第24話「ブリトニーの成長」
ブリトニーにとっては初めてとなる魔物狩りを終え、俺たちはそのままアルグリッドへと帰る。そして、そのまま薬屋に足を運んだ。
「おや、またいらしてくださったんじゃな」
「
「それは良かったですじゃ。それと、昨夜はおらんかったが、そちらの娘さんは?」
「ああ、うちの仲間の
俺はそのまま角を三本渡した。
そして店主は昨日のように目の前で加速薬を造り、それを渡してきた。
「あ、それと、昨日と同じ薬——魔力薬を何本か貰えませんか?」
「はて、もうそんなに消費してしまいましたかの?」
「いや、一本だけしか消費してないんだけどさ、多分これから相当消費しそうだから、一応ストックとして、ね」
店主は顎に手を当てて深く考え込んだ。
そして、ブリトニーの方を凝視して俺に問いかける。
「もしや、魔力薬を消費したのはこの娘さんか?」
「……そうだけど、よくわかりましたね。俺ってそんなに魔法が使えなさそうに見えるかな……」
「いや、そうではないのじゃが……」
店主が再び考え込み、そして口を開いた。
「その娘さん、おそらく『予兆』が起きておる」
「予兆?」
確か予兆って、魔法に関する何かだった気がするけど。
「反応からしてそなた、魔法が使えなさそうに見えるから知らんのも無理はない。わしも魔法が使えるわけではないが、お客さんの中で同じ症状を訴えてうちに助けを求めに来る人も少なくないからわかるんじゃが……」
「…………?」
やっぱりそうっぽいが、なんだったっけ——。
「ここでの予兆とは、魔法の系統進化を意味する言葉じゃ。娘さん、おそらく魔法を使える者だと見受けるが、本来使っている魔法が進化しそうになっておるんじゃよ。そのため消費する魔力の効率が悪くなっておるのじゃ。その防具——おそらく魔防具じゃと思うが、魔法を使っていないのに魔防具からオーラが溢れ出しておるのが良い証拠じゃよ」
そうだ、思い出した。
この店主が言うように俺は魔法が使えないからはっきりと記憶していなかったけど、予兆ってのは魔力の乱れの原因にもなることだ。
なおし方があったはずだけど、どうだったかな——。
「それって、その予兆ってどうやってなおすんですか?」
「その娘さんの症状が本当に予兆なら、ギルド本部の電照板で魔力を調整すれば治るはずじゃが」
電照板——
個人情報の更新のみでしか活用方法がないと思っていたが、まさかそんなこともできるなんて。まあ確かに、魔力を流し込んで使う機械だから、何かしらできてもおかしくはないか。
「そうですか、良い情報感謝します」
俺は
※ ※ ※
「加速薬」を手に入れた——
200Gを手に入れた——
200Gを支払った——
「魔力薬」を手に入れた——
※ ※ ※
ギルド本部——
午後六時頃に差し掛かる現在は、日が沈み始めた夕日の美しい時間帯だ。
「あら、いらっしゃいませ。もう一度
「ああ、今日は魔力の調整に来ただけですよ」
通りすがった俺にマーサが声をかけた。だが、俺は軽く返事をし、そのまままっすぐ歩いた。
そして、正面受付のすぐ隣にある灰色の機械に触れた。
——どれどれ、普段は『個人情報更新』のボタンしか押したことなかったが、魔力調整は……多分この『魔力測定・調整』からだな。
俺はそのままそれを押すと、画面が切り替わり手を置くように指示が出た。俺はブリトニーに手を置くように言うと、
「——大丈夫、魔力を整えるだけだから。怖がらなくても平気だよ。……そうだな、魔力を流し込むイメージで——そうそう、鍛冶屋の時みたいに」
ブリトニーは少しためらっていたが、素直にそれに従った。
そして、「しばらくお待ちください」と言う声が電照板から聞こえ、それを待つ間ブリトニーの体の光が徐々に弱まっていくのが見えた。
数十秒の時間が過ぎ、電照板から「お疲れさまでした」と言う声が聞こえる。ブリトニーはそのまま手を離し、俺は画面を確認した。
※ ※ ※
~スキルが更新されました~
魔 法:【メテア】★☆☆☆☆
↓
魔 法:【メテア】★★☆☆☆
※【メテア】★★☆☆☆は一般的に【メテオラ】と呼ばれる魔法です。詠唱の際は【メテア】と【メテオラ】で使い分けてください。
※ ※ ※
よし、どうやら成功したみたいだ。
ブリトニーからあふれていた魔力も今ではおさまっているし。
嬉しいのだろうか、ブリトニーは手のひらで火の玉を浮かべながら頬を染めている。
マーサもぎこちなかった俺が心配だったのか、こちらに注意を向けていたが安心したような表情になっていた。
こうして、ブリトニーのちょっとした不調はさっぱりと消え去ったのであった。
★ ☆
数日の時が流れ、ブリトニーもある程度戦闘に慣れた。
現在ではウーサーラビットでは少し物足りなくなっており、それよりも強い魔物である猪型の「ファング」をターゲットに
「ファング」はウーサーラビットと同様、草原地帯の一角に生息しており、気性はウサギやスライムよりも荒い。そのため危険度が高く、報酬も多い。
ブリトニーは魔法を主に扱う魔法使い系のタイプかと思っていたが、どうやらそうでもなく、身体的な戦闘力も高いようで最終的には肉弾戦で決着をつけることが多かった。
だが、そんな彼女でも、相手から襲ってこない魔物に対しては決して手を出さなかったのだ。彼女にとっての戦闘は、自分の身を守るために必要なもの。だからこそ、自分に害のない魔物を無駄に殺そうとはしない、優しさにあふれた存在となったのだ。いや、「となった」ではなく「もとから」か。
そんな中で、当たり前のように無詠唱で「メテア」を連発していたブリトニー。ふと流れで新しく身に着けた「メテオラ」も無詠唱で唱えたが、何も発動しなかった。
それを横目に、「ポンポン無詠唱で発動出来たらそりゃダメだろうよ」と我に返って、すぐに冒険の書でメテア系の魔法について検索をかけた。
※ ※ ※
【メテア系統の魔法について】
メテア系の魔法には、「メテア」「メテオラ」「メテア―ラ」……と言う順の系統変化が存在する。
それぞれ魔法の威力が上昇すると同時に、その分魔力の消費が激しくなる。
【詠唱について】
火属性の魔法なので、冒頭はすべて「炎の精霊よ、我に力を与えたまえ」となる。詠唱によって魔法の形状を変化させることが可能だが、今回紹介する詠唱はすべて、基本となる「魔弾を飛ばす」ものとする。
・『メテア』
「火の玉でかの者を燃やせ、メテア」
・『メテオラ』
「灼熱の火球でかの者を焦がせ、メテオラ」
…
※ ※ ※
ブリトニーにそれを手渡したが、彼女は首をかしげていた。
そうか、冒険の書の内容は持ち主にしか見えないんだったっけ。
俺はその内容を読み上げ説明した。彼女はそれを聞くと、すかさずメテオラの詠唱を始めた。すると、巨大な火球が手のひらで生成されはじめ、それはものすごい勢いで草原を一直線に吹っ飛んでいった。
その後、それよりも上位種である「メテア―ラ」の詠唱も試していたが、やはり失敗に終わっていた。
こうして彼女は新たにメテオラを習得し、現在に至るのだが、思いのほか彼女はメテアの形状変化を応用し、自身の身を炎の渦で包んだり、地面に魔力を仕込んで、踏んだら火炎が飛び出す地雷のような扱い方もしていた。やはり、戦闘のセンスに関してこの子はとてつもない逸材かもしれない。
「ブリトニー、疲れてないか?」
「ええ、全然平気」
Dランク★★★
ブリトニーの戦闘力は、力や素早さなど、基本的なステータスは低いものの、魔法に対する才能に長けており、何より工夫を凝らす戦闘スタイルと言うか、そのセンスは俺よりも上かもしれない。
つい一週間前まで、魔物を恐れナイフすら握ることのできなかった少女とはとても思えない。
——ザクッ!!
ブギィィィィイイイイ————!!!!
「——終わった」
「お疲れさま」
倒した魔物の解体は、やはりまだ抵抗があるみたいで俺が任されるが、まあ仕方のないことか。
——ふう、こうして今日も
と言うより、ここまで強くなれたのならもう修行する意味もないのではないだろうか。正直これ以上俺が彼女に教えられることは無いような気もするし……。
一応このことも視野に入れながら、この先のことを考えていかなくては。
そうだな、初日は金がなくて断念した機関車を、明日にでも下見しておくとしようか。おかげさまで金はそれなりに溜まったし、何より一度機関車に乗ってみたかったってのもある。それに、船着き場へ向かう道中で魔物に襲われる心配もなくなるしな。
★ ★
アルグリッドへの帰り道、日の沈みかけている草原をブリトニーと歩いていた時のことである。突然冒険の書が大声で叫び始めた。
「キンキュウ! キンキュウ!
キンキュウクエストガハッセイシマシタ!
キンリンノボウケンシャハタダチニモクテキチヘトムカッテクダサイ!」
その後も「キンキュウ! キンキュウ!」と繰り返す冒険の書。こんなことは初めてだ、と、俺は冒険の書を即座に開いた。
すると、パラパラととあるページが開き——
※ ※ ※
【保護:ワーウルフの群れ】[緊急!]
~Cランク★☆☆~ 達成ポイント:50pt
[メイン依頼]
行商人の保護
[目的地]
霧の森
[報酬]
・5000G(変動の可能性あり)
・特殊条件達成で追加達成ポイント:10pt×討伐数
[特殊条件]
・ワーウルフの討伐(討伐数により報酬が変化)
[依頼者:旅の行商人]
近頃、霧の森で大繁殖したワーウルフによって、霧の森を交易ルートに持つ行商人たちが襲われる被害が多発しております。どうか奴らを駆除してはもらえませんか?
[追記](2分前)
お願いします、助けてください——ッ!
森を抜けている最中だったのですが、突如、奴らに囲まれてしまいました! まだ、まだ死にたくありませんッ!!
今はかろうじて木の陰に隠れ、依然送った
報酬はいくらでも払います!
ですのでどうかお助けください!!!!
『
『▶はい
いいえ』
※ ※ ※
「霧の森のワーウルフ——行商人の保護だって?」
この
そう、これは以前俺が目にしたワーウルフ討伐
あの時の俺は、自身の実力のなさやブリトニーのこと、そしてかつてのトラウマを言い訳にこれを放置していた。だが、どうやら他の冒険者たちも放置したらしく、それが原因で現在では手のつけようもないほどにヤバくなってしまったみたいだ。
緊急
だがどうする。草原地帯から霧の森はすぐ隣、距離としては近い。だが、今の俺たちで何とかなるのか?
「魔物に囲まれてるから助けろったって、どうやって……」
行商人を救うだけならそれでよい。だが、ワーウルフと戦闘にならないなんて保証はどこにもない。それに、どうやら近隣の冒険者の全員にこの通達が行っているみたいだが、俺たち以外の冒険者が参加するなんて保証もない。
最悪、俺たちだけで乗り込んで、行商人を救い出せないままワーウルフに襲われて終わりっていう展開も十分考えられる。
——行商人には申し訳ないが、今回はやめておこう……。
「行こうよ」
「————え?」
俺は耳を疑った。
その声は確かに、隣にいた少女からのものだった。
「魔物に襲われてるのなら、助けなくちゃ」
「でも、奴らは今まで戦ってきた魔物なんかよりももっと強力で——俺たちの敵う相手じゃないんだ。そんな奴らに俺たちの命を懸けるのはおかしい。だから——」
「そんなの関係ない。助かるかもしれないのに見捨てる方がおかしいよ」
俯く俺にハキハキとモノを言うブリトニー。
俺の手はブルブルと震え、彼女の顔を見ることができないでいた。だが、そんな俺の手をぎゅっと握りしめ、ブリトニーは言う。
「私を助けてくれた時みたいに、その人のことも助けてあげて」
その一言と彼女の手のぬくもりで、俺の震えは収まった。そしてブリトニーはそのまま、握った俺の手を引きながら霧の森へと向かっていった。
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