奇怪談「消えた足跡」
ブリトニーを医療棟に預けたすぐ後、俺は気がかりなことを確かめるためにギルド本部へと足を運んでいた。
相変らず賑やかなそこは、今の俺にとっては重苦しくてしょうがなかった。だが、今はそれどころではない。
俺は一直線に受付へと足を運んでいた。
「あら、クロムさん!
相変らずマーサは俺の心配を優先してきた。
俺はその話には一切触れずに、
「ああ、それよりも調べてもらいたいことがあって——」
そして俺は、ある人物の検索を依頼した。
ギルド本部で位置情報が検索できる。
つまりそれは妹の足取りを知ることができる最大にして最適な手だと言うことだ。
妹——マナの
で、俺はそれを頼んだわけだが——
「それはできかねます」
あっさりとマーサに断られた。
まあ無理もない。この方法は最終手段。さらには緊急時でしか利用できない奥の手。どんな時でもこれができてしまえば、プライバシーなど溜まったものではなくなってしまうからな。
「そうですか……」
俺が諦めて、その場を立ち去ろうとしたとき、
「ですが、安否くらいならこっちで調べますよ。——ま、本当はダメなんですけどね」
マーサが小さな声でそう言った。
俺は藁にも縋る思いで彼女にお願いした。
正直、安否だけでも確認が取れたら儲けもんだ。死んでいるとは思いたくないが、それでもそこははっきりさせておきたい部分でもあった。
そして、カチャカチャと彼女が検索をかけ——
「すみません、本当にそのお方は『マナ・ファーマメント』さんでお間違いありませんか?」
彼女は、とてつもなく不自然な表情をしていた。
俺は「そうです」と答え、再度確認を取るが、
「やっぱり……見当たらない」
と彼女は口にした。
彼女が言うには、その名前の人物のデータそのものが存在していないという。仮に改名手続きを行っていたとしたら、改名手続きを行ったという履歴が残るため、以前の名前でも足がつくと言われたが——マナの場合、『マナ・ファーマメント』と言う名前そのものが、初めから登録されていない——つまり、この世界にはそんな名前の人物はいない、と言う扱いになっているみたいだ。
このようなことは今までなかったらしく、マーサも困惑していた。
いや、俺が一番困惑しているよ。
こうして俺の旅に、また新たな疑問が追加されるのであった。
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