間  話「平和の宴」

 日が落ち、街灯の灯りと街中の家々からこぼれた光、それと巨大な焚火たきび数個で照らされた、賑やかな街並み。その中で、中央ギルド本部の前、円形に広がった噴水広場を中心に、人々は手を取り合って舞を舞う。


 演奏家たちによる華やかな音楽、それから吟遊詩人の歌とともに、たいまつを振るう者もいれば、道化がそれ以上に観客を賑わしていた。


それは人々が、心から願う姿、心から祝う姿。


 今宵は「平和祭」。

 かつて世界に平和が戻った今日この日を祝い、そして現在の災厄から、世界に平和が舞い戻ることを願ったお祭り。


 賑やかな音楽や人々の声は、街中を包み込んでいた。



 宿泊棟には、武器の手入れをする者や、アイテムを整理する者、何かと戯れている者など、明日の試験に向けて準備をする受験生たちの姿がある。金髪の少年ポールもまた、そのうちの一人であった。


 そして、賑やかな街の中に溶け込む者や、出店に並んで食い物を頬張る者、街の者たちとともに踊りを踊る者もいれば、はたまた高いところから街を見下ろす者など、今日と言う日をそれぞれの形で楽しむ者たちの姿も見られた。


 また、中には街の外に出て、魔物を狩る者たちの姿も——。

 

 一部の人々は、明日の試験のライバル潰しを企み、実行を試みる者もいたが、その策略も、試験官たちの監視の下、はかなく散るのであった。


 みなそれぞれ、今日と言うこの瞬間を、自分なりに精いっぱい生きているのである。



 そんな中、彼もまた、自分の時間を生きる一人であった。


 病室のベッドで寝込む少女。

 彼女のもとへと走る一人の少年。

 賑やかな街並みを、彼は一人駆け抜けた。


 そんな一人の少年もまた、今宵は風景の一つに過ぎない。

 彼が彼女と再会し、言伝ことづてで再び彼女の涙を誘ったとしても、それは、たった一夜の物語——。



 空には華やかで美しい一輪の花が咲く。

 平和を祝い、そして願い、受験生たちの健闘を祈るその花は、彼らの背を強く押すかの如く、何度も何度も、大きな音を立てながら咲き誇る。


 その花は、それぞれの場所から彼らの瞳に、それぞれの形で映り、そしてそれは、明日への勇気へと変わっていく。


 そして、平和の鐘が——その鐘の音が、彼らに宴の終わりを告げ——それぞれがそれぞれの思いを胸に、冒険者試験が、いよいよ幕を開けるのであった——。

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