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校門の外。
いつも塀を越えるための足場に使っていた、木の枝に身を潜め、一連のやり取りを見送る。
何日もこうして過ごして、はじめての収穫。それが七倉の姿じゃなかったことに若干の驚きを感じた。もちろん、身も知らない男子生徒の姿は写メに収めた。
男子生徒が去ったのを見送って、私は樹木から滑り降りた。男子生徒とやり取りをしていた男は今、バイクに腰掛けて携帯をいじっていた。物音に気づいて、こっちを睨んできたけれど。
「客? 聞いてねぇけど」
制服を見て、すぐに生徒だと気づいたようだ。敵視はすぐに引っ込んだ。
「事前予約が必要なんて知らなかったわ」
「店じゃねぇんだ。売りもんを持って歩いてるわけじゃねぇんだよ」
確かにね。後ろにあるバイクには、荷物を積めるような場所はなさそうだ。ムダにゴテゴテしてて、格好だけは気を使っているようだけど。
「連絡知らなくて」
「なら、注文は受け付けられねぇな」
結構、厳密なんだな。悪さをするなら、それくらいの条件は必要か。ムダに拡散して悪事が暴かれる危険性を犯すのは、どうみても自殺行為だ。
「バラさないわよ。こっちも、都合が悪いの。正規のルートじゃね」
「関係ないな」
携帯をしまってバイクに跨がろうとする男に、私は更に言葉を投げかける。
「ライダースを注文した生徒を探してるのよ」
興味を引けたようで、男は顔をこちらに向けた。
「生徒会か?」
「違うわ」
「無関係ってわけじゃねぇだろ。制服着てんのは、生徒会の犬だって噂だ」
全てを見透かそうとしているような目で、男は言った。
「事情通ね」
「客周りのことを知るのは当然だ」
男はヘルメットを手に取ると、体と挟んで抱える。
「何が欲しい?」
まさかの回答に、若干の戸惑いを覚える。
「良いの?」
「聞くだけなら、問題はねぇからな」
了解しているわけじゃないということだけを口にして、男は視線を反らしたまま口にする。
私への疑いが完全に晴れたわけじゃないにしても、敵とは見なされなかったようだ。
「ライダースの注文書。それと、注文した男子生徒の特徴も聞きたいわ」
男はふんと鼻で頷いた。
「高くつくぞ」
「構わない。お金ならあるの、それなりにね」
男はほくそ笑んで、だろうなと呟いた。かすかに聞こえただけの声に、続く言葉もなかったので聞き違いかと思う。だってそれはまるで、私のことを知っているかのような言葉だ。
男は何食わぬ顔で次の取引の日取りを提案してきたので、私は二つ返事で了承した。
バイクのエンジン音が、森の深くまで響く。
「七坊によろしくな」
男はヘルメットをかぶると、颯爽と森の奥へ消えていった。
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