2
去年とは違う、ひとつ上の階に教室がある。2年の教室は1年の時と違って、後方のドアが席に1番近い。わざわざ廊下を奥に進む必要がなくなったのは、実にありがたい。
教室に入ると、相変わらずの風景だった。
左手に窓。空席の目立つ室内。教卓では
私は後ろの掲示板で新しい席を確認すると、自身の席に向かった。窓から2列目の、後ろから3番目の席。去年と変わらない席順。見覚えのある横顔に目を細めながら、席についた。すると、なぜか前の席に座っていた見覚えのある横顔が振り向いた。
これも、学校に来たくなかった理由の1つなのよね。
「あれ~? 今日はあと帰るだけだよ~?」
2年から同じクラスになった
「なんであんたがそこに座ってるのよ」
「席順なんてあるの~?」
「張り紙あるでしょ」
「いいんじゃな~い? ココの人、出席してないみたいだし~」
相変わらずのうざいしゃべり方で、松ちゃんは私の席に肘を着いた。この学校始まって以来初の降格らしいが、本人は気にも留めていないようだ。先の噂も相まって、全校生徒に知れわたるのも時間の問題だと思うが。気にしないんでしょうね、【自称・落ちこぼれ】なんて自分から言うくらいだから。まあこの様子じゃ、自称の文字が消えるのも時間の問題でしょうけど。
「【魔王】からの手紙、見なかったなんて言わないわよね?」
まだ連絡事項を告げている薫ちゃんに気を使って、声を潜める。
「卒業してるのになんで届くんだろうね~?」
松ちゃんは一瞬首を傾げたかと思うと、今度は独り言のように呟いた。
「手下でもいるんじゃない?」
知らないけど。
学級委員の声が聞こえて、立ち上がる。遅れて、松ちゃんも席を立った。身長だけはムダに高いなと、視界を遮った紺色の背中に思う。号令を合図に、クラスメイトたちは帰り支度を始める。私は再び腰を下ろすと、携帯を取り出した。
「どうしたの~?」
「今日、委員会やるわよ」
分かっていることとは思うが、念のため、メンバーに招集メールを送る。松ちゃんは嫌そうな返事をしながら、着席した。松ちゃんの席じゃないはずなのに、机の横には学校指定鞄が掛けられている。松ちゃんのだ。私の席を確認したくらいだ。本当は、自分の席も確認していることだろう。
自然とため息がこぼれた。それを見計らったかのように、松ちゃんの隣の席に誰かが座った。
「ずいぶん遅い登校だね、大久保さん。今日はHRだけだって知らなかったのかな?」
こいつも相変わらず口の減らない。咄嗟に、ため息を咳払いに変える。
「それとも、予期せぬ事態の発生かな?」
エンジェルスマイルも健在か。彼お得意の笑顔も、今となっては悪魔の微笑みだ。
「どこまで知ってるのよ」
「さあ? なんの話かな」
相変わらず肝心な事はぼやかして、情報屋・
「はじめまして~、だよね~?」
私の机に肘を乗せるどころか半身を傾けて、松ちゃんが割って入ってきた。七倉の笑顔が、私から松ちゃんに動く。
「そうだね、松木くん。お父さんとお母さんに、この事はどう報告したの?」
自己紹介をすっ飛ばして、嫌味とは。感心する。
「なんのこと~?」
「松木くんの家って厳しいんでしょ? 最低クラスに落ちたって知ったら叱られたりするんじゃないのかなって思ったんだけど」
どうやら七倉は素性を隠す気はないらしい。
「君、誰かな~?」
松ちゃんはバカでも鈍感でもない。彼が【魔王】と仲が良い情報屋であることは、今ので大方の察しはついただろう。明らかに不機嫌になったのは、別の理由ででしょうけど。
「僕は七倉 悟。今年から君のクラスメイトだよ」
【魔王】はどこまでコイツに教えているのか。
考えただけでゾッとした。
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