに、昼間会食の約束はしたが、まさかこんなに早いとは思ってもいなかったからな。彼なりに早く話してしまいたい事情でもあったのだろう。——もっとも、今の俺も誰かに話を聞いてもらいたい状態だったから都合が良かった。



 時間も時間だったのでほとんどの店は閉まっていたが、俺たちは二つ返事で出店に足を運んだ。



 古風な屋台式のその店は、夜の街に灯りをともしていた。


 三人分くらいしかない席を二つ占領し、俺たちは席につく。お冷が出され、俺たちは軽い飯を注文した。



 料理ができるまでの間、二人の間に沈黙が走る。


 お互いがタイミングよく「あの」と口を開き、「あ、どうぞどうぞ」と、再び気まずい空気が空間を支配した。

 だが、ポールが「クロムから話していいよ」と俺に振ってきたため、俺は軽く頷いて口を開いた。


「……ブリトニー……ああ、あの竜みたいな子、あの子今、医療棟にいるんだ」


「そう……ですか。大丈夫そうなんですか?」


「ああ、一応寝れば回復するみたいらしいけど——」


 そう言うと、急にポールがこちらに体を向け、


「本当にすみませんでした!」


 バサッと頭を下げた。


「————ッ! お、おいおい。頭を上げろよ」


「上げません。だってうちのパーティメンバーがクロムの仲間を傷つけてしまったから、だから……」


 おい、そんなこと言ったらこっちだって——


「おい、そんなこと言ったらこっちだっておんなじだよ。うちのブリトニーがポールんとこのフィリアさんを……。フィリアさんは今どうしてる?」


 ポールは頭を上げ、少し考えこみながら話し始める。


「フィリアは——同じく医療棟です」


「————ッ! 容態は!?」


「一命はとりとめました。……ですが、後遺症が残るようです」


 まてよ、それじゃポールも俺と一緒の——いや、それ以上じゃないのか。それ以上に、精神的に来ているんじゃないのか。


 それを、俺に謝罪をするためにわざわざこんな急に呼び出したと言うのか。自分の心のダメージよりも、俺のことを気にかけて————


「すまなかった————ッ! 本当に、すまなかった——」


 俺は、ポールと同じように——と言うよりそれ以上に深く頭を下げて謝っていた。それに対し、先ほどの俺と同じようにポールが頭を上げるように促す。


 と、そのタイミングで、


「へい、お待ちどう」


 飯が並べられた。





 温かい麺類の料理。

 湯気が立ち込めて、時間帯的に多少冷え込む今にとっては丁度いい温度の飯だ。


 ——だが、俺たちはそれらに手を付けることは、今のところなかった。先ほどまでの話が中途半端すぎて、手を付けようにもそのタイミングを失ってしまったからである。


 だが、そんな居た堪れない空気に嫌気がさしたのか、俺たちはそれぞれ口を開いた。


「なんか、変な空気になってしまいましたね——」


「そうだな」


 ゴクリッ、と、コップの水を飲み干す。


「……あの、ブリトニーさんの件もそうですが、

 試験が終わったすぐ後のこと、本当に申し訳ありませんでした」


「ああ、それはもういいよ。俺だって、素っ気ない態度をとって悪かった」


 ポールも俺と同じように水を一口飲む。


「「…………」」


 二人の空気は再び沈黙を呼び寄せ、






 ————そして、とうとう俺は限界を迎えた。


「……ぷっ、ははははは!」


 突然大笑いをしたからか、ポールは驚いていた。


「いやーすまない。どうもこの空気、慣れなくてさ。こんな固い話じゃなくて、もう少し柔らかい話をしようよ、な?」


 俺がふいに提案を出すと、ポールはハッとした表情になり、そしてうっすらと笑顔を見せて「そう……ですね」と答えた。そして、「話を振れ」と言わんばかりに彼が俺を見つめてきたので、


「……そうだな——」


 と、少し考える。そして、


「じゃあさ、ポールとフィリアの馴れ初めを聞かせてよ。——ていうかいつの間におまえらそんなに仲良くなってたんだ?」


「そうですね……じゃあ試験の時からお話しをしましょうか」


 個人的に気になっている話題を振り、ポールもそれに答え始めた。




 それからは、お互い少しずつ気持ちに余裕ができはじめ、ポールも同じように「俺とブリトニーとの関係」などを話題に話し合って、そしてお互いなんだかんだで笑いあった。


 さっきまでの重い空気とは違い、お互いの本来あるべき姿に戻ったのだと、俺はその時嬉しく思った。






 机に置かれた麺料理は、水分を吸い、これでもかと言わんばかりに伸びきっていた——

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